ネーミング・パッケージのリニューアルで大ヒットする法則
先日、ある社長との会食で「ロングセラー・大ヒット商品のネーミング、パッケージデザインの作り方・・・こうしたタイトルのメールマガジンやタイムラインが一日に何度も流れてきて、その度に心動かされて・・・」という話題になりました。社長は、かつての看板商品のネーミングをリニューアルしたいと希望されています。「さっぱり売れなくなって」という意気消沈した表情で話してくださいました。
類似のご相談が増えています。今、相談にみえる方々の多くが肌で「売れない、売れなくなった」を実感されています。2018年も後半戦です。昨年からの弊社のセミナー、日々の店舗廻訪、そしてコンサルティングの現場では、開口一番「お客様が集まらない」や「商品が売れない」「指名されない」といった販売直結の問題を口にされます。業界問わずです。
一方、集客も受注も成功しているのに、人材不足で困っているのが高齢者層サービス、介護や福祉の現場です。こうした傾向は、地域特性もありますが、ざっくりとつかめば日本の人口動態と相まっています。今更ながらですが、子供の数は減少し続けているので競争激化、それ以外のマーケットは縮小で、いよいよリアルに実感するステージに入ってきました。
そして、販売の厳しさは生活者の「節約意識」の高まりが原因の一つです。“良きこと”のように宣伝されてきた「人生100年時代」。日本でのブームはロンドンビジネススクール教授の提言から始まりました。一方、半径50メートルのわたしたち暮らし、現実世界はどうでしょうか。健康維持の難しさ、老前・老後破綻ギリギリの暮らしを見せつけられています。
人生100年を謳歌できる人はパレートの法則で考えるなら2割、8割は「不安」を感じている層、という仮説も成り立ちます。今まさに、こうした生活者の不安が「節約志向」につながり、お財布の紐を締めはじめています。こうした感覚は、日々地に足をつけて暮らしている生活者だけが持っている実感です。2017年11月の調査では、主婦の7割が「電気代を節約するために冷暖房は使わずに耐え忍んでいる」という驚きのデータも出ています。
冒頭の社長も、企業経営やビジネスという非日常にどっぷり集中している毎日です。いよいよ商品力が落ちていることを直視できず、先送りにしていたと言います。「看板商品のネーミングが古すぎる。一新して販売力を高めたい」とのことで、今の時代に売りやすい、話題になりやすい斬新なネーミングにリニューアルしたい。そこからパッケージデザイン、ツールデザイン・・・こうした“クリエイティブ一式”をリニューアルしたいという話でした。
正直な社長は「インターネットとかで、〇〇を変えただけで売上増!っていう情報を何度も見ているうちに、本当にできるようになった気持ちになったんですよ!」と。
わたくしは、敢えて「水」を差しました。
大手新聞社系列のトレンド情報媒体の成功事例は、誰もが知っている大手企業がほとんどです。クリエイティブの部分をリニューアルしてヒットにつなげてゆくのは、システムが構築され回っている大手企業だけ。その現実と静かに対峙することのないわたくしたち中小企業は、自社とは全く異なる次元で事業を動かしている大手企業の真似をし、痛い目に遭っているのが現実ですよ、と。社長はがっかり、肩を落とされました。
そこで、わたくしはA4サイズの真っ白い紙を取り出して、一辺10センチほどの「正三角形」を書きました。横線を4本引いて、5つの階層に分けました。そして、商品リニューアル戦略の構造は5層から成るピラミッドであることをご説明しました。
ピラミッドの一番上に「考え方」があります。第二層には「戦略」、次の第三層が「ビジョン」となり、ここに「目標」や「計画」が掲げられます。その下には「仕組み」があって、最下層が「クリエイティブ」。クリエイティブは顧客との接触接点となるアウトプットの表現体です。売り場そのもの、そして現場で使うツールであったり、スタッフの所作も含みます。それぞれの層が有機的に連携し支え合って、事業の全体像が成立します。
ピラミッド見つめる社長が口を開きました。「クリエイティブをリニューアルするだけでは駄目、ということでしょうか?」と。
わたくしは「大手企業の場合は問題ありません。事業の起点となる考え方から仕組みまでの階層が出来上がっているからです。最下層を部分的にリニューアルすることで、軽やかにヒットを飛ばすことができるのです」と説明しました。
すると「確かにかつて専門家に依頼したのですがうまく使いこなせず、かえって現場が混乱したんですよ」と社長。そして「自分たちでやろう」という発想になり、商工会議所等が主催しているセールスプロモーション講座などに参加したとのことです。結果「和気あいあいで、楽しいって言うか・・・」と。
中小企業には大手企業のようなシステマチックな仕組みがありません。器用で、気の利く人材が一人いてジェネラリストとしてさまざまな部門を兼務し動かしている。できる人がマルチタスクで手を動かしている、力技で回している、というのがほとんどではないでしょうか。ゆえに「餅屋は餅屋」といったプロフェッショナルを活用する考え方の習慣がありません。習慣がないので、プロを上手に使いこなすことができません。
そして自社でやってみようと、商工会などで開催される研修に参加されるのです。“売れるキャッチコピーの書き方”、“売れるデザイン”“売れるブログの書き方”等々。無料だったり数千円から数万円で受けられる破格の激安支援です。ここには、仲間ができる楽しさがあります。
が、これらの講座は「基本中の基本を教えてもらう学校」と捉えるべきです。大手企業であれば、学校を卒業したばかりの「新人研修」といった位置づけです。社員教育には有益でしょう。その講座を受けた次の日に教わった通り“売れるキャッチコピー”を書いたとしても、それが売上げに直結することはほとんどありません。商売には生かせません。
研修世界と、プロフェッショナルの実務では、考える次元も時間もまったく異なります。わたくし自身がコピーライターとしてクリエイティブの現場からキャリアをスタートさせていますので、肌身で感じています。誰もが使えるように「一般化」された教科書に「秘伝」はありません。秘伝とは極意であり「時と経験」の結晶。一般化すればたちまち価値がなくなってしまいます。教えることなどできないものです。
商品リニューアル戦略において、大手企業のやり方と中小企業の手法は全く異なります。業績が悪化したとき、わたくしたちは無意識に、“ネーミングを変えただけで”、“パッケージを変えただけで”・・・という魅惑的なキレイな文言を求めているものです。楽しそうな研修に参加すれば秘伝を教えてもらえるかも、楽しい仲間といっしょに商売が成功するかも・・・そんなラクな方向へと進んでいないでしょうか。逃げていないでしょうか。そこで立ち止まって考えを深めることができるかどうか。実はここが、大きな分岐点となっているのです。時間を有効に使うための大きな分岐点なのです。
商品戦略のピラミッド構造を点検してみてください。
御社には5つの層がありますでしょうか?
その5つが有機的に支え合う構造になっていますでしょうか?
考えることが8割、クリエイティブが2割。この割合を常に頭に入れておくことが大事なポイントです。
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