「御社の商品は世の中に必要とされていません」という武器
朝に夕に、少しずつ「秋」を感じるようになってきました。今夏、コンサルティング後の一杯は筆舌に尽くしがたいもので、先日もある社長とひと息ついたところでお盆の話題に。帰省される社長が「コザキ先生、実はリニューアルした〇〇のヒットを祈念して、“ある場所”に納めに行くつもりでして・・・」と。何でも先々代からお付き合いのある縁ある方に加持祈祷をしていただくということです。
映画や舞台など芸能の世界では「ヒット祈念」のお祓いなどはよく聞くことです。そして、日常的にも、大きな社会的責任を負う経営者が、普遍的な神仏への信仰を心の拠り所としているのはとても自然なことで、有名なところでは、出光佐三氏、松下幸之助氏はじめ、土光敏夫氏、稲盛和夫氏などのカリスマ経営者も然り。1933年創業の大手事務機器メーカーの「キャノン」が「観音菩薩」からネーミングされている事は周知の事実です。社名の奥に、観音菩薩の慈悲にあやかりたい、という創業者の祈念が秘められています。
こうした神や仏への信仰は芸能や経営者に限った“特別な話”ではありません。わたくしたち生活者にとっても深く浸透している感覚です。ビジネスも人の一生も成長するまでに、さまざまな失敗、人には言えない困難に遭遇するもので「神頼み」で救済された例はたくさんあります。
商品リニューアルの視点では、信仰の世界は「無くては困る」というものではなく「目に見えない」「成果物がない」世界であり、世の中に必要とされていない商品サービスのひとつと定義できます。モノや情報があふれコモディティ化している今、あらゆる商品サービスが、そして神様仏様に関わるコンテンツも、非常に売りにくく、提供しにくくなっている、という点では全く同じなのです。
ここで、御社商品サービスについて、ひとつ質問をします。
「申し訳ありません。御社の商品サービスは世の中に必要とされていません」
そう申し上げたら、どんなお気持ちになりますでしょうか。次々わき起こってくる心の声、そして「本音」に耳を澄ましてください。
いかがでしょうか。例えば、
「ウチは大丈夫、需要がある。今現在買ってくださっているお客様がいる」
「顧客データもしっかりある。ウチに限っては囲い込んでいるから大丈夫」
「ウチの規模なら〇〇〇件あればいい。地域密着でやっているから問題なし」
「だからこそ、毎月勉強会をやって顧客を確保しているんだよ」・・・
そう自信を持って具体的実践の数々想起された方もいらっしゃるでしょう。
反対に
「えっ? 今数字も出ているし、そんな事は無いでしょう」
「何バカなことを! そんなことはない、絶対に、無い!」
「必要とされているよ。現に会員数〇〇〇で成り立ってるんだ!」
ザワザワっとしたり、怒りに近い感情が生まれる方もいらっしゃるでしょう。
「御社商品は世の中に必要とされてない」
そんな風に言われたときに、経営者の本音は後者です。「必要とされてない? おっしゃるとおり!」と顔で笑って心で怒って、という状況になります。大抵の場合「ウチはまだ大丈夫。」というバイアスがかかり、他人事、他社の話となってしまうのです。
が、実は、この質問をご自身に向けた時こそがビジネスのターニングポイントです。心の声がどう反応したか。この直視こそが、現状を突破、そして新しい未来の道を切り拓くことができるかどうかの分かれ道なのです。
岐路、現実を直視し成功している「神社」があります。埼玉県川越市にある「川越氷川神社」です。昨日も雷が轟く天候不順の午後、足を運びました。東武鉄道「川越」駅から徒歩約20分あまり。道行き浴衣姿の男女が連なって向かっています。境内に近づくにつれ、人、人、人。そしてようやく入れた境内にはたくさんの若い方で賑わっていました。外国からのお客様もたくさんです。それが下の写真です。
川越氷川神社のある川越市は、「火の見櫓」を「時の鐘」とし町のアイコンにしています。川越を「小江戸」と定義、イメージのリニューアルに成功しここ数年「観光地」として人気が高まっています。40年ほど前、わたくしはよくこの町に遊びに来ていました。たまたま親戚が住んでいて、幼い頃からひとりで遊びに来ていました。当時は「知る人ぞ知る火の見櫓の町」で、ひっそりとした長閑な雰囲気です。当時の川越氷川神社は、隣接している氷川会館で挙式をあげる「神式の専門結婚式場」と感じる程度です。
しかし今、この神社、人気スポットで、若い男女であふれかえっています。そのきっかけが2014年の七夕からスタートさせた「縁むすび風鈴」という祭事イベントです。九月九日にかけて開催され、境内に2000個以上の江戸風鈴が並ぶ「風鈴回廊」が名物。風鈴を1,500円で買って、木製の短冊に願い事を書いて結び付けることができます。
さらに地域ビジネスと協業し「恋あかり特別良縁祈願祭」を企画。キャッチフレーズは「神社のあかりをまちへ」。祭事期間中「恋あかり」という神社特製の風鈴型ぼんぼりを灯し、浴衣姿で川越の町を練り歩くのです。
駅や関連施設に配布されている「恋あかりビジュアルブック」も完璧です。今夏のコンセプトは“友達以上、恋人未満”だとか。表紙をひらくと
「どうして いつあつても こんなになつかしく こひしんでせう」
という歌人・斎藤茂吉が恋人に宛てた書簡からの言葉が。さらにページをめくると「恋あかり」の写真集に仕上がっています。夏の夕暮れに浴衣姿のカップル、友達以上恋人未満のふたりが、楽しくも切ない心情で川越の懐かしくて新しいスポットを回る、というドラマティックな展開を表現しています。
かつて、生活者にとって川越氷川神社とは「どこにでもある氷川神社の川越地域版」。神様がいるのかいないのか、御利益があるのかないのか、パワースポットならば埼玉では大宮氷川神社に軍配がある、結婚式場としてのアイデンティティといってもプリンスホテルが人気だし、、、。結局近隣の住民が、年に一二度行くか行かないかの神社、といった位置づけで、まさに「世の中に必要とされているわけではない」神社だったのではないでしょうか。
しかし今は異なります。「とおい昔の話。入間川の川底が毎夜あかるく光りだしました。人々はその光の元をさかのぼり、たどり着いた」場所である川越氷川神社のそもそもの起源を再発見しリニューアルしました。「光」と「縁結び」の世界観をつくり、祭事、イベント、プロモーションなど全てのツールに「恋」というコンセプトを通貫させて仕掛けています。
2014年にイベントスタート。その構築に1年かけたと仮定すれば、リニューアルプロジェクトは2013年頃にスタート。今夏で5年目となり、ブレイク中。全国からそして世界から「縁結び」を祈念する男女の聖地となり大盛況の現状です。境内で販売しているお守りもコンセプトを通貫させ「であいこい」という出逢う「恋」と「来い」の掛詞。季節限定色までラインナップする清々しいほどの商売上手。
川越氷川神社は、恋する男女にとっては「無くてはならないテンションの上がる」場所を生み出しました。そして「浴衣を身につけて男女がデートする理由」を神社自ら作り上げたのです。
商品リニューアルは「考え方遊び」ではありません。考え方とその実践です。
「売上利益を上げたい!」「イベントにお店に集客したい!」「目に見える成果がほしい!」「数字をあげたい!」「儲けたい!!!」。必ずそうおっしゃいます。商売の話ですから当然です。しかし、そう考える前段階として「自社商品は世の中に必要とされているのか」という質問をどれだけの方が自問し真剣にお考えになっているでしょうか。
御社では「必要としている人がいるであろう」という考え方が前提になっているのではないでしょうか?
「申し訳ありません。御社商品サービスは世に必要とされていません」。そんな風に囁いてくれる神様仏様、そして観音様はいません。教えてくれるのは目の前の「お客様」です。無言ですが、必ずサインを送っているはずです。そして、目の前の“神の声”を飛躍のきっかけにするかしないかは、経営者ご自身の意識の目覚め、強い覚悟、そして実践です。
必要とされていない。ここから全てがスタートするのです。縁もビジネスの成功も、待っているだけでは手に入りません。そして、ビジネスにおいて“であいこい”の「御守り」はどこにもありません。ただひたすらに、商品リニューアル戦略の策定とその実践のくり返しこそ、真の心のお守りなのです。
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