見えている社長はなぜ目の前の問題に対処しないのか
「メタ認知力がある人って結局どういうことができる人なんですか?」―――先日、とある社長と一献傾けているときに出た質問です。
私はセミナーやコンサルティングの現場で常々「経営者にはメタ認知力が必要」とお伝えしていますが、メタ認知力とは一言でいうと「高い次元でものを考える力」ということになります。
冒頭の経営者にはそれは説明済みだったのですが、ではそういう人は日々具体的にどういうことができているのか知りたいとのこと。
この答えはいろいろありますが、まず挙げるとすると「(目の前の)具体で考えない」ということです。
高い次元で考えるということは、別のいい方をすると「抽象度を上げて考える」ということです。この世界は言葉でできていますから、高い次元というのは抽象度の高い世界ということになります。
そして、目の前の具体というのは、いま目の前で起こっている問題とか、その問題を起こした人物とか、その問題が引き起こした結果とか、そういうものです。
例えばある社員が問題を起こしたとして、それを「具体で考えて」しまうと、経営者としてその問題を起こした社員をどう教育したらいいかとか、このミスを未然に防ぐにはどうしたらいいか、という発想になります。
これが、メタ認知力のある経営者だと、この具体を「発想の起点」としてとらえ、全方位的に深掘りします。
例えば、
- この社員が見えていなかったことは何か?
- 彼よりもはるかにダメな社員でもできるやり方はないのか?
- こういう問題を起こさない社員と彼とでは何が違うのか?
- どういう採用方法を取ればこういう社員が入ってこないのか?
- こういう社員が他にも起こしそうな問題とは何か?
- この問題の発生原因が経営者である私の言動にあるとすればそれはなにか?
- この仕事の進め方とまったく違うやり方があるとすると、それはどのようなものか?
- この問題が起きたことによるメリットは何か?
というように、「この問題の対処」や「この社員の教育」といった目の前のことよりも広い範囲と深い深度で考えていくということです。
言うなれば、雨が降ってきたときに「傘をさそう!」と思うのではなく、「なぜ雨は降ってしまうのか」というぐらい根本から考えるような発想とも言えます。この発想がないと、社内で問題が起こるたびに「傘をさす」ような対処療法に終始し、問題はいつまでたってもなくなりません。
そうではなく、常に大元から、一歩引いて、俯瞰して、全体でものを考える...これがメタ認知力をもった人の発想です。
こういう考え方ができる人が常にやっていることがあります。
それは「疑う」ことです。
いま自分たちがやっていることや、これでいいと思っていること、あるいは問題と思っていること、それ自体を疑ってみる。
たとえば、自社商品が陳腐化してきたときに検討される、新商品の開発や商品リニューアル、あるいは新たな販売チャネルやマーケティング施策、そういったよくある手法自体を疑ってみる。
あるいは自社が身を置く業界時代が下火になっているとしたら、その業界という枠組み自体を疑ってかかる。
そのように、「いつもの自分の発想や考え方」を疑ってかかるということです。
こういった「疑う力」がなければ、世の中で言われている「正しいやり方」が普遍的に正しく見えてしまって、そのまんま自社に当てはめてしまったり、過去にうまくいったやり方に固執したり、ということになってしまいます。
よく「前にコンサルを起用したが全然うまくいかなかった」という経営者の言葉を聞くことがありますが、これはそのコンサルタントが(あるいはその経営者自身も)、「業界で通用しているやり方」や「過去にうまくいった事例」といったものを盲信するがゆえに起きる問題ともいえます。
しかし、いまのように変化が激しく多様化した時代に、一般的に言われている「正しいやり方」など通用するはずはありません。むしろそれらを疑い、新しい解を見出していかなければならないのです。
昔から欧米のエリート層が帝王学としてリベラルアーツを真っ先に学ぶ理由もここにあります。リベラルアーツとはよく「一般教養」と訳されますが、これは哲学などを中心とした「批判的思考」を学ぶ学問です。
批判的思考とは、野党的に文句を言ったり、やたら斜に構えたり、といった姿勢のことではありません。他人の考えに批判的になることではなく、自分が知らず知らずのうちに持ってしまっているものの見方や考え方を検証することです。
特に自分がいま強く信じていることこそ疑ってみることです。そして反対意見や突拍子もないアイデアをぶつけてみる。そのような思考の揉み合いの中で、手垢のついていない新しい答えは生まれます。
疑いようのないものを疑い、思考の枠を広げていきましょう。
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