「売れる」だけが目的では、勝負には勝てない。
今朝、山のように積まれた洗濯ものを畳んでいると、子が部活で使うユニフォームのタグ裏に何か書いてあることに気がつきました。
「勝つ」ことだけが目的では、
勝負には勝てない。
このユニフォームはチームウエア専門ブランド「スクアドラ」のものです。奈良県にある創業76年のプリント加工メーカー・株式会社アクラムさんのチームウエアブランドです。スクアドラはイタリア語で「チーム」という意味だそうです。
まもなく新しい年がスタートします。大手広告代理店やシンクタンクをはじめ、来年のトレンド予測が出揃ってきました。色見本帳で有名な米国パントン社も11月下旬に2019年のテーマカラーを発表したばかりです。事業は逆算。ゆえに社会、市場、人の心情はどこに向かうか、ということを考える時期です。さまざまなセミナーなどで、高度経済成長期から脱高度成長期に至り、高度経済成長のシナリオはすでに古くなっている、いう話は認識されていると思いますし、わたくしのコンサルティングにおいても「最近お客さんがごっそり入れ替わっている」という過渡期の大転回を経営者さまと一緒に肌で感じながら事業を進めています。
例えば、今を生きるわたくしたちが、今をどう感じ何を求めているのか、脱高度成長期の日本人の精神の変容傾向をたどる道しるべとなるのが、NHK放送文化研究所の「日本人の意識」調査(2013年実施)です。この調査は1973年から5年ごとに行われてきた調査です。一つ一つの分析は別の機会に譲るとして、高度成長期1973年からの40年間の「精神の変化」をざっくりとまとめると三つの傾向が顕著です。
- 「家父長制家族制度」の解体
- 「生活満足度」の増大
- 「あの世や来世」「奇跡」への信心
このような現状の意識土台に、さらに2018年の世界の動きも積み重なってゆきます。自然災害、テロ、貨幣システムの変化、地球環境への配慮等々。直近では、英国の人気バンド「クイーン」のボーカル、故フレディ・マーキュリーの半生を描いた伝記映画「ボヘミアン・ラプソディ」が記録的大ヒットしています。性的マイノリティだったフレディ・マーキュリーの生き方を支持したのが、今を生きる女性たちです。現象と重なるように日本では働く女性が7割超えしたのも今年の出来事です。
2000年代に成人あるいは社会人になる世代をミレニアム世代と呼びますが、世界的にもミレニアム世代は、シンプルなものやナチュラルなもの、エシカル(人や社会、地球環境、地域に配慮した考え方・行動)なもの、持続するものに対する志向を持っています。2018年現在もこの傾向は続いています。
ターゲットの話で考えれば、かつてブームだった「アクティブシニア」市場。現実は劇的に変化し、寝たきりや認知症などの身体的衰えが増大した「重老齢社会」へ移行しています。老人が老人を支えている、家族以外の第三者たちで老人を支えているのが現実で、死生観、信仰心、奇跡への考え方なども変化してゆく予兆があります。
時代のパラダイムが変わりました。新しい年を迎えるにあたり、高度経済成長期の思考回路を一新する必要があります。わたくしたちが求められているのは「思考のリニューアル」です。過去の事例というバイアス、思い込み、刷り込みを一度終わらせなければなりません。頭の中を真っ白にすることです。過渡期を経て、やがて始まる新しい未来、新しい社会が自社の「何を」必要とするのか。自社の「商品サービス」は何のために生まれてきたのか。「わからないことをわからない」と言える度胸、覚悟、真摯な態度が求められています。
一方、時代がどんなに変わっても変わらないことがあります。それは「営みの本質」です。植物であれば一粒の種から芽が出てふくらんで花となります。ひとの子であれば這えば立て立てば歩めの成長です。経営の本質は、商品サービスを通してお客様をよろこばせ「繁栄」することではないでしょうか。もし繁栄していないとすれば、社会がその商品サービスを必要としていないということです。今に生きる“リアル”という基地から離れないことが商売繁盛の秘訣であり、リアルの傾向のひとつが「トレンド」です。
ひとびとの生活満足度が高く、モノ余りの時代、商品サービスそして企業に求められているのは「本質」です。本質とは「想い」です。作り手の想いとは「人の幸福とは何か」とか「人の欲求、欲望、願望とは何か」に対する考え方です。そしてその「想い」の熱量はどうか。ぬるいのか熱いのか、浅いのか深いのか、狭いのか広いのか、低いのか高いのか。無限なのか有限なのか、見返りを期待しているのかいないのか・・・。想いの「質」が問われています。「想いの質」とは作り手の人間性、人柄そのものです。
「売れる」ことだけが目的では、新しい時代の勝負には勝てません。商品サービスを受け取った〈今を生きる〉人たちが、幸せを感じる、幸せな気持ちになる本質が求められています。それを「情熱」と呼ぶのか、「理念」や「原理原則」と定義するのか、その言葉選びひとつとっても「考え方」。経営者の人生観、宗教観を積み重ねていく「哲学」となります。
コンサルティングの実務では「2019年のトレンド」について、活発な意見が交わされるシーズンです。新しい時代に求められている「本質」をつかんだとき、商品戦略のパラダイムが大きく飛躍します。来年に向けて大切な時期です。自社が、自社商品が何のために生まれてきたのか。御社の考え方をしっかりと方向づけましょう。経営哲学のリニューアルが要請されています。
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