言葉のもつ力の大きさを知り、発するべき人が社長である
「もし、社員ががんになったら・・・・・・どうしますか?」
日本人の死亡原因の1位、罹患者の3人に1人が働き世代であるといいます。2月4日は立春、そして世界対がんデーなのだと、今年初めて知りました。そのため、この日の某新聞には、がんをテーマにさまざまな角度からの記事がいろいろな面に掲載されていました。
思春期・若い世代の経験者、治療を経て復帰したプロ野球選手、難治がんで闘病中の記者のコラム・・・・・・今は誰もが罹患する可能性があり、医療の進歩で、がんと共生して生きていく時代になったことを改めて感じます。人は、何事も自分事になると、物事の見方、考え方が変わるものです。どこか他人事としてとらえていた私自身も、ある近しい人の出来事から、ここ最近は今までと全く違った問題が見えてくるようになりました。
この日の記事にも、伊藤忠商事の専務執行役員の方が登場していました。昨年夏、企業として、仕事と治療の両立支援の先進的な取り組みがニュースになりました。特別検診の実施、高額な先進医療費の全額負担、子供への育英資金の拡充など、闘病しながら働き続けたいと思う社員を、会社全体でサポートしていく態勢を整備したのが同社でした。
現在、従業員約4300人の同社でも在職中に亡くなる人の9割はがんが原因だといいます。当事者にとっては、当然ながら経済的な支援はこの上なく重要なことです。しかし、それ以上に大事なものは、「戻る場所がある」「居場所はここだ」というその安心感、がんになっても絶望させない、というのが本当の意味での健康経営の進め方というお話には大変な説得力があります。
「家族ががんになれば、正面から受け止め、支え合う。職場だって同じはず。
支えられる社員は自分の居場所はここだと思ってがんばれるだろうし、
みんなで支えようという気持ちが生まれれば、組織は以前より強靭になる。」
このコメントは、対外的なCSRを意識したものでなく、企業は人で創られている、その人を大事にせずに何を大事にする、という血の通った施策であることが紙面の文字を通しても伝わるものでした。
この話を聞いて、「大企業だからできること」「現実的に余裕がない」「理想と現実は違う」「中小企業にはむずかしい」といった発想になりますか?
紙面を読んでいるうちに、怒りを通り越した悲しさ以外の感情が出ないようなコメントの数々を目にしました。それを発しているのは、経営者であり、経営層なのです。
「病気の人を置いておく余裕はない。体調が優れないことにしてこのまま来なくていい」「あなたのような人がいると、周りに影を落とす」
・・・・・・とは、罹患者が実際に経営者、上司から言われた言葉。
「治療に専念して元気になったら帰ってこい」「どんな状況になっても面倒をみる」
・・・・・・と、一方で言える企業がある。
これは企業規模だけの問題なのでしょうか?
大手商社のような手厚い経済支援があれば、それは大変ありがたいことです。ですが、社員が求めているのは、それだけではないはずです。一番、本当に、心から求めているのは、自分の居場所があること、帰ってきていい場所があること、安心できる居場所がある、極論を言えば、それだけが必要なのではないでしょうか。
もちろん、社員を一人雇用し続けるには当然ながら経費がかかります。企業の状態によっては正直言って、厳しい状況だということも考えられます。そのときは、その状況を正直に言ってもいいはずです。心が伴っている前提として、「戻る場所はある」「待っている」という言葉は、財務的な余裕というよりも、精神的な安定と余裕がある人にしか口に出せないものであり、それを言うことができるかどうかは、社長次第です。
社長のひと言は、ご自身が思う以上に社員の心に響き、そして残ります。こんな状況のときこそ、一番言ってほしい言葉を言える、それも社長です。経済的、時間的な余裕が少なくても、一瞬を希望に変えることができるのも社長の言葉です。
薬にも勝る社長の言葉、そのパワーを改めて知って、
本当に大切にしていただきたいと心から思う日でした。
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