ピンチをチャンスに変える“形”
「そろそろ息子に後を継がせたいと思うんですが、事業を継がせる時に気を付けることは何でしょうか?」
60代後半の経営者からのご相談です。息子さんも良い歳になったし、そこそこ社内での経験も積んだ、周りの会社も殆どが息子に代替わりをしているので、自分のところもそろそろ…と思われたそうです。世間では、事業承継は早ければ早いほど良い…なんて言われていますが、果たしてその際に気を付けるべきことは何なのでしょうか?
私は、事業承継専門のコンサルタントではありませんので、例えば〝株の評価“だ、”相続税“だ…となればもちろん専門家をご紹介していますが、それ以前の準備段階で必要なコトとして、「社長の想いを言語化して伝えること」をおすすめしています。「何を今さら…」と思われるかもしれませんが、本当に大切なことなのです。
どんな会社でも、代表者が変わるとなると大なり小なり社内外の環境や空気が変わります。特に長く続いている会社や社員の多い会社であれば、これまでの慣習や社内の決め事など、いわゆるその会社特有の“クセ”があります。人間は変化を嫌う生き物だと言われますが、仕事のやり方や方針が大きく変わることに抵抗を示す社員も多く、自分の縄張りを死守するために都合の良い言い訳やそれらしい事を並べてこれまで通りのやり方を通そうとする社員との戦いになるケースも少なくありません。
以前ご相談をいただいた会社でも、父親から社長業を継いだ息子さんの考えで、人事や規定をガラリと変えたために半数以上の社員が辞めてしまった…というお話しを聞いたことがあります。息子とは言え、役員として、また営業部のトップとして立派な業績を上げて来られていただけに、社員からの尊敬や互いの信頼関係は上手く積み上げてきたつもりでいらっしゃったそうです。しかし、一方的な社内体制の変革は多くの社員の理解を得られなかった…ということのようです。この時、取引先や金融機関からも同じような反応があったと言いますから、やはり社長の考えや方針は誰にも伝わっていなかったようです。
確かに、人材が限られている中小企業は、経営者の強いリーダーシップがなければ事業を継続することは難しいといえます。実際、経営とはその場その場で判断を迫られ、常に決断することの連続です。しかしその反動で、非常に優秀な経営者(と思っている人)ほど、何でも自分で決断し続けていくうちに、周りの人間からの助言を聞き入れなくなってしまうものです。自分の判断を過信し、先頭を突っ走ってばかりいると、ある時ふと振り向いてみたら誰もついて来ていなかった…これはある意味非常に危険なことだと思います。
特に、力がついてきた頃の後継者の、「社長を超えたい!」と思う気持ちや焦りは暴走を加速させてしまうもので注意が必要です。先ほどのように、社長の考えは思った以上に社内に伝わっていないものですが、もちろん顧客にも伝えていかなければなりませんし、同時に、取引先や金融機関との付き合い方も考えていかなければなりません。後継者として考えるべきことは多岐に渡ります。
弊社にご相談に来られる方の多くが、「言わなくても分かるだろう」「長年やって来たことだし、当然伝わっているだろう」「ハッキリ言ってそれどころじゃない」などとおっしゃいますが、事業を継ぐ…という大切な時だからこそ、一旦立ち止まって過去を振り返り、自分の会社について考え、社員と共に明るい未来を目指すためには何をやらなければならないのか?今の会社や自分には何が不足しているのか?前向きな課題は何か…を考え、今後何をどう取り組んで行きたいのか?そのための具体的な施策は?…を言語化して社内外に伝えていく事が重要です。
仏教の教えに、「心は形を求め、形は心をすすめる」という言葉がありますが、“内”を変化させたいと思う時こそ“外”を変化させるべき…つまり、会社の内側というよく分からない部分が変化する時だからこそ、言語化して見える形にしていくことで相手の心に伝わる…私はそう思います。
経営者の皆さま、事業承継は大変な出来事だと構えていませんか?会社にとって大きなピンチになると思っていませんか?会社の向かう方向や社長の考え、過去の実績やお客様とのエピソードなど…後継者や社員に伝える絶好のチャンスです。まずは形にして伝えてみませんか?
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