真夏に“あんパン”がバカ売れする方法
「アンパンマン」というキャラクターをご存じでしょうか。故・やなせたかし氏が原作の絵本「アンパンマンシリーズ」に登場する主人公で、あんパンでできた頭部を持った正義のヒーロー。日本テレビ系列で放送されているアニメ作品「それいけ!アンパンマン」で広く知られお茶の間でブレイク。就学前の子供たちに大変人気のあるキャラクターです。お子さんやお孫さんが身につける公式キャラクターグッズでご存じかと思います。
ライセンス商品ではなくても、例えば街のパン屋さんでは「アンパンマンあんパン」なる菓子パンが販売されいたりします。先日訪ねたあるパン屋さんでもアンパンマン型のあんパンが並んでいました。記録的な猛暑日で、午前中から体感36度以上あったでしょうか、お昼時のことです。トレイを持って買い物をしていた女性が、4、5歳くらいのお嬢さんに「〇〇ちゃん、アンパンマンのパン食べる?」と尋ねました。そして、こんな風に付け加えました「こんなに暑いと、あんパンは食べたくないかなー?」と。わたくしは傍らで聴きながら、暑い時は餡子系はちょっとキツいよね、と共感していました。
すると〇〇ちゃんが「・・・ママ、あのね、、、これはね、アンパンマンだから、、、」と話はじめました。「アンパンマンだから、食べたら暑くても元気になっちゃうよ。〇〇ちゃんの中にアンパンマンが入ってくるんだよ!!!」と、胸のあたりをポンポンしました。お母さんは笑顔になって、ひとつ、ふたつとトレイに入れてまとめ買いしていました。
パン屋さんの店頭に並んでいたのは、もちろんアンパンマンそのものではなく、アンパンマンの形をした「あんパン」です。しかし、〇〇ちゃんはこれらを、あんパンの形をした“アンパンマン”だと言うのです。そして、食べたときに自分の身体の中にアンパンマンが入ってきて「元気」になる、と伝えました。
今夏、日本全国で観測史上初の猛暑を記録、さらに大雨や台風上陸による甚大な被害など気象災害が続いています。こうしたことが消費マインドに影響し、商品が売れにくくなったり、売れなくなるのは自然の理です。提供する商品サービスによっても、吉凶が分かれるところでしょう。
猛暑になれば、夏物衣料やビール等の消費が増え、景気はプラスに。実際、アイスクリームメーカーでは「かき氷」製品の出荷量が3割、4割増し、生産が追いつかず販売休止のニュースが流れました。また女性客メインだった「日傘」が男性にも売れていたり、シャワーやお風呂の頻度が増え「ボディソープ」も売上増です。また、市場をリニューアルするケースもあります。例えば、アウトドアグッズは「夏休みレジャー向け」から「防災アイテム」として求められ、蚊やアブなどの「防虫対策」においては猛暑すぎて蚊の勢いが弱く、むしろ秋以降の「防ダニ対策」へと人の意識が移行しています。
一方、苦戦する商品の代表格にスイーツがあります。前出のパン屋さんでは夏場の菓子パンにおいて「餡子」ものは苦戦、マンゴーやベリー系のさっぱりとしたフルーツの菓子パンが夏の定番になっています。洋菓子の世界でも「生クリームとチョコレート」は売りにくく、常識的に5月頃より涼感のあるゼリー商品と切り替えてゆきます。
しかし、今その常識も変化しています。コンビニエンスストアのスイーツコーナーの冷蔵ケースを見てください。定番商品に生クリームとカスタードクリームのつまったシュークリームやエクレア等があります。ショートケーキなどは減ってはいても、和のカップスイーツにはしっかりと生クリームがトッピングされています。
個人店の洋菓子屋でも「半解凍で食べて美味しいケーキ」が研究され、実際にテスト的に販売されています。冷凍技術も進化している今「半解凍ケーキ」は十分にヒットの可能性大です。そして、消費者はもっと進んでいます。インターネットを検索すると、バウムクーヘン、カステラ、シュークリーム、ロールケーキ、大福など、さまざまなスイーツをお家の冷凍庫で凍らせ、半解凍や自然解凍の状態で食べ、ブログなどに感想などを綴っている発信がアップされています。
焼肉店も活況とのことですが、「暑い夏こそスタミナ補給!!」という無意識の価値観が消費につながっていると考えられます。そう考えれば、さっぱりとしたゼリーよりも「生クリーム系」や「餡子系」スイーツの方が、糖分補給ができて熱中症対策に良いと定義することができますし、実際、コンビニでもある程度は売れていると推察できます。
並んでいたパンを見て、あんパンではなくアンパンマンだと言ったお嬢さんを思い出してください。わたくしたちは、単に「モノ」を作って販売しているのではありません。商品サービスを通して見えない何かを提供しているのです。言葉で表現するならば、「エネルギー」、「価値」と言い換えることもできます。あんパンを食べたときに「元気」が出る。食べてすっかりあんパンが無くなっても身体の中にキャラクターが入り込んでいる。あらためて、商品サービスとは何か。それは「目には見えない、力、エネルギー、そして価値の交換である」そう再定義することができるのではないでしょうか。
猛暑で売れない。自然災害で売れない。消費マインドが冷え込んでいる。そんな声をあちこちで耳にします。実際にリニューアルのご相談が増えていますし、深刻な案件もあります。
が、今まで通りの条件が前提で商品やサービスを提供している限り「売れない」に直面するのは当たり前です。なぜなら、マーケットにおいて元来の「常識的考え方」が崩壊し、今までの「非常識」こそが「新しい常識」としてリニューアルされているからです。大きな変化のプロセスの中で、わたくしたち消費者の意識と行動がワンセットで変容しているのです。厳しい事実を直視しなければなりません。
しかも、商品サービスは日々マーケットの中で磨かれて「良質」や「美味しい」が当たり前になっています。品質面だけではありません。製品のプロダクトデザイン、製品に関わるグラフィックデザインもどんどん洗練されています。どの商品サービスも標準以上のレベルであり等しく優れています。「安かろう悪かろう」の時代が終わりました。むしろ「安くて良質」「安くて美味しい」「安くて可愛い、オシャレ、気分が上がる」商品が手に入ります。
言われて久しい「もう“モノ”は要らない」。この言葉の本質は「もう、ワクワクさせてくれない“モノ”なら、要らない」なのです。顧客は、他にはない“ストーリー”や”新しい価値”を求めています。パン屋さんで少女が母親に力説したように「これじゃなきゃダメなんだ、これじゃなきゃイヤだ」という消費体験を渇望しているのです。
御社の商品サービスは、アンパンマンの形をした「あんパン」を売っているのか、あんパンの形をした「アンパンマン」を販売しているのか、どちらでしょうか。一度立ち止まって考えてみてください。あんパンに昇華した「アンパンマン」のストーリー、商品の本質を語れることができた時、御社の売上げは飛躍的に伸びるはずです。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。