第43話 社長の仕事は ”労働組合を真似る” こと
ヤマト運輸は、宅急便のネットワークを維持・発展させていくため、またその担い手である社員の健全な労働環境を守るため、配達受付時刻の変更、時間指定の見直し、そして運賃の値上げを実施することを公表しました。
一部報道によると、これらの運賃・各種サービスの見直しにおいて会社は、その企業内組合であるヤマト運輸労働組合との協議(2017年『春季生活改善』交渉)を経て、労使で結論を得たとされています。
協議内容を正確に把握することはできませんが、当該労働組合が所属する連合(上部団体・日本労働組合総連合会連合)の2017年春闘スローガンのひとつが、 ”長時間労働撲滅でハッピーライフの実現を!” であることからも、長時間労働につながりなねない再配達や時間帯指定サービスなどの抜本的な見直しについて、労使で侃々諤々の協議が重ねられたことは想像に難くありません。
労働組合との接点がほとんど無い中小企業の経営者やマネジメント層の多くは、こうした報道に接した時に、”労使で結論を得た”点について全く関心が無いか、”経営者を懲らしめようとする輩に口出しさせて大丈夫なのか・・・”と違和感を感じるか、どちらかだと思います。
しかし、このヤマト運輸の事例には、中小企業の経営者やマネジメント層が注視すべき点があります。
それは、そもそも、運賃・各種サービスの見直しは、社内で十分に論議して結論を得れば済むことであって、何故、わざわざ、労働組合の声に耳を傾ける必要があるのか・・・という点です。
答えを先に申し上げますと、多くの良識的な労働組合の活動が、現場の社員の本音を吸い上げて集約し、経営者に伝え、労働環境改善の一助となっているからなのです。
”労働組合に告げ口なんてせず、不平・不満があるなら、現場のマネジメント層や経営者に直接言えばいいじゃないか!”という声が聞こえてきそうですが、給料をもらい、人事権を握っているエライ人々に対して、社員は簡単に本音を言わない・・・ということを、肝に銘じておくべきです。ましてや、鼻息の荒い経営者・マネジメント層に限って、日頃から現場に無関心で、本音を聞き出す機会すら持っていない場合が多いのです。
もっとややこしいのは、現場に強い関心を持ち、改善策を打ち出してくる経営者やマネジメント層に対しても、”私たちが必要としている改善策とはズレてるんだよ”と、表面だけは喜んでいるように見せかけて、内心では落胆し、会社に不信感を抱いてている社員が多いということです。
社員の本音を正確に把握しなければ、良かれと思って作った改善策も、社員との溝を深める原因になりかねないと言うことです。
その反面、現場の社員は、労働組合について次のように理解しています。
- 社員たちが自ら立ち上げ、参画し、運営している組織であり、利害関係、上下関係には縛られない。
- 労働組合が吸い上げた意見は、社員全員の意見として集約され、確実かつ正確に経営者にまで伝わる。
- だから、労働組合には本音をしゃべる価値がある。
今回のコラムでは、労働組合の機能や役割についての詳細な解説は割愛しますが、実際のところ、労働組合の役員たちは、経営者やマネジメント層以上に、手弁当で、組合員の本音を聞き出すことに、東奔西走しています。だから前述のような社員の理解を得ることができるのです。
ヤマト運輸の事例は、中小企業の経営者やマネジメント層が、労働組合がなくても、どうすれば、社員が本音を言える仕組みを社内に構築できるのか、経営者も社員も納得の行く経営ができるのか、今一度考えてみる絶好の材料なのです。
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