衰退リーダーは、贅肉を野放しにする 成長リーダーは、筋肉を鍛え上げる
先日、ある10億を少し超える事業部を統括する役員の方と面談していた時のことです。
「Sさん、この事業が、倍になったら、管理側の人数は、どのくらいになりますか?」と私が質問しましたら、
「うーん、、、、」と言ってから、「40名くらいでしょうか?」という答えが返ってきました。
その答えに対して、「そうですね。効率化しながらですと、その位の人数ですね。でも、Sさんのお立場ですと別の答えはありませんか?」と言いながら、
先ほど、Sさんから頂いた、組織図にある管理部の人員数26名の数字の横に、20名という数字を書き込みました。
Sさんの率いる事業のビジネスモデルは、大変ユニークで、この分野ではかなりの知名度を持つまでになりました。その証拠に大手企業から引き合いが殺到しています。嬉しいことなのですが、こうなると、強力な競合が現れるのは、時間の問題。
最初の半年間コンサルティングでは、仕組みを更に進化させ、他社との差別化を作り、それを継続的に昇華し続ける仕組みを運用に移してきました。
実際に、殺到するオーダーに無理して対応したツケが其処彼処にでるようになったので、仕組み作りを優先されるために、一時、新規の受付を停止するという英断もありました。(踊り場を作ることは通常オススメしませんが、、、)
堪え忍んだ4ヶ月。着実に差別化プランを実行し、従来のサービス基準の大幅な引き上げを実現させました。すると、発注側の企業の役員から直々に「驚くべき改善の成果が見える!」と電話連絡があったと、Sさんが嬉しそうに言ってくれたのを覚えています。
このように、素晴らしい組織を作り上げているSさんです。ところが、このSさんにも悩みがありました。それは、利益率が低いこと。
ビジネスモデルの進化は、いくつかの点で行います。売上げが持続的に拡大し、質の改善も、継続的に行われるようになると、最後の仕上げは固定費の削減です。
固定費の削減は、単に利益が改善するという短絡的なメリット以上にとても重要な意味を持っています。それは、未来の競合対する参入障壁を上げることだからです。
参入を検討している競合相手に、「えー、一体どうやったら、これで利益だせるの?」と思わせたらこっちのものです。
というわけで、現在の売上げを倍にしても、現在の人数よりも少ない人数で行うことを目標設定するべきだと、Sさんにお伝えしたわけです。
お伝えした時のSさんは、絶句。
その後で、その数字の理由を説明したところ、逆にSさんの表情は変わり、前のめりになってきました。それならば、「○○も」「○○にも、」「○○のほうも」と現状に縛られないアイディアがあふれ出したのです。
またまた、話は変わりますが、私が、数ヶ月後に事業資金が底をつくという切羽詰まった赤字企業の立て直しをした時のことです。
とにかく、出血を止めようと、私は、あらゆる費用の大幅な見直しに着手しました。
その一つは管理部門の固定費の削減で、管理部門の部長に管理部門の費用を半分にすると宣言して、それを実行したことがあります。
その方針発表の翌日、管理部門のメンバーからは、「そんなの絶対に無理です!」と反対表明があり、それと同時に、退職届が出てきました。
その結果、全管理部門の人員数6人のうち、4人が2ヶ月以内で退職ということになりました。残ることになった部長ともう一人の担当から、大至急人の補充をする旨懇願されたのです。
心を鬼にして、私は2人に2つのことを伝えました。一つは、社員の補充は当面しない。(派遣1人だけ枠を用意しました。)もう一つは、業務の大幅な見直しをすること。
4人が辞めて、最初の月次処理は、確かにバタバタしてました。内心私も穏やかではありませんでした。啖呵を切ったものの、大混乱に陥ったらどうしようかと ハラハラしたものです。
月次処理が終わって、一息ついた頃、恐る恐る、部長に感触を聞いてみました。すると、部長は笑みを浮かべてこう言いました。
「なんで、6人必要だったんでしょね。」と。
その後に、様々な会社を見ることで、同じ問題を抱える組織が少なく無いことを知りました。私が経験したこの赤字会社に限らず、組織というのは、自己膨張する性質を持っているのです。
また「人が増えるに従い、一人上辺りの生産性は下がる」という有名な経済学説通り、放って置くと、固定費はドンドン上昇してしまうのは、寧ろ自然な成り行きと言えるのです。
- 知らず知らず、会社は贅肉だらけ。
- 知らず知らず、生産性は低下の一途。
- その結果、利益率が一桁前半を這いつくばる。
もちろん、この状況に対して何かしら手を打っているわけですが、抜本的なメスを入れている会社は少数派です。なので、利益率は改善されていかない。
部門の生産性を改善する際に、「努力で改善」というやり方は、十分な成果を上げることはありません。 多少の効率性を上げる程度で終わってしまいます。
現場の徒労感が増える割には、抜本的な利益率の改善には結びつかないのです。利益率の改善に結びつけるためには、直線的な改善ではなく、階段状(敢えて断絶を作る)劇的な改革を行うべきなのです。
勉強熱心な皆さんなら、この話、初めて聞く内容ではないと思います。過去から多くの方々が言っている解決法です。
ところが、多くの人がこのことを知りながらも、これを実行出来ないのです。なぜ、多くの人は、このやり方を具現化できないのかといえば、「恐くて手をつけられない」のです。
確かに、私も最初は恐かったですから、その気持ちよく分かります。最悪事態を想定すると、戦略を実行するボタンをいざ押そうとすると、指が震えてしまうのです。
とはいえ、経営幹部の仕事は、この恐怖に打ち勝つことです。現場の人が怖がるのは仕方ありません。
でも、経営幹部は、抜本的な改善をするために、 この恐怖を乗り越え無ければなりませんし、これが出来なければ、中長期的に、その部門が勝ち続ける強みは損なわれる一方です。
贅肉を野放図にしては、長期の会社の発展はあり得ないのです。
さて、御社の場合はいかがでしょうか?
抜本的な改革に着手していますでしょうか?
それとも、効率の改善に終始していますでしょうか?
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