社長に不可欠な「質問力」を磨く―「情報発信」の「即時性」について考える―
これまで、「経営者による情報発信の重要性」について、私の見解を様々な形で述べてきました。それは、その内容に関してどんな風に考え、実際どんなことを発信すればいいのか、その効果はどんなものなのか、といった点について、いろいろな角度から解説してきたということになります。
今回「情報発信」について、少し違う視点で考えてみたいと思います。
それは「即時性」ということです。
どれだけスピード感或いは瞬発力を持って発信できるか、という点について考えてみたいのです。
これまで「情報発信」の「即時性」ということについてはあまり触れてきませんでした。取りあえず、「即時性」よりもその内容について深く追求し、吟味すべきだと考えたからです。
しかしながら、ときにこの「即時性」が思わぬ副産物を生み出すことがあるので、改めて考えてみてもらいたいのです。
ところで、「情報発信」の「即時性」の最たるものは何だと思いますか? 少し考えてみて下さい。スマホによるリアルタイムの画像アップ? メールに対する即行のレスポンス?・・・・もちろんそれらも極めて「即時性」の高いものに違いはありません。しかし、ここではもう少し、その内容をひねって更に深めた上で考えてみたいのです。
私は、最も「即時性」の高い「情報発信」、それは、「質問」だと思うのです。
「質問」・・・? この答えにはいささか違和感を持つ方がいるかも知れません。
「「情報発信」というのはこちら側から何かを提供するものでしょう?「質問」というのは、相手の発言があって初めて成立するものだから、なんか違うんじゃないの?・・」
という声が聞こえてきそうです。
なるほどその通りです。「質問」は、そもそもが主体的な情報発信ではありません。ボールを受けてから初めて発生するものなので、「情報発信」という言葉にはなんだか馴染まないんじゃないか、と思われるのはよくわかります。
ただ、ここでもう少し深く考えてもらいたいのです。「質問」が、単に用語の意味がわからない、とか、よくわからなかったのでもう一回言ってもらえませんか、とかいう程度のものであれば、確かにそうかも知れません。
しかし、相手の発言をよく聞いた上で、自分の考えと違うところがあるのでよく理解できないのだが、とか、その発言の裏にあるものをもう少し聞きたい、何故ならば・・・といった質問であればまた意味が違ったものになります。
つまりそれは、相手の情報を受け止めた上で、こちら側の見解なり異なる情報をかぶせて、より議論を深めようというものだからです。
ここではある程度、こちら側からの情報の発信がなければ質問そのものが成立しません。
こういったやり取りは、まさに「情報の高度な交換」なのではないでしょうか。
相手の情報を受けた上で適時発せられる質の高い「質問」は、それ自体が呼び水となって、より深い情報交換のステージへと我々を導いてくれるかも知れません。
つまり、良い「質問」というのは一種の「触媒」となって議論の質を高める役目を果たしてくれるのです。
近年、「質問力」といった言葉が注目されているのは、こういった現象を期待してのことかも知れません。
「質問」というと、どこか受動的な行為の延長のような印象が拭えませんが、「情報発信」といった要素が含まれていることを意識したならば、ある意味能動的で踏み込んだ知的行為ということもできるのです。
私は仕事柄、他者の主催する研修やセミナーにもよく出席します。その内容が高レベルで、講師の質が良かったときは、メモを取る手が止まらず、こちらからも突っ込んで聞いてみたいことがいくらでも湧いてきます。ですから、セミナー講演の後、質問タイムが儲けられているときは、必ず手を上げて質問をするように心掛けています。
ただ、客観的に見ていると、こういうとき、日本人はまず質問しません。聴衆の数が多くなればなおさらのことです。気後れするからでしょうか。確かに大勢の中で手を上げて質問するのは、かなり勇気がいりますし、いささか恥ずかしい思いもします。しかし、せっかくのチャンスなのに質問しないのはもったいないことです。とはいえ、そこは大勢の人間の貴重な時間を使っている場ですので、つまらない質問をしたらそれも迷惑です。
私の場合、講演を聞いているときから様々な疑問が湧いてくるので、質問せずにはいられないのです。但し、それが自分本位のつまらないどうでもいいような質問にならないよう気をつけています。聞き方としては、自分の経験からくる見解などと合わせて、何故この質問をしたのか、相手にもよく理解できるよう言葉をまとめます。これは、考えてみれば、ある意味立派な「情報発信」ではないでしょうか。
しかも、その場でタイムリーに行なう行為ですので、極めて「即時性」が高いと言えます。
いかがでしょう。「質問」というものが、自分にとって極めて「即時性」の高い「情報発信」と捉えたならば、機会があればそれを積極的に行なうべきですし、そのチャンスを逃すのはもったいないことです。
先述のように、日本人にはあまり積極的に質問をする人が少ないので、質問をした人のことは、それを受けた側(講師など)が必ず印象的に覚えています。そうなれば、後で名刺交換などのとき、他の参加者とは異なる少し踏み込んだ会話なども可能になります。
知的好奇心を満たそうとする行為は、色々な意味で副産物を生み出します。
「質問」を、一種の「情報発信」と捉えて、これからの研修やセミナーなどに臨んでみて下さい。
これまで以上に様々な成果が生まれるに違いありません。
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