第51話 社長の仕事は、”ジレンマから抜け出す”こと
「ソノダさん、PDCA会議には慣れてきたのですが、業務日程を確認するだけだったら、入社3年目の社員の仕事でしょ。管理職にはPDCAよりもっとやるべき役割があるような気がするんですけど・・」
ー顧問先の社長の言葉です。
問題が報告されない会議
さらに詳しくお聞きすると、管理職が月次の工程表を作成するようになって、作業の遅れや抜けは少なくなったけど、PDCA会議では、単に業務日程を確認しているだけで、社長が求めている品質の向上や顧客の獲得につながる論議にならない。形だけの会議になっている。それなのに管理職は日程を報告して満足しているという感想をお持ちのようです。
私から社長に、「PDCA会議に提出される工程表や資料を利用して、品質向上や顧客の獲得増につながらない理由を突き詰めたり、改善策を検討することはできないのでしょうか?」とお聞きすると、「工程表はルーチンワークが書いてあるだけ。先月の焼き直しに過ぎないでしょう?工程表をなぞるだけなら、全てが問題なく進んでいるように見えるし、社員はじっと下を向いて書類をみつめるだけで、誰も口を開こうとしないから、会社の全体像や問題を把握するのが難しいんですよ・・」とのことでした。
ミスを報告すると社長に攻撃される
なぜ、社員は口を開かないのでしょう。実は、顧問先の職場は、”仕事でミスをして、社長に報告したら、もっと非難される”という恐怖から、社員が萎縮して、物言わぬ職場になっていました。実際のところ、業務上のミスが発覚すると、ここぞとばかり社長からの攻撃の対象となり、他のメンバーの目前で屈辱的な扱いを受けることが常態化していたのです。ですから、PDCA会議で、業務の進捗状況を表面的に報告することはあっても、問題を抱えている実情を吐露したり、社長や同僚の助けを求めることは、自分の立場を悪くするだけで、何のメリットもなかったのです。
社長が”問題のある社員”を必要としている
そして驚くべきことに、社長は、社員が恐怖心を抱かないよう努力することはせずに、意図的に職場に恐怖心を蔓延させていたのです。社長が恐怖心を必要としていたのです。つまり、会社が急成長する過程で、社長には、組織をマネジメントする能力の発揮が求められましたが、ここまで何事も一人で成し遂げてきた社長は、マネジメントのノウハウを知りませんでした。そして、その自分の無能ぶりから社員の目をそらすために、ミスを犯した社員をスケープゴートにして、侮辱的な扱いを続け、恐怖心でマネジメントしようとしていたのです。だからこそ社長には、自分自身のマネジメント能力のなさを正当化するために、仕事のできない、問題のある社員がどうしても必要だったのです。
社長も社員もジレンマに陥る
つまり、社長も社員も、PDCA会議を通じて、品質を高め、顧客を獲得するための論議をしたいと望んでいても、論議の過程でもたらされる自分自身へのダメージを考えると躊躇してしまう・・・というジレンマに陥っていたのです。PDCA会議に意義を見出せず、形骸化しはじめていたのも、こういう背景があったからなのです。
会社全体が、自分のことだけに関心を向けて、周囲に目を向けることをやめてしまい、同僚や、組織、顧客のために頭を使うことを止めてしまったのでは、事業は衰退こそすれ、発展するはずはありません。
仕事には問題はあるが、社員には問題がない
PDCAに限らず、マネジメントの仕組みを構築する場合、それらを組織に根付かせ、組織の癖・風土にまで育てていくためには、土台を築く必要があります。土台とは、前述のような”ジレンマから抜け出すこと”です。
社長は、ジレンマから自らを解放しなければなりません。まず、社員に屈辱を与えたり、社員を無視したりする方法で、組織をマネジメントしようとしていないか、改めて自分自身を見つめ直してみましょう。その上で、様々なマネジメントの仕組みの本質が、問題社員を作り出すためにあるのではなく、会社の目標や課題を共有し、仕事を進める上でお互いが必要としていることを見つけ出し、全員で助け合うためにあるのだということを、腹に落とし込みます。
そして、次に社長は、社員がジレンマから抜け出すための手助けをします。そのためには、”仕事には問題があるが、社員には問題がない”というメッセージを、社員に発信し続けます。このメッセージこそ、社長が、組織マネジメントに本気で取り組んでいるというメッセージになるのです。メッセージを受け取った社員は、社長がそうしたように、マネジメントの仕組みの本質を腹に落とし込み、ジレンマから抜け出すでしょう。
マネジメントの仕組みを社内に構築するための、社長の今年最初の仕事は、”ジレンマから抜け出すこと”なのです。
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