No.062 経営者がまず育てるべき人材とは?
前回、人を育てる組織を作りましょうと述べたのですが、ある経営者と話をしていたところ、どんな人材を育てればいいのかが問題だと言われました。
現在、それほど大きな会社ではなく、15人程度を雇用し、派遣社員を入れても20人程度のサービス業の経営者の方です。
どのような人材を育てればいいのかという質問に一言でお答えするのは極めて難しいことです。
企業にはいろいろな人が必要で、ある一定のタイプの人だけでは困るからです。
ただ、私がこの質問を受けて即答する際に、お答えすることは決まっています。
「独断専行できる部下を育ててください。」と申し上げるのが常です。
こう申し上げるとほとんどの経営者の方は「エッ?」という顔をされます。
そんなことをされたら大変だ、ということなのでしょう。
「独断専行」という言葉を誤解されているのです。
「独断専行」という言葉は、あたかも上司の命令を無視して勝手に行動を起こすことのように用いられています。
また、部下の意見も全く聞かず、トップが勝手気ままに方針を決めることを「独断専行」と思い込んでいる学者や評論家も数多くいます。
これらの学者や評論家、マスコミは「独断専行」が本当に意味するところを知らずにこの用語を使っており、それが一般に定着してしまっているようです。
「独断専行」という言葉の意味については別のコラムで述べていますのでそちらをご参照頂きたいと存じますが(専門コラム「指揮官の決断」No.067 「独断専行」のすすめ)、本来の意味は一部の学者や評論家の考えているものとは全く異なっています。
独断専行と言うのは軍事用語であり、情勢が刻々変化していく戦場において、上級指揮官からの命令を受けることができない場合や、上級指揮官の命令が明らかに現下の情勢に適合していない場合の現場指揮官の判断及び措置として必要な行為なのです。
そして、この独断専行には厳格な条件があります。
- 常日頃、上級指揮官との間に十分な意思疎通ができており、上官の意図に従った意思決定ができる。
- 緊急の事態であり、明らかに上級指揮官の命令があらゆる状況に照らして不合理であるが、上級指揮官の判断を改めて仰ぐ手段がない。
- 事後、可能な限り速やかに報告をする。
- 恣意的ではなく、結果について全責任を自ら取る。
つまり、誰の意見も聞かず、勝手に意思決定をして行動することを独断専行と言うのではないのです。
それは暴走であり、単なる恣意的行為であって、「独断専行」とは全く性格の異なる行為なのです。
評論家や学者が誤るのは、多分、先の大戦における満州における日本陸軍の暴走が頭にあるからでしょう。
関東軍が大本営の指示を無視して戦線を拡大し、大陸における情勢を取り返しのつかない事態に追い込んだことを関東軍の「独断専行」と勘違いしているのです。
これは関東軍の暴走であり、独断専行ではありません。
皆様の理解とは逆かもしれませんが、独断専行は行わなければならないことすらあります。
上級指揮官の命令が明らかに現状に照らして不適当である場合があります。上級指揮官に的確に情勢が伝わっていない場合などに起こりうることです。
そして、そのことを報告している余裕がない場合、現場指揮官はその場で臨機応変の措置を取らなければなりません。上級指揮官の命令が明らかに不適当であることを知りつつ、その命令を固守することは現場指揮官を免責しないのです。
彼は現場の責任者として最善の措置を取らなければなりません。それが「独断専行」なのです。
独断専行という概念が、これほど厳しい内容を含んでいることに思いもよらない小賢しい学者や評論家に惑わされてはなりません。
私が「独断専行できる部下を育ててください。」と申し上げているのは、そのような背景を持って申し上げているのです。
経営者が不在でも的確に判断できる次席が経営者には必要です。また、現場にはその都度上司の指示が無ければ動けない担当者は不要なはずです。
「独自の判断で的確な意思決定のできる部下を育てること」 それが「どのような人材を育てればいいのか」というお尋ねに私が一言でお答えする際に自信を持って申し上げられる一言です。
「独断専行」の意味を正しくご理解ください。
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