マーケティング理論が経営を悪化させる訳
MBAで教えられているマーケティング理論の代表的なものとして、STP分析というものがあります。市場をセグメント(S)に分けて、自社が狙うターゲット層(T)を定め、そのターゲット層にあったポジショニング(P)を決めるというものです。
このようなマーケティング理論はコンサルタントやマーケッターにとっての「商売のネタ」として長らく重宝されていましたが、こういったお決まりのフレームワークは今や陳腐化し、実際の経営の現場では使えない時代遅れの産物と化しています。
このSTP分析でいえば、そもそも最初のセグメンテーションという考え方に無理があります。思想家リオタールが「現代は『小さな物語』の時代である」と述べたように、グローバル化や情報化が進んだ現代では消費者の価値観やニーズが非常に細分化しており、「セグメント」で分けてみても実態と合わないということになります。
中小企業向けに伝えられている経営理論に関しても同様です。例えば、「弱者の戦略」として知られるランチェスター戦略というものがあります。大企業(強者)との戦いを避け、エリアや客層を絞ったニッチ市場に経営資源を投入するというものです。
これに関しても、画一的な「マス市場」に対しての「ニッチ市場」を攻めるという発想ですが、いまや市場は「総ニッチ」の時代であり、ニッチを攻めるという発想自体になんら特異な要素はありません。
また、市場をエリアや客層で絞るということも時代遅れの発想です。このボーダーレスの時代に攻めるエリアを絞ってみたところで、敵はネットによる空中戦も含めてさまざまな場所から飛んできます。「特定の商圏で圧倒的なシェアを獲得できれば大手に勝てます」などと言われていますが、いまや単にエリアを絞っただけでは圧倒的なシェアなど獲れるはずもありません。
客層をしぼるということも同様で、例えばターゲットを30代男性とか、社員30名以上の製造業などと特定したとしても、そのターゲット層のニーズは極めて多様化かつ細分化されており、単に絞っただけで刺さるなんていうのは自己都合の幻想でしかない。
結論、強者の戦略であろうと弱者の戦略であろうと、80年代、90年代にもてはやされたフレームワークで経営を考えていては業界のコード(常識、固定観念)に埋もれるだけです。
ではどうすれば不毛な競争から抜け出し、真の意味で自社ならではのポジションを確立することができるのか。
それは、新しい物語をつくる側にまわることです。
つまり、既存の市場を平面的に切り分けてニッチ市場を探す発想ではなく、だれも目を向けていない新しい市場(=新しい戦い方)を創り出す。
言い換えれば、「価値」とされていることの提供合戦から抜け出すために、その「価値」自体を捨てるということです。
例えばモノを「売る」のではなく「貸す」に移行するとか。
最近は、高級時計を月額性で貸し出すサービスや、ランボルギーニやフェラーリを時間貸しするサービスなど、レンタルやシェアリングという切り口でユニークなものが出てきています。
あるいは「モノ」を提供することを捨て、「ノウハウ」を提供するとか。
いまのようにモノがあふれる時代に商品の機能でいくら差別化しようとしても埋もれてしまう。ならば商品自体での競争は捨て去り、その選び方・組み合わせ方や使用法などのノウハウ提供する立場に移行することも、競争の外側に出る切り口のひとつです。
これらは単なる一例に過ぎませんが、大事なことは既存の競争の中でしのぎを削るのではなく、その競争自体を俯瞰し、その競争の外側に出る、第3のポジションを獲るという発想をもつことです。
言うなれば、競争に勝つのではなく、競争から逃げるという発想。
そのような発想を持つために必要なことは、古い経営理論をマーケティングのフレームワークといった枠組みを知ることではなく、むしろその逆で、自分や業界全体がとらわれている思考の枠を取り払うことです。
会社の規模が大きかろうが小さかろうが関係なく、経営者の仕事は新しい道を創り出すことです。それがフォロワーではなくリーダーとしての役目です。
手垢のついた知識(答え)を仕入れるのではなく、むしろ自分がとらわれている業界のコードを捨て去り、新しい答えを生み出すためのメタ認知力を鍛えていきましょう。
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