親子経営 親父の出処進退
先日、人材派遣会社の若い社員と話をしていました。親から子への経営継承において最も大事なことは何でしょうかとの質問がありました。しばらく考えたのち私が言ったことは、それは「親父の出処進退」如何に尽きるということでした。
創業経営者はビジネスを始めるにあたり、誰かに事業を継がそうとして事業を始めることはありません。結果としてビジネスが順調に成長し、社員が増え組織が出来、企業としての体をなしてきます。
そうして初めて事業の継続という課題が出てきます。後継者候補として子供がいれば子供に継がせようと多くの経営者が考えます。後継者の選択として安易なように思われますが、実はそれには理由があります。
財務内容がとても良い会社の場合、多額の資産を子供に継がせたいと思います。また一方で、8割の会社が赤字だと言われています。そういった財務内容があまり良くない会社の場合、負債を含めて子供に継がせるしかないと考えます。
いずれの場合も父親の都合であり、父親の我欲と見栄が為せることだと言えるかもしれません。ここでは継ぐ者の想いや気持ちは考慮されません。一般の人からは、後継者は気楽でいいなどと思われることが多くありますが、一概にそうと言いきれない事情もある訳です。
世の中には後継者がいなくて、やむを得ず廃業する会社が少なからずあります。また、子供がいても会社を継ぎたくないというケースが結構あると言われています。そんななか、子供が後継者として会社にいるというとても恵まれたケースがあります。
それを恵まれていると思うかどうかは父親の考え方次第です。折角、跡を継ごうと意気込んで入社した息子のやる気を削ぐようなことをする父親が結構いるものです。子供のころからの親子の確執をそのまま会社に持ち込んでしまうようなことをしてしまいます。
そして二言目には必ずうちの息子は頼りないと言います。息子が30才になり40才になり、たとえ50才になっても相変わらず父親は、息子は頼りないと言います。そういつまでも言われる息子は堪りません。
得難い後継者を父親自らが潰してしまうことになりかねません。息子を後継者にと決めた以上、跡を任す覚悟を父親がしなければなりません。父親の責任の下、たくさんの経験を積ませ、思い切っていろんなことをさせてみることです。
そして息子に任せたときには、見守るという辛抱も必要になります。あれこれと細かいことを指摘するのでなく、大筋で間違っていなければそれでよしと考えてやることが大切です。
父親にとって最も重要な事は自分の出処進退を明らかにすることです。以前、何度か話題にしています、ロッテのお家騒動の原因はまさにここにありました。お家騒動が起こった当時、92才になる父親である会長が長男と次男のどちらを後継者にするとも決めきれずにいました。
結果、そのことが兄弟の経営権を争う原因となりました。創業者の父親が一代で大きな企業グループを創り上げたことは万人が認めるところですが、いつまでも経営権を放さず、権力や権威を捨てきれずにいたことはあまり評価されることではありません。
親から子への経営交代は、父親が自分の出処進退を明らかにしなければ何も始まりません。後継者である息子がいくら継ぎたいと思っても、父親にその気が無ければ話になりません。
そんな馬鹿な話があるのかと思われるかもしれませんが、現実にはとても多くの事例があります。いつまで経っても父親が辞めると言わないので後継者の息子がとても困ってしまうという話はたくさんあります。
自分が創った会社だから自分の好きにして何が悪いとうそぶく父親に出会ったこともあります。その父親の陰で父親の強欲さにあきれ果て、なすすべ無くあきらめてしまっている息子を何度か見たことがあります。
経営者の出処進退は企業が社会の公器であること、企業が継続性を求められることなどを勘案して判断すべきと考えます。また、ひとりの人間として、人生の節々のけじめとして出処進退を明らかにすることが重要であると考えるところです。
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