経営者の思いが社員に伝わらない理由とは
「全くわかっていない。何度言っても変わらない…。本当に困ったものです。」
先日、相談を受けたある経営者の言葉です。
応接室の窓から見える自社の工場を眺めたのち、役員から受け取った報告書に視線を落とし、ため息をつきました。
<地元を代表する優良企業>と言われるような中堅企業でも、外から見える印象と、経営者が感じている認識には大きく乖離があります。また、このような危機感があるからこそ、成長できたという側面もあります。
先代からバトンを引継ぎ17年。就任当初はトップダウン型の経営をしていたそうです。その後、限界を感じボトムアップ型の経営にシフトしてきました。
理念を浸透させるクレドづくり、幹部社員も参加する中期経営計画づくり、方針発表会に進捗確認会、選抜研修、階層別の研修、営業支援ツールの導入、各種プロジェクトなど、人を育てることを重視しながら、さまざまな取り組みをしてきました。
さらに、ここ数年は、重要性や必要性に本人が気づくよう問いかけを意識したそうです。そして、すぐに指示・命令したり、厳しく指摘したりすることを極力控えてきました。
「新人や若手社員ならまだしも、部門トップを担う役員からの発言だと思うと…。」
経営者の意図が十分に理解されていない…。形式的な報告書を提出し、残念な発言をした古参の役員。その様子を思い出しながら、半ばあきらめの表情で社内の出来事をお話をなさいました。
このような悩みは、多くの経営者からお聞きする相談です。
なぜ、何度説いても伝わらないのか。
なぜ、経営者の考えを十分に理解してもらえないのか。
この原因は、明確です。
それは、『経営者が、立場・役割の異なる人材に【自身と同じ視点】を求めているから』です。
当然のことながら、経営者は、自身の考えを社内外に発信し続けなければなりません。理念やビジョンを語るとともに、ビジネスモデルを設計しその環境を整備する必要があります。そして、中期経営計画や年度計画を伝え、実行を支援する必要もあります。しかし、これらを通じて、社員に経営者と同じ視点を求めても、到底無理な話です。
なぜなら、立場・役割が違うからです。
「そんなことはない。既に違いは分かっている。そこを配慮した上で困っているんだ。」
と思われるでしょう。
しかし、実際にはついつい忘れてしまうものです。
- オーナー経営者は、雇う側の立場。当然のことながら、全責任を担う覚悟と決意を持っています。
- 社員たちは、雇われる側の立場。意識では否定したとしても、潜在的には“逃げる”という選択肢が残っています。たとえ役員だったとしても。
この「当たり前だ!」と頭で分かっていることも、腑に落ちる深い理解に達することは簡単ではありません。なぜなら、それぞれの立場でエゴが生じるため、勘違いをしてしまうからです。
事業に対する熱い思いがあり、求心力のある魅力的な経営者ほど、
「我が社の社員には、わかってほしい」
「我が社の社員なら、わかってくれるはずだ」
という願い(=エゴ)を正当化し、良くも悪くも偏った価値観に支配されてしまいます。
組織が小さなころは、「自身の思いが伝わっていた」という自負があったことでしょう。そして、経営環境が変わり、自社の規模・状況も変わり、経営者自身の体力・気力も変わりました。頭ではわかっています。しかし、ふと気がつくとかつてと同じ感覚を求めてしまっている…。
組織がある段階まで成長したとき、できる経営者ほど、冒頭のようなため息をつくことになります。
それぞれのエゴは、次のように生じます。
経営者は、常に自社の将来に焦点を当てています。そして、理想の将来と現実的な将来のギャップをどのように埋めるのかを考えています。なぜなら、皮膚感覚レベルで自分自身=会社となっていることに加え、企業存続が前提であるという意思があるためです。当然、認識する時間軸が長くなります。そして、自身を律し何らかの予兆を感じとり、前もって手を打ちます。また、自身が当然のように感じ行動しているため、社員にもそれを求めます。
その一方で、社員は、常に目の前の仕事に焦点を当て、今を生きています。時間軸は短く、今という一点で捉えています。潜在的に自分≠会社となっているため、会社の取り組みと自身を分離します。そして、今・ココ・私に注力します。頭では認識しています。社長の言う先行経営は重要だ、前もって手を打たなければならないと。他にも、現状の成果や処遇に満足していないかもしれません。しかし、潜在的には今現在、何とか成り立っています(生きのびています)。このため、変化するリスクはより高く、変化しないリスクはより少ないと感じています。
だから、経営者が思うほど、社員は当事者意識をもたず、変わろうとしないのです。
【業績3年 先行管理の仕組みづくりコンサルティング】導入直後、実際に小島が、クライアント先の役員や社員の皆様に聞くことがあります。
「何のためにその活動をしているのですか?」
と。すると、(ある意味でとても素晴らしいことですが)社長の言葉をそっくりそのまま語りだしたり、もっともらしい目的を話したりします。
そして、掘り下げて質問します。
「あなたの言葉で説明するとどうなりますか?」
「あなたはどのように貢献していきたいのですか?」
と。すると、言葉に詰まりはじめるケースが多く見られます。
やがて、
「社長がいつも言っているので…」
と言い出したり、
「やらないと怒られるんです…」
といった表現に変わります。
※詰問にならないよう留意し、目的意思を確認するために質問します
経営者の皆様が
- 立場の違いを超えて理解してほしい。
- 経営者目線で(最低でもひとつ上の立場で)物事を考えられるようになってほしい。
- 具体的に指示・命令しなくても、自ら考え行動してほしい。(ただし、勝手なことはせず、事前に報告・連絡・相談をしっかりしてほしい)
という気持ちはよくわかります。
また、日本一いい会社と言われる伊那食品工業をはじめ、スターバックスなど、さまざまな分野で理念や経営者の思いが浸透している会社も存在します。
「だから、我が社もできるはずだ!」と信じたい気持ちもよくわかります。
しかし、実際にそれらの会社は、
<経営者の思いを伝える>
↓だから
<経営者の思いが組織に浸透している>
のではありません。
<経営者の思いを伝える>
+
<立場・役割の違いを超えて共通認識できる仕組みを構築する>
→だから
<経営者の思いが組織に浸透している>
という構造になっています。
あなたの会社は、このような仕組みを十分に整備しているといえるでしょうか。
「経営者の立場からみた社員の視点」ではなく、経営者自身が、実際に社員の立場に歩み寄り、その立場を理解し、社員の言葉で伝える仕組み。
「社員の立場からみた経営者の視点」ではなく、社員自身が、実際に経営者の立場に歩み寄り、その立場を理解し、経営者の言葉を理解する仕組み。
立場・役割の違いを超えた、共通認識ができる仕組み。お互いの認識力を拡大させ、自身の立場も、相手の立場も、同時に理解できるような仕組み。時間軸という側面では、今現在だけでなく、3年後の予測も現時点でリアルに共通認識できるような仕組みが必要です。
共通言語をもち、かつ信頼関係が築けている社員に、直接聞いてみてください。
「今は問題ないけど、今後も同じやり方を続けて本当に大丈夫かなぁ?」
と。そして返事を聞いたうえで、続けてください。
「もし、現状のままで1年後、2年後、3年後と経過してみるとどうだろう。環境変化を考慮すると、こういった側面であなたの生活は今よりも悪化してしまう可能性が高いだろう。今、手を打たなければ、選択肢がどんどん少なくなる。やがて選択できなくなるかもしれない。」
と。話が具体的になればなるほど、その社員は青ざめ、顔つきがこわばることでしょう。そして、
「逆に、選択肢が多い今のうちに手を打っておけば、こういった側面で可能性が広がる。そうすれば、お互いに豊かな生活ができる確率が上がると思うんだ。」
と。話が進むにつれ、目つきが鋭くなり、生命力ある力強い表情に変わることでしょう。
経営者が、社員一人ひとりに直接伝え続けるには、限界があります。効率的に伝えには、共通認識できる仕組みが必要です。経営者と社員がともに自身の将来を皮膚感覚で感じることができる。そして、対策を自ら考えて前もって行動すれば、将来予測も確実に良くなっていく。
そんな先行経営の仕組みが自社にあれば、経営者と社員という立場の違いを超えて、共通の目的に向かって協力し合えるようになります。
その選択肢の一つとして、小島は「業績3年先行管理の仕組みづくり」コンサルティングを通じて、中小・中堅企業を支援しております。もちろん他にも選択肢があります。
立場・役割の違いを冷静に認識せず、今まで通り社員に説き続けるのか。
立場・役割の違いを冷静に認識した上で、共通認識できる仕組みを再構築し、さらに社員に説き続けるのか。
あなたは、どちらを選択しますか。
そして、自身の考えを伝える仕組みをどのよう強化していきますか。
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