“売れない”を“売れる”に変える、たったひとつの根源的法則
経営の「経」という字には「たて糸」という意味があります。
「織物の、機械に向かって縦方向に通っている糸。緯糸(よこいと)の上、または下となり、多くはこれと直角に組み合う」と広辞苑では説明しています。御社のビジネスにおいて、営みを組んでゆく「たて糸」とは何でしょうか? たて糸は「これが無ければ織りあがらないという通貫した考え方や思想」とも言い換えられます。
ある社長がご相談にいらっしゃいました。ご自身の思い入れで作った戦力商品が、いまひとつ売れなくて困っている。何とかしてほしい、とのことです。
社長曰く「代理店や既存店頼みだった販売体制を反省」し、仕掛けてゆこうと自ら先陣をきって営業する毎日。なんとか大手百貨店や量販店との商談を決められます。が、しかし、バイヤーの「商品デザインがうちの顧客とは合わない」の言葉。日々テンションがダウン・・・。しかも社内では、社長がいない間に任せていた専務とベテラン社員が衝突、ベテラン社員が数名が去る事態で社内の雰囲気も最悪・・・。
社運をかけた主力商品の開発秘話から、ビジネスの低迷、社長ご自身の分析などを拝聴しながら、不運の重なりに感情的には居たたまれない気持ちになりました。一方、進むべき方向をとらえる時、直感したのが「作用・反作用」の法則です。
あまりにも有名な「作用・反作用」の法則。これはニュートンによって定式化されたものです。簡単に言えば「相手を押せば同じ力で押し返される」というものです。この相反する力のバランスこそが、いちばん無駄なエネルギーを使わない、自然な動きを作りだす根源だと言われています。
例えば「歩く」こと。ここにもニュートンの法則が働いています。立ち止まっている状態から歩き始めるとき、地面がその片足に力をおよぼし、その力がわたしたちの身体を前に向けて加速させます。大事なことは、この法則を知っていても知らなくても、自然に歩くことができる、ということです。歩くことは「脳からのきめ細かい指令によるものではなくて自律的である」という事実。つまり、わたしたちの暮らしはこの自律的な「自然の理」の中で成立している、ということです。
少しだけ昔話をします。わたくしの家の近くには、小さな教会があります。信者ではありませんでしたが、お菓子目当てのわが子の手をひいて通っていた時期がありました。日曜学校では、お祈りのあとシスターの講話があります。ある日、ささやくような静かな声でこう話されました。
あわてないでおちついて
できるだけ穏やかな気持ちでいるように
自分以外のひとが穏やかでなくても
攻撃的であっても
穏やかになってほしい、と思うのなら
まずはあなたが穏やかになりましょう
そして、イタリア中部のアッシジに生まれた聖人、フランチェスコの言葉を引き合いに出されました。その言葉とは「理解されるより理解することを、許されるより許すことを」。聖・フランチェスコが遺した“平和の祈り”だそうです。
人に対して望むことがあるとき、望む前に自分の方から行動する。この言葉に触れた時、ニュートンの法則と同じではないかと直感しました。こちらからの働き=作用と、それに対する相手の反応=反射作用(reaction)のバランス。
ひるがえって、商品戦略というビジネスの土壌で考えてみます。世界は、自社の働きとお客様のリアクションのバランスで成り立っている、ということに気づきます。
売上増の方程式。一般的には「売上=商品単価×個数」といったパターンで考えます。しごく真っ当な理屈で、当たり前です。ですが蓋を開けてみれば、現実世界はもっとユニークです。「こうすれば、ああなる」という方程式だけで売上が生まれるわけではありません。人智を超えるような、不思議なことや偶然の積み重なりであります。それはなぜか。ビジネスもお客様が人間であるかぎり、自然の法則が働いているからです。
商いの世界も「与えることによって与えられる」という作用・反作用のバランスで成り立ってると考えられます。その根源は「あなたが喜んでくれて、とてもうれしい」という、自律的、自然発生的な心の働き、理屈抜きの反射作用だと気づきます。わたしたちのビジネスが、この自然の理にかなった動きであるかどうか、が問われているのです。
売れない商品を売れるようにするための、たったひとつの法則。それは「顧客の研究」をし「顧客の欲求を満たす」ことに他なりません。お客様の「うれしい」を自然発生させることではないでしょうか。
計算ずくで売上をあげる。
非常に明快でスカッとした言葉です。この言葉の表面だけを捉えれば、売上の方程式を作って戦略を策定し確実に実践していけば売上増、という意味です。論理の破綻はありません。が、しかし、ここに盛り込まれていない、一番大事な要素があります。それは「人の心、欲求」です。人の心、人間という存在事態が「自然の一部」であることが、この数式の限界を表しています。
ビジネスにおいて「方程式づくり」や「仕組みづくり」は大事なことです。これからの時代は、人工知能やロボットなどのテクノロジーによってこれらの構築はより精度が高められ強化されてゆきます。一方、変化しない「不易」もあります。それは、私たち「人間」です。人は自然の一部であり、その「心」は自然界の法則にしたがっています。「自然な(ビジネスの)動きは絶妙な相反バランスにある」ということを肌で感じる動物的直感、ある種の愚直さが求められています。
お客様に変わっていただきたいのなら
まずは社長ご自身の考え方を変える
お客様に買っていただきたいのなら、
まずは買っていただける商品サービスを
儲けて喜びたいのなら
まずはお客様に喜んでいただけることを
前出の社長は、商品に対してご自身の「好み」と「思い入れ」が強固であり、「ひと儲けしたい」という強烈な欲求を押し出しておられます。一方で、社内マネンジメントに身をやつし「時間」という資源を浪費しています。わたくしたちは「商売をする人」であり「聖人」ではありません。が、清濁あわせ持つ現実世界、実務の現場において、「商」と「聖」を相反するものと定義するのであれば、これさえも絶妙なバランスをもって、自然の理として作用してゆくのではないでしょうか。聖人になれ、とお伝えしているのではありません。テクノロジー、システム、仕組みにも根源的な法則があります。
うまく機能していないのであれば、御社の「たて糸」を見直す時です。
御社のたて糸は、社員でしょうか? 技術力でしょうか? 商標や歴史でしょうか?
会社の真のたて糸に気づき、社長の「変わりたい。変わるんだ。」があふれ出た時、バランスが絶妙に変わります。勇気を出して、一歩だけ前へ踏み出すことです。
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