ニーズばかりに応えているとビジネスは大きくならない
わたくしには受験を控えた子供がおります。
先日、子の通う学校で謂わゆる「三者面談」がありました。子供、学校、保護者という三者による進路確認の打ち合わせです。
驚いたのは、私学に多い「ポイント加点制度」です。学校の要望に満たしてゆくと成績にポイントが加算され、入学試験に有利になるという仕組みです。
例えば「英検〇級で1ポイント加点」。評価基準には、公益財団法人・日本英語検定協会などの「検定もの」の他、学校を休まず登校した「皆勤賞受賞」「コンクール受賞歴」「学級活動においてリーダーシップ発揮」「クラブ活動での活躍、継続」「委員会への参加」など様々です。三者面談で説明してくださった先生は子に向かい「で、どうですか、ポイント加点できそうですか? 漢字検定〇級は持っていますか? 皆勤賞はありますか?」と。
教育産業において推奨される「〇〇検定」というもの。これは法人が運営しており、つまり大人が考えた商売です。嫌な言い方になりますが「検定」の仕組みで儲けたい法人が学校と組んでいるビジネスなのです。加点基準は大人(学校)の「要望」や「期待」であり、マーケティングでいえば「ニーズ」にあたります。ニーズに応えるために一生懸命頑張る子供がいる、という現実があるのです。
この世に生まれ十数年という子供たちが「ポイント加点」という近視眼的発想で大人のニーズに応え必死になることは、非常に大きなリスクではないでしょうか。人間にはとてつもない可能性が満ちている、というのに・・・。
「潜在意識」を活用されている経営者なら、ご自身に置き換えれば「人の可能性は無限大」を実感されていると思いますので、こうした価値基準の小ささに驚かれると思います。
しかし、これが自社のことになるとたちまち近視眼的になるものです。手塩にかけた「わが子」つまり自社商品サービスを小さく小さく育ててしまうのです。
わたくしの手元には「コトラー・アームストロング・恩蔵のマーケティング原理」(平成26年3月/丸善出版)という書があります。フィリップ・コトラー、ゲイリーアームストロング、恩蔵直人氏の共著です。
第1章の中でマーケティングの定義についてこう書いてあります。
今日のマーケティングとはセリング、つまり売り込むという古い感覚ではなく、顧客のニーズを満たすという新しい感覚で理解しなくてはならない。顧客のニーズを理解し、顧客が求めている価値を満たした製品を開発したうえで、適切な価格を設定し、流通させ、プロモーションすれば、製品はおのずと売れていく。
そして、こう続きます。
それゆえ、マーケティングを『売れる仕組み作り』と言い切る論者もいる。経営学の神様と称されるピーター・ドラッカーも述べているように、『マーケティングの究極の目的はセリングを不要とすること』なのである。
このように定義づけ、そしてマーケテイングを進める工程を5ステップとし、そのファーストステップが「顧客ニーズの理解」としています。
一度立ち止まり、考えてみてください。
今でも「マーケティング」を売上アップの魔法の杖だとお考えになっている経営者様がいらっしゃいます。身近なマーケターや先生方が提唱するマーケティングの、そもそもの原典であるコトラーやドラッカーの言葉を紹介しましたが、彼らはしかるべき大学の先生であって研究者。たくさんの人から「先生」「教授」と尊敬を集め、敬意をはらわれてきた人たち。厳しくも猛々しいビジネスの現場で勝負を挑み、従業員を抱え、自らの命をかけてゆくような経営者の生き方とは全く異なる道を歩いて来た「先生」・・・、そんな方々が研究したアカデミックな手法・・・、それがマーケティング。
日々激変の人間という摩訶不思議、けったいな存在を前に商売をしていく上で、
本当に「顧客ニーズを理解し満たせば製品はおのずと売れていく」のでしょうか?
本気で「セリングをせずに売る」ということが可能なのでしょうか?
入試の話に戻ります。
わたくしは入試のポイント加点を知った時、一人の生活者として強烈に違和感を覚えました。まず、商売でやってる検定が基準という価値観の「小ささ」。そして学校や社会のニーズを満たすことに一生懸命になってしまう人としての「小ささ」。人間ってそんなもんじゃないよ、と直感的に感じました。
商品リニューアル専門コンサルタントとして起業する数年前、パートナーが経営するデザイン事務所の営業をやっておりました。売上があがらず喘いでいた日々「もっとラクになりたい」「売り込まなくても売れる方法はないか」そう考えていました。コトラー風文脈の外来マーケティングをはじめとしたこれらの手法に飛びついた時もあります。しかし一時的にお客様に出会えたものの、気を許せば元の木阿弥。「お客様のお困りごとであるニーズを把握し調査分析をして、企画立案仕組み化、PDCAで回す」。そんなマーケティング的仕組みを作ったとしても行動基盤がなくてはダメだと身にしみました。
行動基盤とは行動へと動かす「思考エンジン」に他なりません。思考エンジンがポンコツだったら、仕組みがあってもポンコツな走りしかできない。思考エンジンとは御社の中にある商品サービスについての「考え方」です。考え方をリニューアルすることこそが最も大事なファーストステップです。
再現性の高いマーケティングを取り入れることにより、日本全国で「どこかで誰かがやっているよ」という似たような商品やサービスの溢れる時代になってしまいました。商品サービスリニューアルの使命は、こうした似たり寄ったりの商品を直し、いい意味でお客様を裏切り高揚させワクワクさせる、お客様にとって新しい体験をしていただくことにあります。プラトンは「人間の行動は、欲望、感情、知識の3つから流れ出る」と言いました。わたくしの商品リニューアルコンサルティングにおいて、このプラトンの言葉こそが起点です。「はじめにニーズありき」というマーケティング的工程は参考程度にとどめています。
「お客様ニーズやお困りごとで考えていたらビジネスが大きく育たない」。
ビジネスも教育も、そこに人間が介在する限り同じではないでしょうか。わたくしたちは「ポイントカード」ではありません。もっと大きくて可能性に満ちた存在です。そういう存在であるお客様に向かって商品サービスをリニューアルしていくことがわたくしの使命です。
社長、御社の商品サービスを介し、お客様に魅力ある世界観を体験してもらいましょう!
大きく、大きく、御社ならではの商品サービスをいっしょに育ててゆきましょう!!
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