〇〇を持っていない会社の理念は、「社会に貢献する」という万遍なくという方向に逃げる
「どこの誰が、御社と、喜んで取引をしてくれるのですか?」
文面通りキツイ言葉です。自動車関連サービス、M社長に投げた言葉です。
M社長は素直に返されます。
「すみません、矢田先生が何を言わんとしているのかが、理解できません」
誰が喜ぶか、誰を喜ばせたいか、これを満たすことを事業と言います。
そして、それを満たすために存在するのが、組織です。
これが明確でない会社では、すべてがぼやけます。
そして、儲かることはありません。
「当社のサービスは、どんな方に利用してほしいのか。そして、そのお客様に、当社のサービスを利用していただき、どういう気持ちを持ってほしいのか」
これに、明確に答えられる必要があります。
これを決め、その狙い通りつくることを、事業構築と言ったり、事業戦略と言ったりします。これが、ドンピシャとはまるものを見つけた時に、その事業は大きく飛躍する可能性を持つことができます。
例えば旅館、
「当社は、社員旅行などの団体様に喜んで頂きたい」とするのか、
「当社は、シニア夫婦のご褒美やゆったり旅行にご活用いただきたい」、
「当社は、バックパッカーや若者のために、長期滞在、観光の拠点としてもらいたい」、
このように、自社はどんな人に使ってほしいのか、を明確にしなければいけません。
これが、無い旅館では、「団体」も「シニア夫婦」も受け入れようとします。
経営者の方なら、ご経験があると思います。
そこそこの旅館に家族で泊まったはずが、団体旅行と一緒になった時の嫌な気分を。
食事の時に、大部屋の前を通ると宴会の騒ぎ、そして、脱ぎ捨てられたスリッパ。
そして、食事を終え風呂に行くと、沢山の酔っ払いが大声で話している。
そして、反省します、「もう少しお金を出さなければ、平穏は買えない」と。そして、その旅館を二度と使うことはありません。
どんなお客様に利用していただきたいか。そして、利用の結果どういう気分、満足を持ってもらいたいか。そして、そのためには、何かを選び、何かを捨てる必要があります。団体旅行も家族旅行も取ろうとすると、どちらも中途半端になります。お客様が違った時点で、別の事業なのです。
この設計こそが、事業の根本なのです。
製造業、建設業、設備業でも、この考え方が絶対に必要です。
「どんな会社が、当社と取引すると幸せになるか」
そして
「その満足とは、どんな気持ちを持ってもらうのか」
- あそこは、見積もりを頼むと、翌日には回答をくれて助かる。
- 急な追加工事でも、なんとかしようと頑張ってくれる。
- 社内稟議を通すために、協力してくれる。など。
この『どんな感情を持ってもらうか』こそ、が事業です。これこそが、サービスなのです。これを狙って仕掛けていくのです。
これを明確に持っている会社と持っていない会社は、見ればすぐに解ります。
明確に持っている会社は、ホームページを見れば、「誰に、どんなメリットを提供しているのか」がすぐに解ります。
それは、当然です。
広告宣伝とは、『〇〇という方に、〇〇というサービスを提供し、こんな〇〇という気分にさせていただきます」という発信となります。
だからこそ、そのホームページは、シンプルでありながら、とがっています。
自社の考えるお客様とお客様ではない人を明確にしています。相手を選別します。
この事業定義を明確に持っていない会社のホームページでは、商品や製品のラインナップに終始します。そこには、誰かに語りかけるものがありません。
家族で行って団体と一緒になった旅館のホームページをみると、やはりぼやけています。また、もし「個人向け」でつくったホームページだとしても、実際に行って団体と一緒になれば、お客様の反感を買うことになります。
そして、それは、ホームページだけではなく、理念にも表れます。
明確に持っている会社では、「理念」が「誰に」向かっているかが明確です。
そして、自分たちが「何を」提供するのかも明確になっています。
それにより、『自社特有』の存在意義を表しています。それをみれば、社員も、自社や自分たちが特異な存在であることを感じることができます。
そして、それに向けて自分たちが取るべき態度や、提供する技術が決まってきます。
人は、「明確に奉仕する人」の存在により自分を律することも、やる気を出すこともできます。その人の笑顔がみたい、その人から「ありがとう、助かったよ」と言われたい、それしか自分の存在を感じられるところはありません。
明確に持っていない会社では、「理念」が「社会に」向かいます。
社会への貢献、発展など、万遍なものとなります。
そこには、残念ながら、『自社特有』のものがありません。自社がそこで存在する、特異な理由がないのです。
社員も、そこに明確な自分の存在意義を見出せなくなります。
そして、自分たちの取るべき態度も技術も定まらなくなります。
それどころか、態度は悪くなります。自分たちを買ってくれる人、評価する人が、感じられないのです。
「誰のために」、「何を提供し」、「何を実現するのか」、これこそが事業です。これを理念ということもできます。
先日、冒頭のM社の経営方針発表会に招かれました。あれから3年が経っています。
会の最後に、サプライズで、お客様へのインタビューのビデオが流されました。M社長と一部の社員で準備してきたものです。
映像が始まり、アップで取引先の知っている顔が映し出されます。
「当社のサービスは、いかがですか?」と訊くM社長の声が流れます、
そして「いいね、〇〇君にはいつも助けられていますよ。私の段取りが悪く、いつも特急ですから(笑)」と運送会社の社長様。
「期末に、翌期の車検のスケジュールとその予算の概算を出してくれるのが助かります」と大手製造業の管理部の超多忙な担当者様。
感謝のコメント、暖かいメッセージが流れます。
そんな映像が、7、8名流れます。M社長の「誘導尋問」的なインタビューに会場から笑いが出ます。感動で目を潤ませている社員も少なくありません。
そして、さすがのM社長、それだけでは終わりません。
第二部という表題がスクリーンに映し出され、
「当社のサービスで、もっとこうすると良くなるよ、というアドバイスを頂ければと」と、M社長の声が流れます。
多くの社員が姿勢を正し、座り直すのが見られました。
この質問に対しても、しっかりお答えいただける良いお客様ばかりです。
しっかり「改善要求」がありました。
「代車を禁煙にできないか」、「修理完了予定の回答をもっとスピーディーに教えてほしい」など沢山。
そして、ほぼ全員の方が、「他社よりも少し価格が高いが・・(笑)」と言われましたが、最後には「でも、助かっています。これからもよろしくお願いします。」との言葉で締めくくっていただけました。
どんな人に、自社を使ってほしいのか、
その時、どんな気持ちを持ってもらいたいのか、
それが明確に持てて初めて、人の集まりであるただの集団が、
ある目的に向けて機能を発揮する「組織」になります。
人に喜ばれたい、人に感謝されたい、それだけです、我々の生き甲斐は。
その「人」を選ぶことが、社長の役目です。
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