リーダーの判断がズレるワケ
「そんなことを言ったら彼はへそ曲げるんじゃないかな」創業16年、最先端技術への対応を売りにしているIT企業のY社長が唸るように言いました。この言葉は、役員会で代案を出さずに、批判ばかりするS取締役に対して、どう対応するべきかをテーマにお話していた時に社長から出てきた言葉です。
「この数年、決定事項が先送りになり、Sさんの部門業績も悪化している、この状況をあと何年続けるおつもりですか?」と私。Y社長は、しばしじっと目の前の事業計画に目を落として、覚悟を決めたというように顔を上げると、「もう待てませんね。伝えます。」とおしゃっていただきました。
- 「こんなこと言ったら相手はどんな気持ちになるだろう」と相手の立場になって考えなさい。
- 相手に対しては常に配慮が必要だ。
- また相手の面子を潰すようなことはしてはならない。
親や先生から私達はそのように教育されてきました。また、一度でも、誰かの発言で自分自身が不快な思いをした経験があれば、これと同じようなことを他人にするまい。自らその経験から学んできました。
他人に対する配慮は美徳である。これは日本人のみならず、世界共通の美徳です。礼儀作法としての配慮、相手の事を慮っての遠慮は人間関係を円滑にするための潤滑油なのでしょう。
しかし、マネジメントの現場で、リーダーが部下に対する過剰の配慮、遠慮というのは、組織内の問題を自ら量産することになりかねません。経営者から相談を多く受ける幹部の問題で一番最初に上がってくるのが、「社員を育成できない幹部」です。そして、この問題の原因の一つが幹部の遠慮にあります。
社員の成長を促し、社員が成果を得ることを支援するのが私達リーダーの仕事です。顧客の求める成果に対して、社員の誤った努力、誤った判断、誤った考え方、誤った振る舞い、誤った発言、、、を見つけたら、私達リーダーはすぐさま指摘し、修正させて、成長のステップに引き戻すことが必要です。
たとえ、部下が自分よりも年上であっても、かつての上司であっても、より早く成果を出すように支援することが私達の仕事なのですから。ところが、この遠慮は、成果の伸び悩む組織には、其処彼処で見て取れます。
幹部と部長、部長と課長、課長と主任任、、、というようにいくつもの階層ではびこっているのです。「彼女にもプライドがある」「彼女はもう○年の経験がある」「彼はすでに部長だ」「彼は前は出来ていた」だから、そのうち気がついてくれるのを待とうと言うわけです。
一見すると、相手に対する配慮です。が、これは単なる職務怠慢です。もちろん、職務怠慢という意識は本人達にはありません。寧ろ、自分は思いやりのある良い上司だという錯覚をしています。意識的ではないにせよ、幹部の社員への指示の判断はズレているのです。このように遠慮を美化するリーダーの組織はいつまでたっても成果がでない。何が悪いかも認識していない。判断がズレた幹部の部下達はたまったものではありません。
平社員なら、このような判断のズレ、錯覚はさほど大きな問題にはなりません。影響力の範囲が限られているからです。ところがリーダーの場合は話が違います。リーダーの判断のズレ、錯覚は組織に大きな陰をもたらすからです。
リーダーとして組織に影響を与える人と部下として影響を受ける人の判断基準は同じではならないのです。残念ながら、組織を率いるリーダーが獲得しなければ成らない判断基準というのは、ほんの一握りの組織で共有され、教育されています。ところが、多くの組織では、課題にすら挙がらないのが実情です。
判断基準がズレているリーダーが率いる組織の結末は、業種業界を問わず、一様に唯々哀れなものです。組織の成長を目指すなら、まず幹部のこのような判断のズレをすぐに修正する必要があるのです。なぜなら、この幹部を見ている部下達は、知らず知らず真似ていくからです。
さて、御社は如何でしょうか?
判断がズレた、錯覚をした状態のリーダーはいませんか?
そのリーダーの判断、錯覚を修正する術を心得ていますか?
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