規律と自由。社長は何を優先させるべきか
■1.経営活動を続けるとルールが増える
「トラブルが起きるたびにルールが増えてしまう。どうしたら良いですか」
全国的に有名な加工食品をOEMで製造するA社。この製品ラインだけで売上高が百億円規模にまで成長しました。同社の主力事業の一つになっています。この製品は、鮮度が売り。需要変動に柔軟に対応することや、原価を低減すること、新アイテムを開発することなど、得意先の要求は日々高まるばかりです。
一方現場を見ると、製造速度を優先すると精度が落ち、不具合が発生しやすくなります。つまり、歩留まり率が下がるのです。逆に、歩留まりを優先すれば速度が落ち、納期を遵守しきれない場合もあります。得意先の要求に応えつつ、社内のルールも満たすには…。社員は、板ばさみになりながら業務に取り組んでいます。
トラブルが起きると、得意先に報告書を提出しなければなりません。原因を分析し、対策を実施する。そのたびに、何らかのルールや基準が増えます。現実的でかつ効果的なルールであれば良いのですが…そうとは限りません。A社は何年もこの状態を繰り返していました。
ルールが複雑に絡み合い、組織を停滞させている。何とかしたいものの解決の糸口が見つからない。規律は必要だが、今こそ現状を打破する自由闊達さも必要ではないか。
経営者の悩みは尽きないものです。
そこで、このA社のM社長は、小島に相談を持ちかけました。
増え続けるルール。規律と自由。
社長として、いったい何を優先させるべきでしょうか。
■2.規律にこだわる社長
組織の力を引き出すために、社長は何をすべきでしょうか。
社員が好き勝手に振る舞えば、組織は成り立ちません。ルール(※1)で組織の秩序を保ち、社員が連携することで成果を出しています。日本企業の多くは、この規律が強さの源泉にもなっています。規律にこだわる社長は、この成功体験を大切にしているのです。
(※1ルールは、明文化した規範・基準だけでなく、暗黙の考え方や企業文化なども含む)
規律を重んじる統制型の組織は、ルールを設け、管理職が統率を図っています。基本は、数値による管理。現場社員も遵守することが求められ、業務を効率的に進めることができます。このアプローチは、環境変化が少ない時代にとってとても有効な方法でした。
しかし、ほとんどのケースで、顧客の要求を満たすはずだったルールの意味合いが変わってしまいます。決めたことを決めたとおりにやるだけ。ルールを満たすことが評価につながるから…。徐々に、社員が顧客ではなく上司を見て働くようになります。気がつけば内向き思考になっており、環境適応力が弱まっています。末期症状になると、目的が曖昧な資料づくりや、決定しない会議などで時間を浪費しています。さらに、現場を知らない責任者が決裁をしはじめるのです。そして、中堅・若手社員は、仕事がつまらなくなります。ますます受け身になり、組織に活力のかけらも見られなくなっていきます。
規律にこだわりすぎる社長は、この悪循環に気づかぬまま、社員を萎縮させます。
挨拶をする。時間を守る。約束を守る。相手を尊重する。最低限の規律は必要です。その上で、過度なルールが、我が社の首を絞めていないか、今一度我が社を振り返ってみましょう。
■3.自由を尊重する社長
組織の力を引き出すために、社長は何をすべきでしょうか。
規律ばかりで社員を萎縮させてはいけない。自由闊達さを大切にし、社員の活力・創造性を引き出そう。優れたアイデアから新しい価値を生み出し成果につなげるのだ、と考える経営者がいます。特に伸びているベンチャー企業では、この自由闊達さが強さの源泉になっていると認識しています。このように、自由を尊重する社長は、この成功体験を大切にしています。
自由を重んじながら自律している組織は、根本的な考え方・判断基準を共有し、リーダーが組織を導いています。独創的な個人が何らかのアイデアを出し、皆でどのように現実するのかにこだわります。公平性や透明性を土台に信頼関係をつくりながら、お互いに吟味しつつ、行動し続けます。困難を自ら乗り越えるプロセスを楽しみ、価値を創造することに注力しています。このアプローチは、環境変化が激しく先行きが見えない時代に有効な方法です。
顧客価値を生み出さなければ、企業は存続できません。外向き思考になれば、環境適応力が高まります。そして、仕事自体が楽しくなります。しかし、社員一人ひとりに高い能力が求められ、自ら律する力も必要になってきます。一歩間違えば、単なる放任組織となってしまう。組織として機能しなくなり、あっという間に崩壊してしまいます。
自由を尊重しすぎる社長は、律するポイントを押さえきれず、社員を迷走させます。
まずはチャンスを与えること。自ら考え、行動する機会を与えること。このように、当事者意識や主体性を持たせる着眼は大切です。その上で、過度な権限委譲が単なる放任となっていないか、今一度我が社を振り返ってみましょう。
■4.犬の散歩に見る規律と自由
規律がなければ組織は崩壊してしまう。しかし、自由闊達さがなければ新たな価値は創造できない。
規律と自由。社長はいったい何を優先させるべきでしょうか。
この答えは、犬の散歩にありました。小島は、愛犬の散歩をしているときに「なるほど!」と確信しました。
愛犬をつなぐリードがピンと張っているケース。愛犬の鼻息は荒く、常に前進しようとしています。リードを外したら、どこに行ってしまうか分かりません。交通事故も心配。この場合、飼い主は、愛犬の自由を制限しなければなりません。つまり、自由を優先する愛犬には、規律を設けます。
次に、愛犬が飼い主の歩調に合わせ、リードが緩んでいるケース。リードを外しても、同じペースで歩きます。かけ声一つで、飼い主の意向を認識し、ともに行動できます。飼い主は、愛犬を信頼している。制限する必要はありません。つまり、自律できている愛犬には、自由を与えます。
飼い主は、基本的な躾ができるまで、規律を重んじます。そして、愛犬が自らを律することができれば自由を与えます。必要に応じて規律と自由を使い分けるだけです。
これが、規律を自由を使い分ける原理原則です。
「意思を持った人間と、犬をいっしょにするな!」と怒られそうですが、どちらも同じ動物です。意思の有無に関わらず、どちらも喜怒哀楽の感情を持っています。そして、脳科学の観点では、どちらも無意識的に行動しているそうです。犬のほうが反応が単純な分、原理原則を見つけやすかっただけだと認識しています。
■5.組織経営における規律と自由
規律を設け、自ら律することができれば、自由を与える。あなたは、この原理原則を自社の経営にどう活かしますか。
実際に経営する現場、組織の中では、相手の意思やエゴがあったり、複数人であったりと、複雑になっています。しかし、この原理原則はかわりません。
(1)経営者と社員。上司と部下で、共通の目的・目標を確認する
(2)ルール・基準といった規律を設け、基本的な考え方や行動を身につける
(3)基本を身につけ、自らを律せられる人材に、自由を与える
(4)役職・役割に応じて一つ上の視点で(1)~(3)を繰り返す
という流れで規律と自由のバランスを見極めます。また、自由と一緒に権限と責任もセットで与えます。
(当然のことながら、最終的な責任はすべて経営者にあります)
これまでの経営を思い出してください。規律と自由の関係は、権限委譲の関係と一致します。また、ティーチングとコーチングの関係とも一致します。あなたも、すでに実施している部分があるのではないでしょうか。
■6.規律と自由。優先度を見極めた先にあるもの
- 社員や組織の成長レベルに合わせて規律と自由のウェイトを変える。
- 初期段階は規律を設け、規律の中で自由にやらせてみる。
- ステップが上がるたびに自由を与え、自由の中で自らを律せられるようにする。
初期段階で規律に抵抗する社員・組織は、先に許容できる範囲で自由を与えると良いでしょう。基本的な考え方や行動が身についておらず、失敗するケースが多いものです。痛みを感じたタイミングで、規律の重要性を伝えましょう。
自らを律し、共通目的・目標の達成に貢献できる社員は、相応しい役割を与えましょう。
自由に活躍できるフィールドを与えなければ、退職するか、組織の中で腐るか、このどちらかになってしまいます。役員に抜擢したり、子会社の社長に抜擢したり、パートナー企業として独立を支援しても良いでしょう。
そして、社長一人で、規律と自由をコントロールするのは不可能です。組織の規模に合わせて仕組みに落とし込みましょう。規律と自由を見極める仕組み。適切に、規律と自由を与える仕組み。そんな仕組みを、ぜひ構築してみてください。
貴社は、どのようにこの仕組みを構築していきますか。どのような仕組みで、規律と自由をコントロールしていきますか。ぜひ、経営の仕組みを見直してみてください。
※追伸
弊社は、規律と自由をコントロールする仕組みとして【業績3年先行管理の仕組みづくり】を公開しております。興味がある経営者様は、ぜひセミナーにご参加ください。
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