No.063 経営者は数字の意味を正しく理解しなければならない
写真は今年の新春に十国峠から撮影した富士山です。
神々しいまでに美しいこの山が、実は私たちの社会に恐ろしい影響を与えるかもしれないパワーを内側に密かに貯め続けているのです。
富士山は誕生してからおよそ10万年と言われる火山としては比較的若い火山です。
過去2000年程度の歴史を振り返ると、300年から400年に一回の割で比較的大きな噴火を繰り返していることが分かります。
この富士山の噴火に関して政府は南海トラフに起因する大規模地震とは異なり、噴火確率を発表していません。ただ、様々な学会や民間機関において研究がなされ、それぞれの見解に基づいた確率は発表されています。
占い師もどきの人々も様々に勝手な議論を繰り広げているので話がややこしくなっていることは間違いありません。
ちなみに私が手元にある荒っぽい資料で単純に統計的処理を施して向こう30年以内の噴火確率を計算すると、二項分布でもポアソン分布でも20%程度の数字が出てきます。
ただ、本稿で指摘したいのは富士山が噴火する確率の話ではなく、一般的に経営者は数字をどう解釈しなければならないのかという論点についてです。
経営者は数字に敏感でなければなりません。
それは一般人が自分の健康状態に敏感でなければならない、母親が子供の表情の変化に敏感でなければならないというのと同様なのです。
経営者がその会社の健康状態を把握するためには二つの方法があります。
直感と数字です。
直感による把握は、経験と経営者としての自覚なしにはできません。
もう一つの数字による把握は、誰にでもできます。
しかし、経営者の中にはこの数字そのものを理解していない方も多々見受けられます。
経営者が財務会計上の処理をできなければならないということではありません。
しかし、意思決定や業績評価のために必要な管理会計上の数字に敏感でなければならないことは言うまでもないでしょう。
実は、それらの数字もスナップショットの数字を評価するだけではなく、その変化率について敏感でなければならないのです。
それは各管理会計上の数値の意味すること、その変化の意味することを理解していなければならないということです。
管理会計上の数値については、熟練した経営者は独自の相場観を持っておられ、瞬間に評価ができるようですが、しかし、いろいろな経営者とお話をしていると、確率論になると理解が及んでいない方が極めて多いの驚かされます。
身近な確率の数字で、私たちがほとんど毎日接している数字があるのですが、お気付きでしょうか
天気予報の降水確率です。
東京都東部の降水確率が30%と言われた時、何が30%なのでしょうか。
これは同じ状況で予報を出した場合、100回中30回は1mm以上の降水があるということを指しているにすぎません。
では一方の南海トラフに起因する大地震はどうでしょうか。
向こう30年以内に生起する確率は70%と言われています。
しかし、この数字を聞いてパニックになる人を見たことがありません。
降水確率が70%と言われたらほとんどの人は傘を持って外出するでしょう。
しかし、同じ70%でも地震には備えないのです。
何故でしょうか。
向こう30年以内に生起する確率なので、まだ切羽詰まっていないとお考えの方がほとんどなのでしょう。
ところがこの感覚には心理学上のバイアスがかかっています。
人は正常性バイアスと呼ばれる認知上のバイアスにとらわれがちなのですが、これは自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしがちなのです。
ちなみに、30年以内に南海トラフに起因する大地震が生起する確率が70%ということは、20年以内であれば40~50%、10年以内であれば20%の確率となります。
イチローがヒットを打つ確率とほとんど同じです。
私たちはイチローが打席に入ると、当然のように出塁することを期待しますが、地震がおきることを切羽詰まった感覚として受け入れることはありません。
始末が悪いことに、南海トラフに起因する大地震が起きる確率そのものは100%なのです。
プレートが毎年移動し続け、境界面に圧力がかかり続けている以上、いつかかならず起きるのです。
ということは、イチローがヒットを打つ確率と異なり、向こう10年間に20%という確率は、一日経つとそれだけ確率が上昇していきます。そして、10年後に20%の確率で地震が起きるのではなく、明日起きても全く不思議ではないということを示しています。
地球物理学上の歴史年表における10年や30年などという期間は、ほんの一瞬の誤差の範囲でしかないことも銘記しなければなりません。
私たちは日常いろいろな数字に囲まれて過ごしています。
何気なく耳を通り過ぎていく数字ですが、それぞれの数字にはそれなりの意味があります。
それらの意味をしっかりと理解し、その変化に敏感に反応していくことが経営トップに求められます。
情報は私たちの身近に溢れているのです。
それらの情報から、必要な情報を的確に選び出し、それを経営に生かしていかなければ手遅れになることばかりです。
後世から、なんであの経営トップはこれだけの情報に囲まれながら何も考えずに経営を続けたのかと言われないよう、いろいろな情報の意味することをしっかりと把握していかなかければなりません。
それは大変な作業です。しかし、それを丹念に行い、新しい時代に的確に適応したものだけが生き残るのです。
生命の歴史がそれを雄弁に語っています。適応したものだけが生き残るのです。
まして、21世紀の私たちの社会は、過去の人類が経験したことの無い速度で変化を遂げています。この社会で生き残っていくのは、並大抵のことではないという覚悟を持たねばなりません。
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