「〇〇書」を捨て、お客様に会いに行こう。
わたくしのコラムを読んでくださる経営者の方から、お問い合わせフォームやメールを通してご相談案件をいただく機会が増えています。
主旨は、めまぐるしく変転する現在のマーケットにおいて、自社商品サービスのリニューアルが必要なことはわかっている。が、どこからどう着手したら良いのかわからない、とのことです。お話を伺っていくうちに、不思議なことに気がつきました。業績が伸び悩んでいる会社、特に中小企業には、ある共通項があることに気がつきました。これはここ数年とても顕著な実感です。
まず一つ目が「営業」についての話です。
「自社には営業が数名いる。しかし成果が出ない」「営業なのに営業が苦手だとかで研修が必要になっている」。ご相談は続き、「よって商品サービスのリニューアルをし、その際にはコンセプトを明確にして、売り先も絞り込んで・・・、まぁ、営業がいなくても売れるシステムを作ってもらえないか」ということです。
次に多いのが「経営計画書づくり」です。
経営者仲間が集まる会合に参加。他の経営者から「おたくは数字が甘いんだよ。もう一度経営計画書作りをしてはどうか」というアドバイスをもらった。「3ヶ月後には新しい経営計画書ができ、みんなの前で発表するらしい。以前作ったものとは別に、新たに作り直した方が良いか」というご相談です。
どちらにも共通しているのが、コンサルタント的なアドバイザーが存在している、ということです。そうした方々の指導以前に、ネットで検索すれば「営業しなくてもドンドン売れるようになる〇〇」という書籍や「経営計画書を作ることで〇〇」というセミナー情報が非常に多く、経営者はつねにこれらの情報に溺れかかっている状況と言えます。
前者のケースでは、〇〇総研のコンサルタントに依頼し企画書を作成し、ホームページのリニューアルや会社案内など新しい販促ツールを作る方向で進めるという話を検討中。後者は経営者仲間のアドバイザーの元で経営計画書作りの合宿に参加しようと考えている、ということです。
営業をしなくても売れる仕組み、経営計画書で安心経営・・・、どちらも理想があり、すばらしいです。本当にそうであったとすれば、どんなことをしてでも手に入れたい魅力があります。もしこの二つが手に入ったとすれば、真に安心です。では、今の日本の中小企業経営はどうでしょうか。理想の通りになっているでしょうか。これだけ多くのノウハウツールがあるなかで、多くのチャンスが提供されているにも関わらず、相変わらず厳しい状況に置かれているのはなぜなのでしょうか。
閑話休題。
企画=市場調査という意味合いが強かった80年代の日本において「企画書=事業を企てる地図」という新しい定義で企画の本質を定着させた、高橋憲行氏(株式会社企画塾代表)という日本屈指のコンサルタントがおられます。
今でこそ「A4ワンシート企画書」などのコンサルティングをされる方がおられますが、もともと企画のすべてを一枚に落とし込み、その仕組みづくりの元祖が高橋氏です。その「一枚企画書」の開発秘話を高橋氏から直接お聞きしたことがあります。
氏が学校卒業後の20代後半、とにかく何か仕事をという思いで経営者に会いに行く。家の前で待っていても会えないこともあるし、果たして会ってもらえることもある。「で、運良く会えることになって、それがご縁で、何度も通ったりして社長の話を聞いたりするわけですね。で次に企画書みたいなものを持っていくんですけどね、社長って忙しい人たちだから時間がないんですよ。分厚い企画書なんか持っていってもダメってことに気づいてね。じゃ、一枚の企画書で事業の全容が一目瞭然でわかるようにしたんですよ。そこから生まれたんですね」ということです。
こうして生まれた高橋氏の一枚企画書ですが、このエピソードからわたしたちがエッセンスとして受け取るべきことは何か。それは、氏が「営業が苦手だったから企画書を作ったのではない」ということです。
氏は、営業をしていく中で社長目線に立った時、社長に一番喜ばれるカタチ「一枚で全部わかる企画書にして出した」のです。このことが非常に重要なのです。ご自身を助けるツールではなくて、社長目線で作った社長のためのツールであり、お客様目線で考えて作ったものがたまたま「一枚企画書」だったということです。
話を元に戻しましょう。
事業は、お客様が自社商品サービスを買ってくださって初めて「成果」となります。
お客様に売れてはじめて収益を手にすることができます。当たり前のことですね。
どういうことかと申しますと、自社を助けるツールではなくお客様のための、真にお客様に役立つツールが必要不可欠ですし、自社を研究することではなく顧客の研究が要請されている、ということです。
お客様に売る、お客様が買ってくれる。このたった18文字。これが収益を手に入れるシンプルな事実であり最重要課題です。
経営計画書は、会社全体を俯瞰するツールとしては必要不可欠であり、社長ご自身を変える「魔法の書」とも言われていますが、それ以上でもそれ以下でもありません。ご自身のために書いている「書」なのです。そして経営計画書を指導するビジネスが活況です。経営計画書で「売上増」「業績向上」という文言をセットにし、アピールする会社が多いようです。例えば会社の数字を通して事業の全容がわかる士業の先生方からご指導いただく場合、非常に心強いものがあり、たくさんの経営者が参加されています。
では、もしも数字のプロでおられる税理士の先生方が商売をやったならば、それらの事業は成果が上がり日本中が活況になりそうですが、しかし現実そうなっていません。むしろAI時代になり士業ビジネスは消滅するのではないか、そんな後ろ向きな話題が出るばかりです。経営計画書を指導する立場にある先生の事務所の経営自体が揺らいでいる、そのアンマッチが非常に気になります。
わたくしは、本気で商品サービスリニューアルをお考えの方に本気でお応えしています。数回の面談、メールだけでの相談、お電話、その時間内で「わかった」または「できる」ような気持ちにさせてしまうキモチの良い言葉をお伝えすることは職務上絶対にしてはならないと律しています。その方のビジネスにおいて、むしろ害悪ですらある、そう律しています。わたくし自身がこの道を進む途中で痛い体験を経てきての実感だからです。ですから、ご自身の悩みを軽減させたいという類のご相談には期待されても、その期待に添えることができません。
このコラムで書いているように「考え方」は数回の相談でお伝えすることなどできませんし、また、仕組み化することは到底無理です。やはり、基本から積み上げてゆき、最低でも半年のプログラム工程を積み上げていかなくてはお伝えすることができません。このコラムでは、ほんの導入の部分でしかお伝えすることができず、非常に心苦しいです。
それでも、あまりに違う方向に向かれている方がいらっしゃって、それがとても危険なことであり、そこに気づいてほしいので、私は限られた紙面でこうして提言しております。
どんなに優秀な営業マンがいたとしても、
どんなに素晴らしいコンセプトが、
どんなに分厚い企画書ができたとしても、
「販売戦略」とその実践なくして、売上があがることはない。営業は必要です。そして、販売してお客様に買っていただかなくては収益は手にすることができません。つまりそこで事業は終わってしまう。大量に残された「紙」は塵芥です。
社内で「営業が苦手」という言葉が出てきたならば、その言葉が出てきた根っこを考える必要があります。経営者ご自身が営業マンの能力や努力を一方的に期待し、努力を押し付けているのではないでしょうか。自社に販売戦略はありますでしょうか。ご自身の販売に対する努力、お客様に向き合うことができてますでしょうか、、、。
代理店、営業代行、さまざまな仕組みがありますが、そういうシステムに自社商品を代行してもらうということは、販売網や売場借用に対して多額の費用を支払うことになります。そして、よく考えていただきたいのですが、こうした会社は当然ビジネスですから「自分の会社」のことを一番に考えているはずです。
一生懸命に商品サービスをリニューアルし磨き上げた商品です。
自分たち以外のだれが、本気で営業すると言うのでしょうか。
だれが、本気で売ってくれるのでしょうか。
お客様に向かい合うことは恐ろしいことです。なぜか。お客様はわたくし達に一切命令しません。しかし気に入らなければ無言でクビをきります。クレームを言ってくださるお客様は愛情を持ってくださっていて、親切なお客様と見るべきです。元来お客様はサイレントです。こうした方々に向かい合って、自社の商品サービスを売っていかなくてはならないのです。要らないとそっぽを向かれるかもしれない、それどころか無視かもしれない、価格が受け容れられないかもしれない、売上ゼロの日が続くかもしれない、いや続いている、、、これに向き合う怖さ、恐ろしさ。自社の問題に向かい合う方がラクです。自社の数字を整理している方がずっと気持ちが軽やかです。
営業が苦手だったらどうするか。どう考え方のパラダイムを変換するか。知恵を絞れば、かならずアイデアが生まれ工夫できるはずです。
良いコンセプト、良いデザイン、いい機能、いいキャッチフレーズ、、、そのような商品力でモノが売れる時代は終わりました。モノが溢れている今の時代、お客様にとって「必要なもの」など何一つありません。足りています満たされています。御社の商品サービスじゃなくて良い、のが本音です。そう受け容れた上で、どうやって価値を創り、価値をカタチにし、価値を伝え、価値を届け、お客様とつながってゆきますか。それが販売戦略です。
売る力をつけましょう。お客様に今一度対峙しましょう。「書」「ツール」は捨ててください。今行くべきは、今心を向けるべきは「お客様」です。こうしている刹那さえマーケットは変化しています。商品リニューアルコンサルティングにおいて、一番重要な仕組みであり、ここに気がついた会社こそが仕組みを回すための企画書、販促ツール、経営計画書、これらの道具を上手に活用することができるのです。
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