なぜ好きで得意なことを仕事にすると失敗するのか
店舗ビジネスをするにあたり、顧客像の設定は重要なことですが、これを機械的にやっても何の意味もありません。必ず「“なぜ”その顧客なのか」ということを深く問う必要があります。まさか適当に顧客像を作る人はいないと思いますが、ここがすべての軸になるため、いい加減なことは絶対にできないのです。「なぜ」と問うことで、そしてその答えを明確にしておくことで、会社としてのブレない価値観がつくりあげられます。
この「なぜその顧客なのか」を問う時に、必ず結びついてくるものがあります。それは自社が提供する商品です。
顧客像の設定と、その顧客像に合わせて提供するモノやサービスは同時並行的に決めていくべきものです。ただ基本的にはモノやサービスありきではなく、顧客像が先にきます。自社が作りたいものに合わせて顧客を見つけることは「労多くして功少なし」の最たるものとなります。
ここに「プロダクトアウト」と「マーケットイン」という考え方をあてはめることができます。簡単に説明すると、プロダクトアウトは企業の持つ技術を活かし、企業がつくりたいものを市場に提供することです。マーケットインは、すでにある顧客ニーズに合わせてモノやサービスを開発し提供することです。
これ自体は特に新しい考え方でもなく、使い古されたものともいえます。しかし、店舗ビジネスを整理してみる時には非常にわかりやすくなりますので、今でも十分使える考え方です。プロダクトアウトとマーケットインのどちらが良いとか悪いといったことはありません。各社の状況に応じて使い分けるものであり、どちらも必要な考え方なのです。
我々が行う店舗ビジネスではプロダクトアウト型よりはマーケットイン型でのやり方が合う場合が多いでしょう。つまり顧客ニーズに合わせた業態や商品の開発がメインになるということです。基本的にBtoCで、一般のお客様が相手の店舗ビジネスでは、自社が作りたいから作った商品や、見たことも聞いたこともないような商品を提供してもなかなかうまくはいきません。後から顧客を見つけることは至難の業なのです。
ですから、いかなる場合でも顧客像の設定、さらにはなぜその顧客なのか、ということがしっかりと考えられていなければなりません。そうすれば上手くいったときもそうでない時も分析をする基盤ができ、修正していくことが比較的容易になります。
「なぜその顧客なのか」という問いに対する答えとして「十分な市場規模が見込める」「すでにそのニーズが出てきている」「世代が近く悩みを把握しやすい」「これまでその客層を相手にしてきている」など様々なものが出てくると思いますが、ここでの重要なポイントは、でてきた表面上の理由よりも、自身の感情の本質をしっかりと見抜くことです。
先述したように、「顧客像の設定」と「自社が提供する商品」は深く結びついています。確かに顧客像を設定することが時間軸では先に来ますが、いくら機械的に細かく顧客像を設定したとしても、自分が好きでもない、得意でもない、経験したこともないことを商品として提供するのはかなり無理があります。
それでも無理やりするとなると相当な努力が必要となり、お客様が満足するような品質のモノやサービスを提供できるようになるまで気の遠くなるような時間がかかります。しかもやっている本人が一番楽しくない状況です。この場合、最終的には利益が上がる前に資金がショートしてしまうでしょう。
ことほど左様に「自分が好きで得意なことが、お客様の問題を解決する」ことは店舗が継続する必要条件なのです。であればこそ、自身の感情をしっかりと知る必要があります。
しかしその一方で、自分が好きで得意なことであり、経験も豊富だが市場に求められていないことも多々あります。それを無視して参入するのがダメなプロダクトアウトの典型です。逆に、自分は好きでも得意でもなく、経験もないけど、ニーズがありそうだから(流行っているから)適当な商品で参入するのはダメなマーケットインの典型です。
これらのダメなやり方をすると、もちろんほぼ失敗します。そこで、それらを考えやすく整理できる方法をお教えします。
やりたいこと(will)、できること(can)、やらねばならぬこと(must)でまとめていく方法です。やらねばならぬことは、「求められていること」と言い換えてもいいでしょう。
これらを挙げていくことで現状がクリアになります。適当な参入を防ぐことができ、不要な失敗はほぼなくなります。
自分がやりたいことだけでは当然ダメで、そこに見込み客がいなければ事業は立ち行きません。誰もそれを求めていなければ結果は想像するまでもないでしょう。また、そこに困っている人がいても、自分にそれを解決するスキルが無ければ何もできません。
解決するスキルは持っているが、それがやりたくないことであれば長続きしないうえ、お客様にとっても満足とは程遠いものとなります。このようにWill、can、mustがそろってようやくスタートラインに立てるのです。
新たに店舗展開する場合や、既存の店舗の商品を見直す場合はぜひこのwill、can、mustを使って現状を整理してみてください。自社が向かうべき道が必ず見えてきます。
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