「経営者のためのクライシスマネジメント」 No.059 クライシスマネジメントとは?
当コラムはNo.058まで専門コラム「指揮官の決断」というコラムタイトルで掲載させて頂いてきました。新しい年を迎えたことを機に、コラムタイトルをコラム「経営者のためのクライシスマネジメント」と改め、クライシスマネジメントの概念を分かりやすく説明しながら、経営者の皆様にお役に立つTipsをお送りしていくこととさせて頂きます。
なお、専門コラム「指揮官の決断」は従来のまま専門性の強いコラムとして続けて参ります。https://aegis-cms.co.jp/column を時折ご覧いただければ幸いです。
さて、「経営者のためのクライシスマネジメント」とというタイトルを付けたからには「クライシスマネジメント」とは何かを説明しなければなりません。
リスクマネジメントという言葉をお聞きになることはよくあるかと思いますが、それに比べてクライシスマネジメントという言葉は耳慣れない言葉かもしれません。
私自身、危機管理を専門としておりますが、リスクマネジメントの専門家と紹介されることが度々あります。
多分、世の中では「危機管理」、「リスクマネジメント」、「クライシスマネジメント」という言葉の概念がよく理解されていないのだろうと思っています。
実は、当コラムではすでにこの違いについて説明をしています。専門コラム「指揮官の決断」 No.029 「危機管理」、「リスクマネジメント」そして「クライシスマネジメント」 をご覧ください。
したがって、本稿ではこの概念の違いについてページを割くことを極力控え、経営者にとってクライシスマネジメントとは何なのかについてお伝えしたいと思います。
大変残念なことなのですが、多くの経営者が危機管理を誤解されています。
曰く、「危機管理も大切だけれど、まず収益を上げなければ」、「危機管理は政府や大企業が行うもの」あるいは「危機管理はお金がかかる」とお考えの経営者が圧倒的に多いのです。
さらに残念なのは、このような誤解のために多くの企業が危機管理を後回しにしてしまい、しっかりとした危機管理態勢を持たないままに危機を迎えてしまっていることです。
実は危機管理とは危機に陥った時の対策をする活動ではなく、しっかりとした組織を作る活動なのです。
危機管理と収益を上げる活動は別物ではなく、しっかりとした危機管理をすれば収益は上がっていきますし、それができていないと、危機に際して対応できないばかりではなく、一時的に収益を上げることが出来ても、長期に渡り右肩上がりの事業を継続することはできません。
さらに、危機管理にお金はかかりません。かかるとお考えの経営者は、専門部門の設立や専従職員の採用、あるいは高額な報酬を要求するコンサルタントとの顧問契約が必要とお考えなのですが、本来の危機管理にはそれらは全く無用です。
どうしてそうなのかをご説明しましょう。
リスクマネジメントを危機管理だとお考えの経営者は少なくありません。実はここに問題あります。
リスクマネジメントは生命保険に入るのに似ています。
自分に万一のことがあった場合、家族にはどのくらいのお金が必要なのかを計算します。重い病気に備えて特約も検討します。
そして、自分の収入を顧みて契約できる保険商品を決定します。
これはリスクマネジメントが行う一連の作業とよく似ています。
ある事業を行うに際し、まずその事業によって得られる利益と失敗した場合の損失を比較衡量します。つまり、その事業に伴うリスクを評価するのです。
そこでそのリスクが出現した場合に耐えられないと評価されるとその事業からの撤退が決定され、耐えられると評価される場合には、そのリスクが現実になった場合の対応策の検討がなされたうえでGoサインが出されます。
このリスクの評価及び対応策の策定という作業は極めて広範囲に及び、かつ極めて専門性の高い作業ですので、数多くの専門家が必要となります。
専門部署を作り、専従職員を採用しなければなりません。
当然のことながらお金がかかります。
先に、多くの経営者の方々がリスクマネジメントを危機管理だと考えておられることが問題だと申し上げましたが、何が問題かというと、リスクマネジメントと危機管理は別物だからです。
リスクマネジメントは文字通りリスク(危険性)のマネジメント(管理)です。
危機の管理ではないのです。危険性を放置すると危機になることがありますが、それはリスクマネジメントの失敗の結果なのです。
リスクには取るべきリスクと取ってはならないリスクがあります。
あらゆるリスクを避けていると企業は何もできないからです。
しかし、不注意に取ってしまうと大きな損失を被ります。これをしっかりと見極めなければならないのです。
ある意味で、リスクマネジメントとはリスクをいかに味方につけるかというマネジメントであるとも言うことが出来ます。
一方のクライシスマネジメントはどうでしょうか。
クライシスマネジメントは文字通りクライシス(危機)と向かい合うマネジメントです。
リスク(危険性)と異なり、クライシス(危機)は取ってはなりません。いかなる危機も徹底的に排除しなければならないのです。
リスクマネジメントが生命保険に入ることであれば、クライシスマネジメントは病気にならないよう健康に留意することと言えます。
そのためにまず健康で病気になりにくい体を作ることから始めます。
飲酒の量をコントロールし、バランスのいい食事を心がけ、一駅手前で下車して歩く距離を増やしたりという努力から始めるのです。
健康な体を作り、十分な運動を日課として生活していけば、勉強や仕事にも打ち込むことができ、成績や生産性が向上していきます。
これらにはお金がかかりません。しかし、自分でやらなければ誰もやってくれません。専門部門や専従職員の採用、コンサルタントとの契約などは必要ないと申し上げたのはこのためです。
このようにクライシスマネジメントは、まず危機のそのものに陥りにくい体質を作り、企業の基礎体力を築いていきます。
クライシスマネジメント(危機管理)が事業を成長させるというのはこういうことなのです。
リスクマネジメントは重要です。いくら健康的な生活を送っていても生命保険に入っておかないと万が一の時に家族が路頭に迷うからです。リスクマネジメントを軽視してはなりません。
しかし、それは危機管理ではありません。別の概念なのです。
残念ながら、リスクマネジメントの専門家と称する方々の中にはこれを理解せず、自分たちが危機管理の専門家だと思っている方が多数います。
多分、それらの専門家たちは、リスクマネジメントそのものも理解していないのです。
専門家ですら誤解しているのですから、多くの経営者が誤解されるのは無理もないのです。
危機管理は費用や経費ではありません。それは収益をもたらすマネジメントです。
一時的なホームランではなく、長期に渡って右肩上がりの成長をもたらす基礎体力を錬成するマネジメントがクライシスマネジメントです。
次回以降、折に触れてこのクライシスマネジメントの実際についてお伝えしてまいります。ご期待ください。
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