競合店が閉鎖した時陥りやすい罠とは
「先生、今度、競合が閉鎖するので、売上が増えるから人も増やしてほしいと店長は言うんです。そんなことはないと注意してるんですが…」
とあるチェーンの経営者からのご相談です。
最近は、出店ばかりではなく、中小チェーンの破たんやM&Aによる競合閉店が相次いでいて、こういったご相談が入ったりします。
近隣競合閉鎖で、売上が増えたら、人を増やすのであれば、売上が減ったら人を減らすということになりますが、そもそも、そのやり方をしたら経営数値にどう跳ね返ってくるのだろうか?というとこから仮説をたてていかなくてはなりません。
――――現状の人時で、不足がどれぐらいなのか?ということを、店長と話をされていますか?
とお聴きすると
「特別なことはやっていません」とのこと。
こちらの社長が懸念されていたのは、これまでもこういった時、人については現状維持か増やすことで対応してきたつもりでした。
ところが、落ち着いて来た段階で、いざ減らそうとすると「発注が…」「レジで待たせる…」「品出しが間に合わない…」出来ない理由が出てきてコストが高止まり、減益にとなるという苦い経験からでした。
社長曰く、「売上が上がっても 人時は減らせるはず」と思っていても中々手を付けることができず、社長自らがセミナーにご参加になられました。
人時生産性とは、成長戦略に必要な利益を確保するために、コストをいくらに設定するか?を決めていくことです。
こういった取り決めをしないまま、売上がいくら増えたら何人増やす?といったどんぶり勘定を続ければ、世の中のコストがアップしているなかで、売上は増えても、締めれば減益ということになりかねないからです。
企業にとって、重要なことは、継続性であることは言うまでもありませんが、目先の売上を盾に、とにかく売上を作ることだけを、優先させてきたやり方から、そろそろ卒業しなくてはなりません。
ここで、ちょっと立ち止まって思い浮かべていただきたいのは、これまで着手し、今も続いている売上底上げ策についてです。
例えば、関連陳列販売、○○感謝祭、タイムセール、移動スーパー…等で、そういった販促強化策は、ことあるごとに、新らたな売上実績をつくってきました。
ところが今「その売上維持だけのために、販促アリ地獄という苦しい状況」に陥っていないですか?ということです。
確かに、その時々によって効果があったものも、環境の変化からすでに「役割を終えた」企画もあるはずです。
先の、関連陳列販売などもその一つで、批判を恐れず申し上げれば、メーカーの特定商品だけを強制的に売り込むために、カテゴリーを越え店舗内で何か所も売場展開することが、貴社の儲けになっているかどうか?ということです。
関連陳列販売はコーディネートやメニュー提案を起点に、関連性を持たせ販売することですが、そもそも、メーカー視点がはじまりで、特定商品を売るがための戦略です。
顧客がどんな順番で商品を選んでいるか?というよりも、メーカーの商品を一方的に売るために、大量の販促物を送り付け、その手間を店舗がすべて負担しているということです。
メーカーには、ひとつの商品を売るのにいくらまで人件費をかけてもいいのか?という基準はありますが、チェーン各社はこういった仕組みが無いため、売れるなら、人手コストはやむなしと考え、利益が残らない状況が繰り返されてきました。
冷静に考えてみればわかることですが、関連販売で、2か所展開ということは、ひとつの商品を品出しするのに、商品をもってその距離を毎回往復することなります。
これは、あるチェーンで、非効率業務調査のヒアリングをしていてわかったことですが、関連売り場先の特売終了後のPOPの取り忘れで価格間違いがレジで発生したり、また、季節によって、展開する商品が変わる為、お客さんから「ここにあった商品はどこ?」と聞かれても担当者以外誰もわからなかったりすることがあって、接客にも手間取っていました。
中には、売場で使いきれないメーカーからの大量サイネージが送り込まれ、倉庫に山積みになっていて、分別廃棄するのにも時間がかかるという笑えないことが発生していることもわかりました。
仮に品出し時間を、1アイテムを一箇所の棚に1分で時間を設定すると、2か所になれば、2か所分の2分がかかる計算です。
「そこまでは かかっていないと思いますが」という声が聞こえそうですが、
それでは、調べてみましょうということで、実際に調査してみると、1店舗で100か所以上で展開されていて、そのメンテナンスに毎日100分以上もの時間が費やされていました。
関連販売という小さな話ですが、チェーン店にとってみえば、1店舗1日1.6時間×365日=年間584千円です。10店舗でこれが行われていれば6百円万近くとなり、部長さん一人分のコストに匹敵します。
こちらのチェーンでは、関連販売を半減化させ、今後さらに縮小していくことに方向性が決まりました。しかし、売場の陳列アイテムを単純に減らせば売上は落ちます。
大事なことはこのコストを、さらに利益をあげていくことに引き当てていくということです。
そこで、展開場所を減らす代わりに、定番で品切れを起こさないように、品切れ点検の人時を設定し、それを店長は日々確認していくことで、粗利の改善策に着手することにしたのです。
1.6時間の半分の時間を、粗利改善のための品切れ点検と要因確認に振りかえたことで、月を追うごとに数値は変化していきました。取り組んだ店舗の1年後の数値は0.5%の粗利改善という結果をたたき出し、1店舗500万円以上のキャシュを手に入れることになり、社長の顔色が変わったのは言うまでもありません。
人時生産性改善とは、単なるコストカットではなく、利益を引き上げるためのコストの付け替えを行い、それを仕組みとして多店舗展開をしていくことがポイントになります。
詳しくはセミナーでお伝えしておりますが、人時生産性をあげていくためには、その手順があり、そのためにはこういった経営の柔軟なコストの活用方法と、それを考え出す思考の筋力トレーニングが必須となります。
一旦、そのやり方が店舗で定着しますと、細かく指導しなくても、目標値を設定することで、店舗が考えその方向に向かって動いていくことが分かります。
商売ですから、売上は良い時も悪い時もあります。それが分かるのは店長であり、その時の状況に合わせ、利益コントロールに導くための環境と、その活用方法を指導するのが経営の役割と言えます。
「個人個人で考えよ」と丸投げするのではなく「個人個人の力が発揮できる環境」を整え、「解決手順」を提示し実行状況を確認するのが経営の仕事です。
さあ、貴社では、個人に依存し現状維持を選択しますか? それとも、個人を尊重し、活かす方法で、収益を大きく変えていきますか?
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