『働き方改革』を成功させる社長と失敗させる社長の違い
「小島さん覚えていますか?あのCM」
ある年配の経営者が、二カッと口角を上げて問いかけました。
「『にじゅ~よ~じかんたたか~えますか♪(24時間、戦えますか)』と、かつては言ったものです。もう30年前ですよ。常識が変わりましたね。やはり、いつの時代も『働き方改革』は、経営者の仕事ですな。」
そのゆっくりと息を吐く姿は、自信に満ちていました。ご自身の役割に徹し、常に変化し続けてきたからこそ言い切れる。力強いお言葉でした。
経営環境は、バブル期、失われた20年、景気回復期(失われた30年という説も)と推移。国策として「一億総活躍社会」「働き方改革の実現」という方向性が掲げられました。半年、1年、月日は流れ、その間もニュースやワイドショーでは、ブラック企業の労働問題が度々クローズアップされています。
中小企業の経営者は、この『働き方改革』にどう向き合っているのか。
- 試行錯誤しながら、手ごたえを感じている経営者さま。
- 打てど響かず、変わらない組織に困惑している経営者さま。
- まずは大手・上場から。非上場の中小はとりあえず様子見でOKという経営者さま。
さまざまな関わり方で向き合っていることでしょう。
その上で質問です。御社の『働き方改革』は、順調ですか?
本当の意味で『働き方改革』になっていますか?
『働き方改革』の成否を決めるのは誰でしょうか?
自社の社員でもなく、管理(人事)部門でもありません。もちろん国でもありません。当然のことながら経営者ご自身です。
それでは、どのような経営者が『働き方改革』を成功させているのでしょうか?
その違いは、【認識力】にあります。
視野の広さや深さ、時間の長さといった観点で、認識力が高い経営者は、『働き方改革』を成功させています。
つまり、
・成功させる経営者は、全体を見ている。
・失敗させる経営者は、部分を見ている。
という点が異なります。
前者は全体を見て「我が社は今後どのように戦っていくのか」という視点で発想しています。
そのため、ビジネスモデル、経営戦略といった大前提を見直します。もしくは、基幹システムや意思決定の仕組みの再設計という土台レベルを見つめ直します。そして、付加価値を根本的に増やす方法を考え、実際に着手します。
後者は部分を見て「我が社がブラック企業と呼ばれないために」という視点で発想しています。
例えば、残業時間をいかに減らすのか(ついでに人件費も減らしたい)という事象レベルでとらえます。そして、管理(人事)部門に施策を考えさせ、実際に着手しろと指示をします。
『働き方改革』の本当の意味は「生産性の向上」です。
この生産性は、
<生産性=産出(アウトプット)/投入(インプット)>
という公式で表すことができます。
生産性を厳密に考えると、労働生産性(物的生産性)(※1)という観点で、付加価値(売上-外部購入費用)を1人あたり・1時間あたりで計算したり、全要素生産性や資本生産性で計算したり、とさまざまな視点で定義することができます。
各定義の議論はさておき、要は「より価値ある製品・サービスを社会に提供し、効率よく稼いで、役割に応じて公平に分配しましょう」と考えると良いでしょう。
そして、経営者は全体を見て <どのように我が社の仕組みを見直すのか> という点に注力すべきなのです。
よくある失敗事例は次のようなものです。
「残業削減」「同一労働同一賃金」「労働生産性の向上」など、国策で掲げられたキーワードがあります。失敗させる経営者は、そのキーワードの目的を十分に理解せず部分で捉えています。自分の言葉に置き換えることは稀です。耳にしたキーワードをそのまま伝えます。そして、管理(人事)部門と各部門の責任者に「直ちに実行せよ!」と指示します。
すると組織はどうなるのか?
組織は、産出(アウトプット)の増加よりも、投入(インプット)の削減ばかりに注力します。社員は現状の延長線上でものごとを考え「算出(アウトプット)倍増は困難である」という前提で発想するからです。
やがて「水曜日はノー残業デー」「職務分掌を定義して…」「いいから成果をだせ」といった安直な方針が全社に発信され、推進部門が進捗を記録し始めます。はじめは、定点チェックによる効果も見られますが、すぐに壁にぶつかります。
その後「朝のラジオ体操の時間は、就業時間に入りますか?」「今度の懇親会は、労働時間に含みますか?」という残念な質問を受け付けることになるでしょう。(現場の社員は、指示を達成するために、至って真面目に質問しているのですが…)
また、次のような負の連鎖が複雑に絡み合い、徐々に組織を蝕みます。
〔負の連鎖1〕
・ノー残デー、定時帰りの若手と幹部、隠れ残業中堅社員、苦労の結果は手取り(残業代)削減。
〔負の連鎖2〕
・作成・配布で役割完了、運用無視の職務分掌、目も通さぬ現場社員と、保身に走る管理(人事)部門。
〔負の連鎖3〕
・目先の業務で精一杯、育成・引継ぎあとまわし、人員減らして作業倍増。トラブル起きても自己防衛。
この状態を放置し組織の腐敗がさらに進むと大変危険です。信頼関係が崩壊し、ギズギスとした淀んだ空気が蔓延します。立て直すには、相当の時間と労力がかかるでしょう。
「残業削減が無駄な活動だ」といっているのではありません。社員が、価値を高める仕事と無駄な作業を識別し、働き方を見直すきっかけになります。しかし、経営者はこのような組織の傾向を予め認識し、より広い視野で全体をとらえなければなりません。
- 経営者自身が、自社の将来に向き合い、方向性を明確にすること。
- その方向性を実現するために、組織の力で経営の仕組みを再構築し、成果をだしていくこと。
現状の延長線には答えはありません。新しい戦い方を身につけるような仕組み。こういった仕組みをどのように構築するのか。そこまで描かなければなりません。
経営者が全体を認識し、着実に仕込んでいるつもりでも、誤解が生じます。社員は部分で受け止めるものです。かつて、小島は「改善の文化を育む5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾)が、単なる美化運動と誤解され、成果がでないしマンネリになって困っている」という失敗事例に何社も出会いました。(その後、実際に支援をさせていただいた経験談では、誤解した組織を立て直すことは、何もやっていない組織に導入するよりも大変な場合がほとんどです)
『働き方改革』も単なる残業削減運動だと誤解されないようにしなければなりません。経営者と社員が、全体と部分の視点を行き来できる共通の仕組みをもって取り組むこと、短期と中長期を同時に考えること、製造だけでなく間接部門にもメスを入れられる仕組みであること、が大切です。そして、これらを生産性の公式の分母・投入(インプット)だけでなく、分子・算出(アウトプット)も組織に共通認識させるには、将来の業績を見える化しなければなりません。弊社の業績3年先行管理の仕組みづくりは、この点にも着目しています。
『働き方改革』を成功させるか否かは、経営者次第です。
- どのようにより価値ある製品・サービスを生み出すのか。
- どのように効率よく稼ぐのか。
- どのように役割に応じて公平に分配していくのか。
ぜひ、一度じっくりと見つめ直してはいかがでしょうか。
追伸>
地方の中小企業でも『働き方改革』を実現している経営者がいらっしゃいます。お話を伺うと「今の時代、経営者が根本的に付加価値を高める仕組みを考えていないなんて、経営者失格ですよ」と言い切ります。とても清々しい表情にその方の覚悟と決意を感じました。小島自身も背筋を伸ばし、律していこうと思います。
※弊社は、本来の働き方改革を実現するために「業績3年 先行管理 の仕組みづくり」を提供しております。仕組みづくりに興味がある経営者様は、ぜひセミナー案内をご確認ください。
※1:OECD加盟諸国の時間当たり労働生産性(2017年のレポート)によると、日本は先進7ヶ国(G7)で最下位(ただし製造業はトップ)。35ヶ国中22位。となっています。
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