「顧客第一主義」…を実現するためには?
「今年度、わが社は“顧客第一主義”をスローガンに、お客様へのサービス向上を徹底していく予定です」
先日お会いした経営者は、新しい年度を迎え次なるステージに向けた目標を社員と共有し、イキイキとした表情で語ってくださいました。店舗を増やし、それに伴って増えた新しいスタッフと共にお客様へのサービスを更に充実させ、同業他社との差別化を図っていこうというお考えのようです。
最近では多くの企業がお客様サービスの向上に力を入れており、なかなか差別化が難しくなりましたが、そんな中でも現場のスタッフ達が互いに知恵を出し合い、お客様の好みや要望、お困りごとなど多くの声を集め、“喜ばれるサービス”のためのアイディア出しに余念がありません。一日中立ち通しの過酷な接客業でも、「お客様にいかに喜んでもらえるか?」をひたすら考えるスタッフ達の表情は実に明るく、見ているこちらも元気にしてくれます。
一方、私も良く知るあるお店では、店内に「サービス一番宣言」と大きく書いてあるにもかかわらず、彼らの口から出てくる言葉には何となく気持ちが込められていないように感じます。「かしこまりました」「ありがとうございます」という言葉も、目を合わせることも無く義務的な空気を感じます。働く環境や提供できるサービスにそう大きな違いは無いこの2つの店舗、一体何が彼らをそうさせるのでしょうか?
外部の人間には理解できない何か深い理由があるのかもしれませんが、このような分かれ道をつくる原因の一つに、「自分達が進むべき方向性が明確か、そうでないか?」…が考えられます。経営戦略と言われる部分です。これの「有る」「無し」は、なぜそのような違いを生み出してしまうのでしょうか?
多くの会社では、年一回の経営計画策定のタイミングにこれらの方向性について考え、目標の設定をされると思います。その中には、伸ばす事業や縮小する事業など、今後の投資や育成など将来の会社経営を大きく左右する事柄が含まれますが、私の知る会社の中には過去何十年にもわたって長く安定的な経営が続いて来たために、常にこれまでの延長線上で経営計画を考えているところも少なくありません。
以前のような右肩上がりの経済でならこの考え方も通用したのかもしれませんが、現在の激しい競争社会の中にあっては通用しない事柄が多くなり、会社が向かうべき方向は常に柔軟に変化に対応できなければなりません。目先の手段(=戦術)の改善だけでは世の中の大きな変化の波に飲み込まれてしまうからです。
何のため?の戦略と、どうやって?の戦術。仮にこの2つの違いに気づかないまま毎年の計画を立て、これまでの延長線上に物事を考えるコトを続けていると、社員のモチベーションばかりか、経営の体力そのものを奪われて行くことになり兼ねません。
冒頭ご紹介した2つの店舗を比較してみると、前者の方は、美味しいものの提供や値段勝負という一般的な飲食提供サービスという領域を超え、“快適空間の提供”を目指し、そのために自分達がやるべきことを具体的に落とし込むことをされていらっしゃいますが、後者のお店では、ただ漠然と“サービス一番宣言”という言葉だけが現場に下りてきており、それが何のためのサービスなのかが浸透していないために、社長も店長もスタッフも…皆んなが口を揃えて「サービス一番宣言」と唱えるだけに終わってしまっているのです。
経営者の皆さま。今年の目標は、じっくり考えた将来向かうべき方向とマッチしていますか?それは社員にしっかりと伝わっていますか?単なる前年の上乗せ的な目標になっていませんか?未来が描けない組織では、常に全員が目先の作業に気を取られ、下を向いて自分の守備範囲でしか仕事をしなくなります。新しい提案や新たな取り組みを嫌い、「これまで通り」かその延長にしか感心を持たなくなってしまいます。具体的な経営戦略を立て、未来の可能性を伝え、全社を一つに束ねるのは経営者の役割なんですよ。
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