「一部の営業担当は売れるが、並の営業担当では売れない」という現象が多くの企業で起きています。その根本的な原因と対策とは?
建設関係のコンサルタント業であるF社
F社長は立ち上がり、プリンターに印刷物を取りにいかれました。
「矢田先生、これを見てください。前期の売上目標を達成できたのは、6名中2名だけです。この2名と私が売上の7割近くを上げています。他の4名は全くダメです。」
矢田は、担当者別の売上集計表を拝見させていただき、お訊きしました。
「この傾向は、ここ数年強くなっていませんか?」
F社長は過去の数字を見て言われました。
「その通りなのです。昔は、この4名もそこそこ売ってきていました・・・」
提案型営業、コンサル営業、ソリューション営業、、、いろいろな営業の呼び方と定義があります。
これらの営業に共通して言えることは、「難しい」ということです。
これらの営業を難しくしている最も大きな要因は、「相手(顧客)を教育する必要がある」ことにあります。
例えば、建築事務所
顧客の要望を聴きながらも、自社のコンセプト(こだわり)に相手を納得させ、惚れさせる必要があります。
「体に良い家」というコンセプトであれば、「なぜその材料をつかっているのか?」、「なぜこの工法をとっているのか?」をしっかり伝えなければいけません。
また、同時に、ハウスメーカーや他社の「体に良い家」との違いも伝えなければいけません。
営業といっても、実は、『お客様の価値観』を変換するために『教育』をしているのです。
それは、「いままでのお客様の考えを否定し、新しいものに置き換える行為」となります。
表現すると悪く聞こえるかもしれませんが「お客様の購入の評価軸を、自社の都合のいいように置き換える」ことが営業担当の役目になるのです。
お客様に向かって「その考え方は間違っています。これは、こう考えてください・・・」と相手に言うことが必要になるのです。
営業担当には、この能力が絶対に必要になります。
そして、そのためには、その能力を支えるだけの、基礎知識、教養、コミュニケーション、人間性、論理性など多くの力が必要になります。
このような営業が必要になる業種には、F社のようなコンサルタント業や、システム開発業、販促物作成や販促支援業、建築関係など、今の日本では多くの業種がこれにあたります。
こういう業種では、その営業担当の能力が、営業の成果要因の大きなウエイトを占めることになります。
そのため、「一部の営業担当は売れるが、並の営業担当では売れない」という状況が生まれます。その差はすごく大きいものです。
これが、冒頭のF社で起きている現象の理由となります。
この現象は、何も我々中小企業に限ったことではありません。
大手企業でも、このような業種このような営業スタイルでは、やはりこの「売れる営業担当と売れない営業担当の差」という現象が起きています。
この難しい営業をできるようにするためには、やはりそれだけの訓練体制と時間が必要になります。
各分野の知識を詰め込みます。
ヒアリングやコミュニケーション、プレゼンなど、基礎スキルを分解して訓練します。
マニュアルや基本シナリオを使い、ロールプレイで経験を積ませます。
そして、先輩(優秀な営業担当)に付き、その応用や空気感を学ばせます。
その後、実践投入します。その際も、それなりの期間、先輩が横につき、修正を加えていくことになります。
これだけのことをしない限り、難しい営業の担当者を『量産』することはできないのです。
しかし、残念ながら、これだけのことをやっている企業は多くありません。
(実は、大手企業でさえその多くは出来ていません。)
多くの中小企業では、基本的な知識を与えることもありません。ましてや、その業務の基本的なマニュアルさえもありません。
ヒアリングのためのシートも無ければ、サービス全体を説明する整理された資料もありません。そして、訓練も武器もない状態で、難しい営業にぶち込まれます。
その結果、やはり多くの営業担当は、売れないことになります。
極たまに、「相手を教育する」ことに素養を持つ人材だけが売れる様になります。その人材は、論理的であり、顧客に対しても怖気なく発言する性格であることが多くあります。
自社として経営的な決断が必要になります。
このまま「難しい営業」で進めるのか?
進めるのであれば、それだけのマニュアルや訓練体制づくりが必要になります。
これができないと、今まで通りの、優秀な人材や社長に多くの案件が張り付くという状態になります。
また、スピードある展開もできなければ、その人材の退職リスクを下げることができません。
それとも、より「物販化」を進めるのか?
この「売れる営業担当と売れない営業担当の差」という現象は、物販に近づくほど、小さくなります。
目に見え、手にとれる品であれば、そこそこの営業担当でも売れる様になります。
ただし、自社のサービスの特色を残すための知恵が必要になります。
冒頭のF社では、「昔、この4名でもそこそこ売ってきていました・・・」
これは、その数年前は、自社のメニューの中に「物」があったからです。
そのため、そこそこの営業担当でも売れていました。
それが、粗利率が取れなくなったために、ここ数年前からサービス型にシフトしてきたのです。
その狙い通りF社では、売上は下がったものの、しっかり利益として残せるようになっていました。
しかし、「営業担当の差」という問題が浮かび上がってきたのです。
F社では、その後「難しい営業担当」を「量産」するための、仕組みづくりに取り掛かりました。そして、その一方で、並の営業担当や新人の営業担当でも売れる商品をメニューに組み込みました。
この商品群は、粗利率は悪いものの、「売りやすい」というメリットがあります。
この「売りやすい」商品で、新人は経験をつむことが出来ます。
そして、その中から「難しい営業」に引き上げることが出来ます。
「サービスの複雑度」と「量産の難易度」を考える必要があります。
どちらを選んでも困難はあります。
しかし、言えることは「難易度の高いサービス」だけでは、組織を維持するのは難しいということです。
- 製造業:「顧客の要望から開発する案件」と「量産」
- 士業:「コンサルティング業務」と「事務代行のサービス」
- F社:「提案営業」と「物販(定型業務)」
「人材の育成」と「粗利高と粗利率のバランス」から考えると、この組み合わせで自社のメニューを構築することが必要になります。
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