「見える化」・「マニュアル化」の明と暗
「ウチの営業部も、最近、ようやくマニュアル作成に取り掛かることになったんですよ。ベテラン社員が辞めてしまうと社内にノウハウが残らないし…売れる営業マンと売れない営業マンの違いが傍からみていてもわかりにくい…オマケに、お客様からウケの良い社員が訪問先でどんな接客をしているのか誰も知らない…とか。。とにかく営業部には他人に分からないことが山のように多かったので、普段の作業や業務の見える化、基本的な流れのマニュアル化は長年の課題だったんです!」
…最近、大手のコンサルティング会社が入ったというS社長様のお話しです。社内では難しかった「見える化」を、外部の専門家の手を借りてようやくスタートしたのだとか。まずは各々の業務をマニュアル化したり、個人が管理する日々の記録簿の書式を統一したりすることから始まり、訪問前にチェックする相手先の企業情報の形式や、プロセス毎のツールやアプローチ方法、自社や商品についてのプレゼンテーション手法等…、営業部として基本的な情報の共有ができ、また、部下からの報告形式も揃えていくことで、忙しいマネージャーの時間効率が大きく上がる!…と言うのが今回の目的だそうです。
このS社長に限らず、社内の至る所に存在するブラックボックスを何とか見える化したい!というのは多くの経営者や管理者の願望なのではないでしょうか?事実、弊社にご相談に来られる方もその多くが全体像を把握できておらず、
「まずは現状を把握することから始めましょう…」
となるケースがほとんどです。誰が?何を?どのように?やっているのか…を知ることは、営業部以外にも全社的な課題や問題点を把握するのに大いに役立つので、私もおすすめしています。
一方、実際の作業を進めて行くうちに、「見える化」と「マニュアル化」がいつの間にか組織の中でごちゃまぜになっている会社も多く見掛けます。営業マンの育成に時間が掛かることから、「優績者の営業手法を見える化し、他の社員の教育に活用しよう…」と考えたのは良かったけれど、優績社員に対して「まずは自分がどのように営業をしているのか皆んなにわかるようにまとめて欲しい」と指示してしまったり、また、個々の営業マンのやり方に大きく開きがあることなどから、「各個人の営業プロセスを見える化して、社内で共有しよう…」と取り組んでいたある企業でも、気がつけば立派なマニュアルはできあがったけれど…という状況になったり。現状を知ろう、見える化しよう、と思えば思うほど、マニュアル化が進んでしまうという会社を何社も知っています。
ちなみに、単純にこれらの言葉の意味を調べてみると…「マニュアル化」とは、誰でも同じ手順や効率で作業ができるように手引きなどを作成すること、「見える化」とは、企業活動の漠然とした部分を数字等客観的に判断できる指標で把握する取り組みのこと…とあり、両者の意味が全く違うことは一目瞭然なのですが、色々やっていくうちにいつの間にか…ということなのでしょうか?
いくつか原因は考えられますが、私が思うのに、多くの経営者が最初に望むことは「見える化」であり、今後の営業活動をどのように進めて行くかを考える時に「今の状況を知りたい」と思うとか、そもそも“今の状況”に不満があり「どこに原因があるのかを知りたい」と考えるのではないでしょうか?
「やってます」「頑張ってます」、又は、「できません」「うまく行きません」という現場の声の裏付けを数字で示して欲しい、判断できる材料が欲しい、と思うはずです。それを部下に指示したはずなのに、気がつけば「どうやっているのか?」を伝えようとしてしまい、それを見える化しようとするとマニュアルという形の作成になってしまうのかもしれません。社員の感情は、「頑張っていることを認めてもらいたい」…というところにあり、経営者の考えとは基本的にズレがあるからです。
見える化を上手く進めるためのポイントは、「判断基準となる数字を何で出すか?を明確に指示すること」です。例えば営業マンであれば新規訪問件数やアポイント率、リピート率、お客様アンケートなどがそれに該当するでしょうし、DMやホームページの反応率も同じくです。
どこの誰に対し、何を行い、結果がどうであったか?これを検証する作業が見える化の最大の目的であり、その経過をまとめる作業ではないのです。そして、理想的な営業マンの育成とは、それらの数字を効果的に出す手法を指導することで、その手引きとしてマニュアルの存在があるのです。
経営者の皆さま。御社の“見える化”は、何を基準に行っていますか?単なるマニュアルづくりになっていませんか?会社全体で顧客対応できる能動的な組織をつくるためには、客観的な判断基準が重要であり、その的確な指示を出すのは経営者の役割ですよ。
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