社長が間違えやすい権限委譲の注意点
「今度こそは自分たちで考えて行動しろよ!」
「俺が責任をとるから自由に発想してやってみろ!」
何度も繰り返し発破をかけている。何年も言い続けている。しかし、国会の牛歩戦術を見るかのように、進捗の見えない社内改革。
一部の少数派社員であれば致し方ないものの、権限を委譲している役員・幹部社員がこの体たらく。就任当初はすぐに怒鳴ってしまうケースもあったが、下唇を噛みそうになりながらも深呼吸ができるようになった。
それでも出来ていない古参役員が上手に嘘をついてくる。何度もがっかりした。もうだまされない。社長としてその嘘を見破る術に長けてきた。案の定、具体的な状況を確認すると実態は進んでいない…。
「自由にやってよい!と言っているのに、何でやらないんだ!早くやれよ!」
思わず口にしてしまう。萎縮した雰囲気に反省しつつ、それでも我慢も限界である。
先代社長の時代はトップダウンの文鎮型組織でやってきた。自身が社長に就任前から、それなりに勉強し、それなりに社長業を続けてきた。そして、この数年はボトムアップの文化も育てようと注力してきた。
20~30人であれば、社長の指揮命令で組織を動かすことが出来る。人数が増え、観光バス1台分の40~50人が限界。100人、200人、数百人と従業員が増えるにつれて、権限委譲の良し悪しが組織運営の良し悪しに直結するという。
ある経営者の思考例です。
あなたの組織の権限委譲はどれだけ進んでいますか? そして、委譲した権限は適切に運用され、意図通りに機能していますか?
上記のような悩みをもつ組織は、権限委譲が上手くいっていないケースです。
今回は、<経営者が注意すべき権限委譲のコツ>についてお伝えします。
●権限委譲(エンパワーメント)の最大の注意点。
それは無意識に「丸投げしない」ことです。そして、権限を委譲する【前】と【後】の状態を予め配慮することが必要です。
当然のことだと思われるでしょう。しかし、以下のようなケースが頻繁に見られます。
(1)(前)社長の「余計なことを考えなくて良い。俺の言うこと聞け」というスタンスで育ってきた役員・幹部社員。経験年数が長いほど。自ら考えるのではなく、社長の指示・命令に従うというパターンが刷り込まれています。
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(2)(新)社長は“社員に自ら考え行動してほしい”“主体性をもってほしい”と考え始めます。そして、“権限を委譲しよう”と決め「自分たちで考えてやってくれ」と言い始めます。
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(3)役員・幹部社員は「こうやってやってみます」と恐る恐る提案します。すると「そうじゃない」と社長に注意されてしまう。何が違うのか、どのようにやったらよいのか具体的な説明はありません。社長はあえて説明しないからです。社員が「自ら考える」という力を育てようとしているためです。しかし、これが役員・幹部をさらに不安にさせます。
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(4)役員・幹部社員は、勇気を振り絞り「それでは別の観点で、このようにやってみます」と提案し直します。しかし、そもそもの思考力が弱く提案内容に限界があります。社員は、これまで「自ら考える」という機会が極端に少なかったからです。致し方ありません。
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(5)社長は、新たな提案に対し、良かれと思っていくつか質問をします。「最低限ここだけは押さえてほしい」という配慮ポイントを、社員が把握しているのかという点を確認するためです。すると、役員・幹部社員は、往々にしてまともに答えられません。そして、経営者はしびれを切らし、具体的なアドバイスをしてしまいます。「俺(私)の言うとおり、このようにやれ」というように。すると社員は、また萎縮していまいます。
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(6)社長は、前回の反省を踏まえ、もう一度“権限を委譲しよう”と決心します。しかし、同じことの繰り返し。上記(2)~(5)を繰り返し、やがて役員・幹部社員からの提案が無くなってしまいます。すると、権限委譲の失敗が確定してしまいます。
この問題は、経営者なりに配慮したつもりでも、社員の立場では「あるある」の話です。社員の立場では、そもそも自ら考える機会・トレーニングの場がなかったため、丸投げと感じてしまうのです。
立場が変わればイメージがわくかもしれません。もしあなたが普段全く料理をしない経営者であれば、休日、妻に「冷蔵庫の材料で家族分の夕食を作っておいて!」と言われた所を想像してください。例え話です。クックパッドでレシピを調べるという知識や、冷蔵庫の中に余りものもなくレンジで温めるだけでは済まない、という条件で考えてみてください。
料理のメニューや調理の手順が浮かばない方もいれば、調理器具や調味料の場所も分からない方もいます。それでも、とりあえずやってみようと試しにつくり始めます。すると、妻のこだわっているキッチンの作法に反したらしく「なにやってるの!ちがう!」と言われてしまうことでしょう。
そしてこう感じるものです。「丸投げされても分からないよ」と。
役員・幹部社員に権限を委譲しても、いつまで経っても社員が自ら考え行動しない場合があります。このとき、「ひょっとしたら、我が社にこのような悪循環が起きているかもしれない」という視点で冷静に社内を見つめてください。
役割を任せる経営者は、気づかぬうちに権限委譲という名の「丸投げ」をしてしまいやすいものです。
●権限委譲(エンパワーメント)のポイント
それは「ステップバイステップで権限を委譲すること」です。
これも当然だと思われるでしょう。とはいっても漏れがあるかもしれません。以下を確認してみてください。
□STEP1:
権限を委譲する目的・目標にあわせて人選(役職・部門など)をする。
□STEP2:
権限を委譲する目的・目標を伝え、挑戦したいという気持ちにさせる。(失敗を許容する)
□STEP3:
権限を委譲する範囲・方向性を伝え、自ら考え行動するイメージを持たせる。
□STEP4:
権限と責任を明確にし、挑戦することが評価につながることを理解させる。(評価を保証する)
□STEP5:
委譲した範囲に関するルール(判断基準・上限や下限・報連相の基準)を決め、共有する。
□STEP6:
応援するスタンスで辛抱強く見守るとともに、各種制度を見直していく(職務権限規定や評価報酬制度、教育訓練制度など)。
いきなり人事制度に着手して仕組みで権限委譲をすすめるケースもありますが、あまりおすすめしません。
ステップバイステップで権限を委譲することをおすすめします。具体的には、トライアルで数名の役員・幹部社員に対して権限委譲を進める。そして、人選、委譲範囲、方向性、判断基準など、仕組みに落とし込むための見極めをする。その上で、各種制度を見直すという流れです。
権限委譲は、会社・業界によって緊急度が低いテーマかもしれません。しかし、重要度はとても高いものです。中長期的に権限を委譲し、我が社を自立した組織に成長する。変化の早い経営環境を乗りこなすには、必須条件だといえます。
また、このプロセスを通じて、経営者は自身の人間力を試されます。
権限委譲は、将来を見据え、自分でやったほうが早いことをあえて他のメンバーに任せていくことです。かつて自分が犯したミスを、委譲した役員・幹部社員も間違うかもしれません。それでも許してあげること。致命傷にならなければ、失敗からも学ばせる器が必要です。
役割も責任も、委譲する前も委譲した後も、その仕組みづくりも結果も、全てを引き受ける経営者は、これをやり遂げます。表向きでは「権限委譲」とウソをつく。それを真に受けた役員や幹部社員は、自己責任の意識を持って自ら考え行動し、成果につなげます。経営者が、全てを引き受けるという覚悟を持つと、それが社員に伝わります。そして、社員は、それぞれの立場で自らも全てを引き受けようと覚悟するようになります。
この善循環が回りだした組織は、とても強く働きがいのある会社になっていることでしょう。
お互いが信頼し合い、お互いに協力し合い、それでいて一人ひとりが自立している。御社が、一歩でもこの状態に近づけば嬉しい限りです。
●業績に直結し、しかも権限が委譲される仕組みとは
権限委譲を進めたいという社長は多いものです。しかし、上記のSTEP1~6の手順で辛抱強く進めるには時間も労力もかかります。「正直なところ大変そうだし、業績に直結するわけでも無い(間接的には影響するが)。重要性はわかっていても緊急性が低い。」このように考えて、多くの経営者は、投資の意思決定ができません。
それでは、もし、「業績に直結し、結果として権限も委譲できる。そんな仕組みがある」と聞いたらいかがでしょうか。
一度詳しく話を聞いてみる価値、導入を検討する価値があるのではないでしょうか?弊社は『「業績3年先行管理」の仕組みづくりセミナー』を通して、そのヒントをお伝えしております。
- 業績向上に直結する仕組み
- 結果として権限委譲につながる仕組み。結果として人も育つ仕組み
- 「働き方改革」にもなり、社員や組織が自ら考えて行動するようになる仕組み
もちろん設計・導入から運用・定着までそれなりに時間はかかります。しかし、これをやらない会社は、目の前の重大なチャンスをみすみす見逃しているのではないかと感じております。
経営者としてどこに投資をするのか、勝負ポイントを的確に見極めること。ぜひ、一粒で何倍にも価値が膨らむ、そんな仕組みづくりに挑戦してみませんか。挑戦したい経営者様との出会いを楽しみにしております。
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