社員に主体性を求める社長は、組織を腐らせる
「何度も言わせるな」「自分で少しは考えろよ」「当事者意識は無いのか」
多くの経営者は、<社員の姿勢>に頭を悩ませます。
自社の進むべき方向性に沿って、とにかく結果をだしてほしい。そのためには、『自ら考え行動する主体的な社員=自立型社員』が増えてほしい。『受け身で指示待ちの社員=依存型社員』はいらない。業績も停滞するし、変革も進まない。
経営者の率直な願望です。
しかし、社員一人ひとりの顔を思い出すと、とても満足できる状況ではありません。
- 同じやり方で指示・命令を繰り返し、仕事をした気になる幹部社員。
- 同じやり方で仕事をこなし、決して挑戦しない中堅社員。
- 評論家きどりで批評をするが、指示したことしかやらない若手社員。
かつて主流だったトップダウン型のマネジメントだけでは、限界がある。ボトムアップ型の要素も強化し、自ら目的を達成する組織になってほしい。
社長が“自社の社員や組織に主体性を求めること”は、当然の流れです。しかし、実際は社長が主体性を求めれば求めるほど、逆効果になるケースが多いものです。そして、求め続けることで社員をさらに依存させ組織を腐らせます。
いったい何が問題で、どのように回避したらよいのでしょうか。
根本的な問題は、経営者の捉え方にあります。あなたは、【自立】や【依存】という言葉をどのように捉えていますか?
冒頭のような愚痴をこぼす経営者は、気づかぬうちに
・【自立】→ 良いこと・価値があること
・【依存】→ 良くないこと・価値がないこと
と認識しています。
つまり、無意識のうちに【自立】と【依存】を<対立するもの>として捉えています。≪ 【自立】○ ←→ 【依存】× ≫
もし、「対立するものだ」と捉えていれば、それが根本的な問題です。あなたの解釈は、自ら組織を腐らせるリスクを孕んでいます。
「自立は、主体性や当事者意識の土台となる。自ら立つことは良いことだ」これは、考えやすいでしょう。ココにワナがあります。実は、この裏側には「依存は、良くないことだ」と言う前提が隠れています。そして感覚的に【依存】→×(良くないこと・価値がないこと)と解釈し、否定しています。
しかし、冷静に分析すると別の観点が見えてきます。
例えば、赤ん坊は母親(大人)に依存することで、すくすくと成長します。新入社員は、上司・先輩に依存することで、仕事の基本を身につけます。何かを習得するときは、既に習得した人に依存する(教わる)ことで、効率よく学ぶことができます。
このように、依存には明確な価値があります。例えば「安全に・確実に・効率よく基本的なことを習得できる」という価値です。
逆に、赤ん坊をそのまま荒野に放り出したり、新入社員を教育無しで高度で負荷の高い職務に放り込んだりすれば、生存確率は著しく低くなります。ただでさえ採用が難しい時代。あえて社員の生存確率を下げる必要性はありません。「採用で適切に選定し、入社した人材は適切に育てる」これが、経営者の誠実な姿勢ではないでしょうか。
次に、時間軸を伸ばして考えましょう。基本的なことを習得した後、そのまま依存し続けるとどうなるのか。1年、3年、5年、10年、いつまでたっても同じことを同じレベルで繰り返す。後輩が入ってきても変わりません。「自ら考え行動する」「状況に応じて、適切に判断し行動に移す」次のステップで必要な応用力は身につきません。
過度な依存・依存し続けることは、価値よりも損失のほうが大きくなります。
今回は詳しく触れませんが、自立にも価値があります。そして、過度な自立・自立し続けることは、依存と同様に価値よりも損失のほうが大きくなります。
つまり、自立には自立の価値、依存には依存の価値があります。同時に、自立にも依存にも損失する側面があります。基本戦略は、両方の価値を引き出し、両方の損失を減らすこと。言葉を柔軟に捉え、有効活用してみましょう。
本来【自立】と【依存】は、相互に補完しあう関係、循環する関係、調和する関係を持つ言葉です。≪ 【依存】→【自立】→【依存】→【自立】… ≫
一連の循環してゆく流れの中で見せている顔が違うだけ。このことを忘れてはいけません。
前半の質問を思い出してください。「自立と依存は対立するものである」と捉えた場合、なぜ組織を腐らせるリスクが高くなるのか。ここまでの流れを読み返せば、答えは簡単です。
理由は、【自立】を推奨し【依存】を否定するからです。つまり、適切に【依存】できず【自立】への循環が断絶されるからです。循環の断絶は、社員の変化する可能性を奪い、組織に停滞感を蔓延させるからです。
<水が流れを失うと腐るように、組織も流れ(変化)を失うと腐る>
これが真実です。もう一度お伝えします。
<水が流れを失うと腐るように、組織も流れ(変化)を失うと腐る>
これが真実です。
偏った見方は、停滞を生み出し、組織を腐らせます。バランスの取れた見方は、循環を生み出し、組織を純化させます。
例えば、親の愛情を受け取った(依存した)子供は、適切に成長し一歩ずつ自立します。同様に、会社の愛情(=育成する仕組み)を受け取った(依存した)社員は、適切に成長し一歩ずつ自立します。
その一方で、親の愛情に枯渇した(過度に自立を求められた)子供は、非行に走り欲望を満たすもの(麻薬・酒・タバコ・性・ギャンブル…)に一歩ずつ依存します。同様に、会社の愛情に枯渇した(=即成果・失敗厳禁・育成なし、過度に自立を求められた)社員は、上司・先輩、しいては社長に一歩ずつ依存します。失敗しないように顔色を伺う。怒られないように指示を待つ。場合によっては、メンタル不調で休職。一時的に仕事ができない場合になったとしても、会社に依存し続けます。
解決策の第一歩は、経営者がより高い視点で【自立】と【依存】という言葉を捉えなおすことです。
より広い視野を持ち、より長い時間として捉える。目の前の自立や依存は、社員や組織が、進化・成長してゆくプロセスの一部として捉える。すると「自立も依存も同等の価値があり、時と場合に応じて使い分けるものだ」と気づきはじめます。
つまり、
「自立と依存は、対立するものではない。」
「自立と依存は、循環し調和するものである。」
と理解がすすみ、そうだったのかと腑に落ちます。(さらにその先もあります)
この全体観を踏まえた上で、依存を促したり、自立を促したりすることが大切です。ただ「自立しろ!」ただ「依存しろ!」というのではありません。
解決策の第二歩は、次のフェーズを認識させながら、依存のフェーズではしっかりと依存させる。自立のフェーズではしっかりと自立させる。このような仕組みを設計し、導入することです。
どこで依存させ、どこで自立させるのか。経営者は、切り替えのタイミングを見極めてください。
- 階層別に、自立と依存のウエイトを考える。
- 各階層でも、昇格直後と数年たった後、自立と依存のウエイトを考える。
- 事業別でも、立ち上げ期・成長期と成熟期・衰退期に応じて、自立と依存のウエイトを考える。
一人ひとり異なりますし、タイミングも考慮しなければなりません。
社員一人ひとりのエネルギーを確実に引き出し、効率よく活用する。
- 過度な依存や自立は、エネルギーの消耗が激しくなり、行動量を減らします。
- 適切な依存や自立は、エネルギーの消耗を抑制し、行動量を増やします。
日常業務を通じて、適切に依存させ、適切に自立させる。そして、成果につなげる。もし、このような仕組みが、御社に定着したら、近い将来どのような戦い方ができると思いますか。
社員研修はこれを補うものです。根本解決にはなりません。本質的な仕組みが必要です。
ぜひ、御社なりの仕組みを考えてみてください。どのような仕組みを新たに創るのか。今ある仕組みをどのように改良できるのか。じっくりと吟味してみてはいかがでしょうか。
※弊社は、「業績3年 先行管理の仕組みづくり」という観点でクライアント企業様に適切な依存と自立を促しております。興味がある経営者様は、ぜひセミナーにご参加ください。
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