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「ストーリー戦略」の嘘

SPECIAL

商品リニューアルコンサルタント

株式会社りぼんコンサルティング

代表取締役 

商品リニューアルに特化した専門コンサルタント。「商品リニューアルこそ、中小企業にとって真の経営戦略である」という信念のもと、商品の「蘇らせ」「再活性化」「新展開」…など、事業戦略にまで高める独自の手法に、多くの経営者から注目を集める第一人者。常にマーケティング目線によって描きだされるリニューアル戦略は、ユニークかつ唯一無二の価値を提供することで定評。1969 年生まれ、日本大学芸術学部文芸学科卒。

今、商品戦略において「ストーリーのある〇〇」という手法がトレンドであり定番化の傾向にあります。少し前だと「つくり手の顔が見える〇〇」といった表現で、モノが溢れる時代の差別化戦略のひとつとして重宝されてきました。今再び、この古くて新しい手法が「つくり手のストーリー」という切り口で訴求されています。

例えば、今発売中の30代主婦層が手に取る女性雑誌では、読者がすすめる「ストーリーのある食器」を約10ページにわたって取材し特集しています。誌面には以下のようなコピーが写真とともに散りばめられています。

「つくり手の思いを感じます」

「若い世代が全国から集まる美濃焼の工房」

「名窯元と共同開発」

「さまざまな経験から生まれる自由で個性豊かな作品」

「長年の夢だった益子焼とのコラボ」

「使い手と直接話し、生の声に耳を傾ける」・・・

記事では、美濃焼、波佐見焼の工房や北欧のマリメッコのアトリエ写真。つくり手たちの打ち合わせ風景、製作プロセスをふんだんに紹介。伝統的な食器をリニューアルした今の暮らしになじむカラフルで洗練された商品写真の数々。さらに、その食器を実生活に取り入れている読者のレポートも随所に盛り込まれています。ストーリーのある食器を求め旅行を兼ねた「窯元めぐり」、SNSを通じて顧客と意見を交換する窯元の様子まで細かく紹介されています。

この特集で伝えていることは何か。それは「つくり手の思いを感じる食器を使うことで満足したい、幸せを感じたい」という生活者の心の奥にある心理です。この顧客心理に気づき、この数年で「ストーリーのある〇〇」や「ものづくりの物語」といった切り口で商品サービスの差別化に取り組む企業が増えました。百貨店の物産特設店だけではなく、都道府県の特産品や伝統工芸品、生活雑貨を集めた常設店も増えました。

年々販促手法も上手になって、商品になじむオリジナル什器での展開、手書きPOPや手作り動画でのプロモーションなど、商品や企業のストーリーを上手に魅せています。どこの売り場でもストーリー、ストーリー、ストーリーの山。商品自体の品質もリニューアルし、トレンドをつかんでいます。洗練されたネーミング、オシャレなパッケージ、「つくり手の顔」と「商品ヒストリー」が見える“良品”たちが並んでいます。

今まで知らなかった商品サービスの誕生秘話やストーリーに触れた時、わたしたちの心はワクワクします。「買って応援したい」という気持ちになります。そんな共感から、お財布の紐も緩みます。非日常のストーリーを追体験する買い物体験は楽しいものです。そして商品を暮らしに持ち帰ったとき、深い満足感を得られ、買って使う幸せを感じるのです。

しかし一方で、このような非日常体験は数回の来店で満たされます。同じ企画で常設されていけば、ドキドキ空間は「日常風景」となり飽きてゆくものです。それもまた顧客心理です。

「作り手の思い」も一度認知すれば十分です。つくり手PRが一方的に感じ「うるさく」感じ始める時がやって来ます。結果「お店に来たけれど特に欲しいものがなかった」と手ぶらで帰る場面が増えてゆきます。

「ストーリー展開」は売り場の鮮度が命、生命線です。一度売り場を作ったら、次々と新しい企画が必要となります。売り場の論理で「作り手の顔が見える」や「ストーリーのある」というコンセプトを通貫させるも、お客様にとっては慣れてしまうのは他の商品やサービスと同じです。どこの特産品も同じように見えはじめます。顧客は「積極的に買う理由」を見つけることができなくなります。ストーリー戦略もまた「一般化」の道を辿ってゆきます。

売上が伸びなくなってくると売り場では奇妙な事が起こります。メーカーが打ち出す「物語」に依存しはじめます。販売店側は「もっと、もっとつくり手の熱い思いを」「もっと新しい物語を」「もう一捻りの何かを、特典をつけてほしい、ストーリーを形に表現して」と言い始めます。顧客視点ではなくて、売り手の論理で、メーカーは「新しいストーリー」を無理やりにでも作らなければならないのです。

モノを量産した時代から、消費につながらない少子高齢化時代へ。そして今、人口減小の時代に突入しました。しかし現状のマーケットでは「慣性の法則」が働いていて、前時代の流れのままに商品サービスが量産されています。

「もうモノは要らない」「何を買っていいのかわからない」といった声や「断捨離」「ミニマリスト」「シェア」といった行動変容は、モノがあふれるマーケットに対する反作用であり反撥です。この反撥のエネルギーこそが顧客心理の現れであり

「生活者は今、商品を“買う意味”や“買う理由”を強く求め、真剣に探している」。そう心に刻みつけるべきなのです。生活者は、自社が提供する既存の商品サービスに満足できていない。生活者の反撥を知った時こそ、商品リニューアルの鐘を鳴らす時です。

“みにくいものの美しさというものがある。グロテスクなもの、恐ろしいもの、不快なもの、いやったらしいものに、ぞっとする美しさというものがある”。そう提言したのは日本を代表するアーティストの岡本太郎氏です。

ださいもの、格好悪いもの、もらったら嫌だけど気になるもの、そうしたモノたちの市場があります。かつて物産展に変なマスコットたちがいました。地方自治体が自前でつくったであろう、その土地の名産品を模した着ぐるみのマスコットです。だれもが「何か変なものがいたな」くらいにしか気にもとめていなかったマスコット。

そんな哀愁あるマスコットたちが、いまや大人気です。もうお分かりだと思いますがマスコットたちを「ゆるキャラ」とネーミングし、リニューアルした時から注目され、やがて爆発的ヒットが生まれました。ゆるキャラ、と命名しブームの火をつけたのが漫画家のみうらじゅん氏です。

売れない言い訳に「ストーリーが足りない」とか「つくり手の思いが伝わってこない」とか、「この商品が売れる必然性を感じない」とか「顧客ニーズがない」といった言葉で、社運をかけて産み出した商品を閉じてしまうことがあります。これは非常にもったいない話です。

だれもが「奇妙な」「へんな」「ださい」と思っていたマスコットたちが数年後には「ゆるキャラ」としてリニューアルし「ダサかわいい」「おもしろい」となりました。「ダサくて売れるわけがない」が、たちまち大ヒットです。売れると売れないの違いに、何があるのでしょうか。それほど大きな違いがあるのでしょうか

売り手と買い手の「思い込み」の連鎖を断ち切る事で、まだまだ売れる商品がたくさんあります。顧客ニーズは、わたしたち生活者が自覚しているものではなく、売る側が積極的に掘り起こす「世界観」によって、顕在化され認知されるのです。

かつて、つくり手の「顔」や「物語」は、門外不出で唯一無二の時代がありました。それを表出させることでわたくしたちに商品サービスを「買う理由」を与えてくれました。しかし、そうした物語もインターネット上で露出され、雑誌で取り上げられるまでになりました。「ストーリー」は一般化し、ストーリー戦略は「待ち」の姿勢であり、メーカーの物語はすでに「陳腐化」していると考える視点が必要不可欠です。

お客様が「その気」になる世界観を作ってあげる。売り場ではメーカーに依存した物語やストーリーに頼らないで「売る」「売ろう」という強い気概が求められています。つくり手はストーリー戦略といった手法に溺れる事なく「自社の強み」に立ち返る本質が求められています。

商品リニューアルとは「魅力再発見」に他なりません。新しい価値を再発見しその世界観を再構築することです。昨日までの常識が今日の非常識となっている時代です。だれもが「良し」とした価値の「アンチ」を視ることが本質ではありません。囚われた視点を打破し、ひとつ上の次元へと飛躍できる商品戦略の視点が御社に育っているかどうか、ということを問うて欲しいのです。マーケテイングもブランディングもその後です。リニューアルの考え方、思考、思想を定着させることが、商品戦略の第一歩です。「売れない言い訳」はやめ、自社の魅力にフォーカスする集中力とその実践が求められています。

 

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