個人の力か組織の力かどちらが大切か
2018年サッカーワールドカップの日本対ベルギー戦。ベルギー選手の圧倒的な個の力の前に残念ながら日本は破れました。
この試合を観た経営者の中には、自社の組織運営と照らし合わせ、やはり社員一人一人の能力を引き上げることが大事だなと思われた方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、組織力だ!チームワークだ!といいながら、その組織を構成する個々の社員の能力が貧弱だとしたら、たとえうまく束ねたとしてもその組織の力というのはたかが知れているでしょう。
それでも敢えていいます。中小企業の経営においては個人の力ではなく、組織の力を上げることが先決です。
なぜなら、個々の力が弱いと組織としての力も強くはなりませんが、一方で個々の力を鍛えたとしてもやはり組織の力は強くならないからです。
そもそも個人の力を上げるというのはプレーヤーとしての能力を高めるということになります。もし経営というものが体操競技のように個人の成績を単純に足し合わせたもので勝負するものであれば、一人一人が強くなれば結果としてチーム成績もよくなるのですが、経営ではそうはいきません。
経営では、戦略から戦術という流れにおいて、個々の社員の働きを有機的にかみ合わせ、1+1を2ではなく3にも5にもしていく必要があります。
そのためには、個々の社員が組織的に動くための仕組みをつくり、それを実行指揮するマネージャー(管理者)の存在が不可欠ですが、大事なことはマネージャーを育てることとプレーヤーを育てることでは考え方がまったく違うということです。
ここを間違え、個々の社員の育成の延長線上にマネージャーが生まれると考えてしまい、いつまでたっても組織力で廻せないというケースが世の中にあふれています。
例えばこういう状況です。
プレーヤーとしての社員は何人かいるが、管理者は実質不在。個々の単独プレーがあるだけで、連携は弱く、仕組みでまわすという体制になっていない。会社としてある程度結果は出ているものの、一部の個人の頑張りに依存。忙しさもピークに達しており、このままいったらパンクする。
これではいけないと、チームを組織的に動かす必要性を感じてリーダーを任命。ただしその人物はプレーヤーとしては一番結果を出していても、組織をまとめるという点では決して優秀ではなく、結局はそのリーダーが仕事を抱え込んでしまい、パンク状態は変わらず。そして彼は耐えきれなくなり退職。業務を仕組みで廻していないため、彼が抜けたあとは現場は混乱、そして事業は縮小...。
このような例は極端としても、いつかはちゃんとマネージャーを育てよう、いつかはしっかり仕組み化しよう、そのような考えは順番が間違っているということです。
「まず構造(全体)があって、その中で個(部分)の世界が振り分けられる。」という現代哲学の命題がありますが、これは組織づくりにも当てはまります。
つまり、個々の社員が増えてくると組織ができあがるのではなく、最初に組織構想があってそこに社員というパーツを当てはめていく発想であるべきです。
組織は上からつくるのが鉄則。まずは組織づくりと仕事の仕組み化を進める役割を担うマネージャーを任命し、彼をプレーヤーとしてではなく管理者として育てることです。
管理者が先に仕組みをつくり、社員はその仕組みを廻していくなかで実力を上げる。そして、個々の社員の実力があがってくるとまた仕組みも進化させることができる。このサイクルを廻していくことが企業が強くなるための要諦です。
つまり、社員教育は実は社員を雇ってからはじまるのではなく、社員を雇う前にすでに始まっているのです。組織デザインと業務の仕組み化の構想があってはじめて社員は会社が望む方向に育っていくということになります。
社員を活かすも殺すもマネージメント側の問題。「うちの社員は駄目だ」と嘆く前に、自社の組織や仕組みの全体構造を見直してみることが求められます。
そもそも、中小企業が突出して優秀な社員を採用できるかというと、現実問題としてこれは難しい。サッカーで言うとベルギー代表のような190センチを超える長身選手はいつまでたっても御社には入社してこないのです。であれば170センチの選手でも敵と戦える戦略を練り、それを実行できる組織をつくること。これが経営者の役目です。
そして、組織づくりもそれを単独で考えてはいけません。自社がどのような独自の強みをつくり、どんな商品・サービスを提供していくのか。そういった戦略構想があってはじめて組織のあるべき姿も決まってきます。「組織は上からつくる」と同様、「事業も上位戦略からつくる」が鉄則です。
御社は個々の社員をバラバラに動かして試合に勝とうとしていませんか?
全体構想を軸とした組織力で戦えていますか?
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