経営を動かすコピーの秘密
明治の「カール」が話題になっています。商品誕生が1968年、50才を目前に東日本での販売中止。理由は売上が不振。消費者のSNSの投稿では惜しむ声、声、声です。一方、明治の公式サイトによれば、直近の売上高では主力商品はブルガリアヨーグルトに代表される「デイリー発酵商品」、次いで「チョコレート商品群」です。4番手が「スナック菓子」群とのこと、明治サイドからすれば「選択」することは自然の流れだったのでしょう。
カール、というかつての主力商品も半世紀が過ぎ、他の商品群と入れ替わっていくのは避けられないことです。CMソング、キャラクターまで作ってお客様を喜ばせ、コツコツと売ってきた商品。マーケティング的に言えば「ブランディング」した商品を手放す余裕があるのは、まさに明治という大企業のなせる技。中小企業ではまずこのような選択肢はありません。とにかく目の前にある売上不振の主力商品やサービスをなんとかしなくてはならない・・・。これが、リアルな声ではないでしょうか。
一方、商品リニューアルといっても、攻めの場合もあります。攻めの商品戦略で売上利益拡大を狙ってリニューアルをかけていきたい、という中小企業です。同じ商品リニューアルでも、前者と後者では大きな違いがあります。面白いくらいに「差」として表われてくるポイントがあります・・・
それは「言葉」です。
同じ中小企業でも、攻めの会社では、経営者がお客様に伝えるべき「言葉」を明確に持ち、明言化することができます。自社商品サービスについてですから、至極当たり前といえば当たり前のことです。
弊社コンサルティングでは、必ず「社長の言葉」で商品サービスについて、下地になる原稿を書いてもらうようお願いしています。通常、販促ツールの制作などは専門会社を通して作るようアドバイスしています。その場合でも、必ず「社長が原稿を作ってください」とお願いしています。それでも、なかなか原稿は進まず「ネットに書いてあるから、適当にチャチャッとまとめちゃってくれる?」とか「そういうのは総務の〇〇に任せてるから」とか「忙しいから、そんなことはできない」「業者さんがやってくれるでしょ」とおっしゃいます。強く「社長の言葉で書いてください」とお願いしても、快諾、とはいかないのです。不思議なほど自社商品やサービスについて消極的。「言葉することが苦手だ」「書くことが嫌い」とおっしゃる経営者が多いのです。
これは、例えばマーケティング会社や制作プロダクションの経営者の場合でも同じです。アウトプットを日々の仕事としているプロフェッショナルでさえも、自社のことを伝えることが苦手な場合が多いです。ビジネススクールでマーケティングや企画を学び、企画書を書くことが比較的好きなな経営者であっても、自社商品サービスについて明文化することは難しいのです。
書くことが苦手。なぜ苦手に感じてしまうのか。それを知りたくて、何度も何度もお願いする中で、やっと心を解いて言ってくれる瞬間があります。ある社長が静かに胸の内を教えてくれました。曰く「お客様に伝え続けてきたけれど、今まで伝わらなかった。言われることはクレームとか値段がどうだ、とか・・・だからウチが伝えることなんて無いんじゃないかって思ってきたんです」。
商品サービスがゴチャゴチャしている。商品カタログで、使っている言葉が整理されていない。定義が曖昧、、、そんな会社も大抵の場合「自信がない」もしくは「自信喪失にある」ことの裏打ちです。もちろんツール制作会社の力不足、という場合もあるかと思いますが、会社の考え方やスタンスをアウトプットしたツールが、考えの軸が一本通っていなかったり、スッキリしていない様子は、会社の内面を映し出している、と無意識下でお客様は直感します。言葉は意外と正直です。これを機にもう一度御社のツールを見直してみてください。
どうしたら経営者が自社商品サービスを「言葉」で伝えられるようになるのか。コピーライター養成講座に通ってノウハウを学んで「書くこと」を克服すれば書けるようになるのでしょうか。
「言葉」に必要不可欠なのはたった一つのことです。
それは「リアルな想い」です。これだけ。別の言葉で言えば「魂の叫び」です。これこそが、プロであるコピーライターには絶対に書けない言葉なのです。飾ったり、よく見せようとしたり、背伸びをする必要は一切ありません。等身大の「裸のコピー」を書いてください。非常に恐ろしいことです。ただでさえ書くのが苦手なのに・・・。そんな風にお感じになったかもしれません。しかし、苦手だからこそ挑戦してください。一生懸命に書いた言葉は必ず伝わります。むしろ書くことが苦手であることの方がずっと有利と言えます。
自社の商品サービスはご自身の「子供」なのではないか。ゼロから生み出して育て上げたものです。もしも、語る言葉が無いというならばそれは「考えていない」ということです。人は考えていないことは言葉にすることはできません。「言葉」にできない、は考えていない証拠であり、考えて考えて考え尽くせば、必ず言葉が出てきます。考え抜いていないとすれば、また、社長ご自身の思考を止めた状態で業者まかせ人任せにしたとしていたら、そのような商品サービスをお客様が魅力に感じるのでしょうか。
お客さまを説得し共感してもらい、購買につなげる。そのために商品カタログを作る。チラシやDMを打とう、Webサイトを作ろう。すべて「言葉」が世界観を作り上げてゆきます。もしも「コピーライターやライターに任せておけばいい」とお考えだとすれば、今から、意識を変えてください。今日から社長が御社専属コピーライターになってください。
ここでもう一度、冒頭の「カール」に話を戻します。50才になる商品ですが、発売当時から「それにつけてもおやつはカール」というキャッチコピーを使用していました。このコピーがずっと使われてきて、むしろこのキャッチで50 年のカールを見ながら、私は「商品がかわいそうだな」と感じていました。1968年の創業時、日本初のスナック菓子、という位置付けで「それにつけても」おやつはカールしかない時代です。このコピーは消費者に確かに刺さりました。お茶の間に流れるテレビコマーシャルを見ている消費者の購買意欲をそそりました。
では、今はどうでしょうか。たくさんのスナック菓子、たくさんのお菓子、たくさんのおやつスタイル、、、時代が進むにつれて「それにつけても・・・」という言葉が古臭くなり、商品を放置している印象持ちました。「言葉」に対して後ろ向きな企業姿勢を発見しました。消費者の想像力を侮ってはいけません。消費者は「安い」から、それだけで商品を好きになったり買ったりするわけではありません。大手の商品だから買う、そんなふうに単純なわけでもありません。
モノの溢れる今「自社の想い」を社長の言葉で伝えないで、だれが選んでくれるのでしょうか。商品リニューアルの背景には「売上利益拡大」「新商品を作りたいけど経営資源がない」「リフレッシュしたい」さまざまな事情があります。それは企業側の都合であって、消費者には関係のない話です。むしろ、IoTの浸透であらゆる業態の境目がなくなり繋がっていく時代です。その中で選んでもらう、勝つためには強烈な「想い」を伝えることが非常に重要です。商品リニューアルの仕組みの中で「想い」を武器に、アウトプットしていくことが非常に重要なのです。
先ほども書きましたように「書けない」理由は、とても単純です。「考えていない」ということです。ご自身と向き合いしっかりと「考える」時間を作ってください。考えて考えて考え抜く。考え抜いてアウトプットできた人のみが、この厳しい勝負の土俵に立つことができるのです。逆にいえば、この努力をしていない会社の商品サービスは簡単にお客様に見破られ「伝わってこない」と無視されます。どんなにお金をかけて商品サービスリニューアルをしたとしても負けてしまうのです。
言葉は力です。
言葉はエネルギーです。
エネルギーですから、社長の想いをしっかりと言葉にした時に社内が動き始める事例がとても多いです。商品サービスに関わる一人一人の気持ちを高め、やる気を引き出し、実力以上の能力が発揮されるケースを今まで、幾度となく見てきました。いわば、社長のコピーは社員に向けた「ラブレター」なのです。そして社内の雰囲気が不思議とお客様に伝わっていくのです。
書くことが苦手だ、面倒臭いと人任せにしていることは、収益増のチャンスロスです。難しいことは何ひとつありません。考えて考えて考え抜く。言葉にできるまで考えるだけ。これだけです。
お客様にどうしても伝えたいことをご自身の心の奥底から掘り起こす作業です。創業時のビジネスを始めた頃の初心に時間を戻してみてください。お客様から喜ばれたこと、嬉しかったこと、涙したこと、夢見たこと、手応え、苦労、、、すべてご自身の中にあります。
社長はもうすでに素晴らしいコピーライターなのです。そのことに気づいてください。ぜひ、じっくりと本気で「書く」ということに向かい合ってください。そうやって編み出された社長の言葉には、会社を経営を動かしていく、とてつもないパワーが宿っているのです。
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