商品リニューアルのポイントは「何を」ではなく「〇〇〇」を再定義すること
ほぼ毎朝、軽いジョギングをしています。リフレッシュ、それからコンビニエンスストアでのちょっとした買い物を楽しみに走っています。
小さな街をスロージョギングするのですが、途中にファミリーマート、セブンイレブン、そしてローソンがあります。どのコンビニエンスストアも凌ぎをけずり、新商品を活発に投入。プライベートブランドも充実させて個性的な商品展開をしています。淹れたてコーヒーもイートインでき、雑誌や書籍の品揃えも良く、高いオペレーションで拮抗しています。
そんな環境の中、ちょっとした買い物とはジョギング後に飲む「カゴメのフレッシュジュース」です。もちろんどこのコンビニにも置いてありますが、買うお店は決めています。理由は「気のあう店員さんに会えるから」。雑談のひと時がとても楽しいのです。今朝も買い物を済ませ、帰り際に雑誌をチェック。こんなコピーが飛び込んできました。
『“一見みんな似た格好”の時代だからこそ 私たちのファッションは今、「何を買うか」より、「どこで買うか」』(光文社「VERY」11月号/10月7日発売)
ボディコピーがこう続きます。
『人と違う格好をして目立ちたいわけでもなく、みんなと同じものを着て安心したいわけでもなく。シーズンごとに広がるトレンドのなかで、みんな自分らしい組み合わせやバランスを探している。そんな今だからこそ、その人らしさを左右するのは「何を買うか」より「どこで買うか」。ベーシックなものも、かぶりがちな流行アイテムも自分らしいブランドに出合うと自信を持って着られます!・・・』
女性ファッション雑誌の誌面づくりは、上手に時代の気分や空気感をからめながらターゲット層に向けて「新しいスタイルを提案」することを得意としています。
このコピーの意図は「世界観のある商品を取り揃えたブランド店で買い足し、自分らしさを演出しましょう」と読者に提案しています。ボディコピーを読み表層だけをみれば「ブランド店で買い物してね」と受け取れます。
ボディコピーに注目してください。「自分らしい」という言葉が二度。「自信」という言葉にも「自」という字。「その人らしさ」も自分らしいと同義です。時代の空気感は今、「自分」に向かっていて、人は「自分らしさ」「その人らしさ」を願望しているのではないか。そんな仮説がたちます。
ジョギングでの買い物も同じことを指しています。どこにでも売っている「カゴメのフレッシュジュース」を買う。あの店員さんのいるコンビニで買おうと決めている。その心理は「おしゃべりして自分らしく楽しく買い物できる場所」だからです。どこにでも手に入るカゴメのフレッシュジュースでありながら、私にとっては「〇〇さんとおしゃべりした朝の楽しい想い出のフレッシュジュース」と変換されるのです。そして、買い物をした後には、こうした時間の使い方が「自分らしく」て好きだなーと再び思い出したりするのです。
これは、リアル店舗だけの傾向ではなく、ネット店舗での買い物も同じだと指摘されています。ネット通販が非常に伸びていますが、その一因には「自分の城(部屋)で好きなように自由に買い物ができる心地良さ」を味わえることが大きい。更にリアル店舗と同様に、人それぞれに「お気に入りのお店」があり、そこで買い物をしていると言われています。これはご自身のネットでの買い物を思い出していただければ納得していただけると思います。
商品やサービスのリニューアルにおいて、生活者の変化変容は非常に重要です。ネット通販が普及していない10年以上前は「商品やサービス自体」をリニューアルすることで売上利益をプラスオンすることができました。
技術的な進化を経て、今はどこの商品もある一定以上の品質を保っています。売るための仕掛けや工夫も進化しています。デザインも洗練されています。商品世界は、私たち生活者にとって、すべて一定基準を満たした「良品」と考えることができます。このような環境にあり、さらにネットでの自由気ままな買い物を満喫している私たちです。自分の城で快適に自由にストレスなく、自分が主人公のお姫様、王様気分。つまり「自分らしい」の価値観が肥大しているのです。雑誌のキャッチコピーが訴えかけているように、お客様は「自分らしさ」「その人らしさ」を渇望しています。ネット店舗での買い物が伸びているのは、そうした渇望を満たす「買い物システム」だからなのです。
フォーカスした自社の「商品サービス」から視点をあげてみましょう。
宇宙、そして世界があって、この日本で、街でお客様が暮らしている。この春夏秋冬の中で、一年の歳時記の中で、ひと月のなかで、「今日」がどういう日なのか。お天気はどうか、店舗に訪れるまでのストーリーはどうか、店舗の周辺と店内空間は、温度は、匂いはどんな感じか、接客は、その店員さんの表情は、声のトーンはどういう感じか。商品自体、配置は、プライスカードは、POPはどうなのか・・・。一つ一つの要素がお客様に語りかけ、買い物の雰囲気を作っているのです。この商品世界と、お客様の「自分らしい」価値観に、橋をかけることができていますでしょうか?
時代は今、確実に「何を」から「どこで」にシフトしています。
社長、わたくしたちは「欲しいものは持っている、充分に在る」生活者に対して仕掛けていかなくてはならないのです。そのためには、どれだけ視野を広げ、視点を高くすることができるかです。過去の成功体験や古いフレームの中で商品リニューアルすることとは真逆の考え方であり、新しくてワクワクするような「挑戦」が求められています。
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