「ものづくり企業」、「ものづくり大国日本」という言葉が、日本の生産性を低くしている。
ものづくり企業!
ものづくり日本!!
この言葉が、日本の企業を、日本という国をおとしめています。
よく日本の生産性の低さと改善の方策が議論されます。
その生産性の低さの要因の一つが、この「ものづくり」という言葉にあります。
根本的に、絶対に「儲からない事業」があります。
この絶対に「儲からない事業」に手を出すと、「忙しいわりに利益が残らない」や「仕事量の波が大きい」という状況に陥ることになります。
その「儲からない事業」を表現すると『下流』という一言に集約されることになります。逆に「儲かる事業」とは、『上流』となります。
上流と下流の軸は、「価値とモノ」となります。
上流に近いほど、ビジネスとして『価値』を売っている、下流ほど『モノ(手間)』を売っていることになります。
例えば、ビルディング。
ビルのオーナーは、入居企業に対し、その立地や雰囲気から生まれる「価値」を提供しています。入居企業は、企業ブランドがアップし、「信用力」や「人材の採用力」などを得ることができます。それにより、結果的に儲かることになります。
その下には、開発会社やゼネコンがいます。
ゼネコンは、建設に関する手間を一手に引き受けています。法律対応や交通規制、外注や資材の管理、工程。それにより、発注者は、品質を得ることができ、「確実性と安心」を得ることができます。予定通りビルのオープンを迎えることができます。
そして、そのゼネコンの下では、専門工事業者が杭を打ったり、鉄骨を組んだりしています。そして、その二次請け、三次請けは、クロスを張ったり、スコップを握ったりしています。
この座組のなかで、一番上流がビルオーナーになります。ビルオーナーは、入居企業に対し、「価値」を売ることで一番大きく儲けることができます。
そして、その次が、開発業者やゼネコンになります。
下流に近づくほど、「価値」ではなく、「モノ(手間)」に近づくことになります。それに合わせ、儲けられなくなります。
クロス張りやスコップでは、モノや手間(人工代)に見合った報酬となります。
世の中は、上流の価値を売る会社が儲かり、下流のモノを売る企業は儲からないという構造になっています。
車という価値を売る会社が儲かり、その次には、各部品(ギア、シートなど)メーカーが儲け、素材や加工を売る会社は「それなり」の儲けになります。
100万円で売れる高級腕時計も、その一部品であるネジ一本に対する報酬は、数円というものになります。
下流にいる限り儲からないのです。
下流でモノを売っていては、貧乏暇なし状態が続くことになります。
その取引先(顧客)がまだ高級腕時計という「価値」を売っている企業であれば良いのですが、取引先が量販の時計という「モノ」を売っている企業であれば、さらに厳しい状態になります。
飲食店チェーン、安売りの住宅ビルダー、多くの量産、それらの取引では厳しい指値がきます。
安定したボリュームがあるだけに、やめられなくなります。他の顧客からの案件を断るようになります。そして、その取引先一社が売上げの多くを握った時には、さらに厳しい値下げ要求にさらされることになります。
何としても「上流」に、何としても「価値」に近づくことが必要です。
一つでも、這い上がるのです。
この事業戦略を社長は全身全霊を持って考えます。
これが、年商10億、それも、儲かる年商10億にするための第一歩となります。
しかし、残念ながら、多くの企業では、自社の「価値」を自ら落としています。
名刺交換をすると、会社名と「〇〇業をやっています」という言葉があります。
頂いた名刺を拝見すると、確かに「〇〇業」とあります。
その名刺からは、その企業の特色を知ることはできません。
これでは、只の「〇〇業」と宣言することになります。
只の工事業です。只のホームページ制作業です。只の食品メーカーです。只の・・・
自ら宣言をしているのです。「当社は、只の工事業者です。どんなことでもやります。日当頂ければ十分です!」と。
そのような会社のホームページを拝見しても、工種や実績、所有の機械などが載っているだけです。売りがないのです。
たとえ、その会社に「最適な工法を提案します。」や「一括で請け負います。」や「安全書類をしっかり提出します。」という良さがあったとしても、顧客には伝わらないのです。
顧客企業からすると、この会社と付き合う理由がありません。この会社と取引をしても「今より総コスト下げてくれそう」や「手間が減る」というプラスのものではありません。
「いまは仕事が多く、請けてくれる先があればよい」というものです。そして、他社と同じであれば、「安い」方を選ぶことになります。
自ら、モノや日当(手間賃)に顧客を導いているのです。
残念ながら、多くの企業が良さを持ちながらも、正しく顧客にPRできていないのです。
自社の良さや特色を正しく書き表し、顧客に正しく認識していただく必要があるのです。それが自社や業界にとって「当たり前」だとしてでもです。
価格の正当性を納得させる必要があります。伝え続ける必要があります。
なぜならば、人は目に見えるものに引っ張られるからです。今の顧客もいつしか、その「価値」を忘れ、目に見えるものに引っ張られることになります。
そして、もっと恐ろしい事態が起きます。
それは、「社員」も「モノ」を売っているという認識になるのです。
自分たちが顧客に提供している価値が、「コスト提案」や「確実な納期」、「安心」であると正しく認識すれば、その通りになっていきます。
コストを下げるために知恵を使ったり、顧客に対し、プロとしてのアドバイスをしたりします。安心を持ってもらうために、挨拶や服装、報連相もしっかりやるようになります。
これが、「モノ」や「手間(日当)」を顧客に売っているという認識であれば、ただ作業をするだけになります。顧客に向かう時の意識は、「ご指示ください。その通りに動きますから。」となります。
そして、そこでは、自分たちの存在意義も見い出せなくなり、プロとしての誇りもありません。自分たちが生み出しているもの(付加価値)は、作業の代行であり、只の手間ですから。
人は、どうしても目に見えるものに引っ張られてしまいます。
目で認識できるものは、「モノ」であり、そこで働く「作業員」です。
立派な「価値」がそこに存在したとしても、目には見えません。
顧客も、社員も、日々忘れる方向に進みます。
忘れると顧客は「価格」を言うようになり、社員は「目の光」を失います。
よく製造業では、自社のことを「ものづくり企業」と表現したりします。
また、テレビなども、「ものづくり大国日本」と誇らしげに報じたりしています。
この言葉を、そのまま受け入れてはいけません。
「ものづくり」という言葉の起源を調べると、「産業」や「事業」を起こすという意味が本来であることが解ります。
「生産」や「製造」という意味の含みを大きくしたのは、最近なのです。
「manufacturing」ではなく、『industry』なのです。
正しい意味での「ものづくり」とは、「モノ作り」ではなく、「価値創り」なのです。
そして、この「ものづくり」という言葉の見た目に引っ張られると、「モノ作り」は正しい、素晴らしいという盲目的な発想に陥ります。
そして、その思考は「良いモノを作れば、売れる。良い物が、道を開く。」と考え、さらなる技術向上や商品の開発に向かうことになります。
しかし、「モノ」を作っていては、絶対に儲かりません。
その結果、生産性も高まりません。
今の我々に必要なのは、ものづくりという言葉が本来持つ「価値創り」なのです。「ものづくり」という言葉の見た目に引っ張られてはいけません。
日本の生産性が低いことがよく議論されますが、その一つの要因がこの「ものづくり」という言葉の意味を取り間違え、「モノ」に走ったことにあります。
それに対し、アメリカなどの生産性の高い国では、「価値創り」を進めています。
生産性の高い国は、「価値」を売り、「モノ」を作る企業(国)から安く仕入れ、その差額で大きく儲けているのです。
まだ人件費の安い発展途上国ならそれで充分な儲けが得られますが、日本のような人件費の高い国では当然苦しくなるばかりです。競争力もなくなります。
モノを売っている限り、生産性は上がらないのです。手間を売っている限り、儲からないのです。
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