伝えなければ伝わらないこちらの世界―「当たり前」の盲点をあえて切り拓く―
私は、地元FM放送にビジネス番組のコーナーを担当してもう5年になります。月に1回30分ほど、番組担当のパーソナリティーの女性と、その日私が考えてきたテーマについてお話をします。
5年ということは、かれこれもう50回以上出演したことになります。テーマについては、その都度それなりに考えて提供しています。放送を録音したアーカイブのCDは私の財産でもあります。
昨年末より、ご縁をいただいてお隣の市の地域FMにも出演するようになりました。こちらは不定期で、2,3ヶ月に一度の出演ですが、1回が2時間の長丁場なのでいろいろなことをお伝えできます。テーマを特に決めるということはなく、パーソナリティーの方との掛け合いでおしゃべりします。
「よくそんなにテーマを思いつくね。」とか「2時間も何しゃべるの?」とか驚かれますが、これは「慣れ」というより「姿勢」があればなんとかなるものです。「姿勢」というのは「(情報発信に)向き合う姿勢」といった意味ですが、これについては、また機会を設けて書いてみたいと思います。
今回お伝えしたいのは、パーソナリティー(どちらのFM放送局も女性)との掛け合いを通じて私が感じたことです。
それは、結論から言えば
「こちらが想像していた以上に、他人はこちらのことを知らないんだな。」
ということです。
今まで何人もの女性パーソナリティーと、こうやって仕事上の接点を持ちました。彼女たちは、いずれも非常に頭の回転の速い方たちです。ま、ラジオのパーソナリティーを担当するくらいですから、当たり前といえば当たり前なのですが、その賢いはずの彼女たちが、意外にこちらの世界のことを知りませんでした。
私は、中小企業の経営支援ということを、普段の生業(なりわい)としている関係で、どうしてもそういった話題が多くなります。コンサルティングについて、その専門性をあまり深く掘り下げた話をしますと、素人には分かりにくい世界になってしまいます。一般の人たちが大勢聞いているラジオで、あまり難しい話をしても仕方がないので、こちらの専門性について、その入口の辺りをできるだけ分かり易くお話するように心掛けています。
ところが、この分かり易さのハードルをかなり下げたと思っていても、ときどき話の内容がパーソナリティーの彼女たちに通じないことがあります。
私の中では、これは業界内の人たちだけにしか分からない専門性の高いレベル、これは一般的にもある程度知られている普通のレベル、と分けて、比較的丁寧にお話しているつもりです。
そんな風にかなり注意してお話していても、「へー、そうなんですか!?」と、初めて聞くような顔をされることが多いのです。
ここで私が、なにが言いたいかというと、
「人は、頭が良くて、そこそこ世間のことをわかっているような立場の人でも、こちらの世界は案外知らない。」
ということなのです。
毎日、様々なタイプのゲストと接して、普通の人たちよりも幅広くいろいろなことをわかっているはずの彼女たちでも、少し専門性に立ち入った話になると意外にその中身を知りません。これは私の専門分野に限ったことではないだろうと思います。
それでは一般の人たちは、こちら側のことを「何故そんなに知らない」のでしょうか。また、こちら側の「何を知らない」のでしょうか。
例えば、このコラムは経営者向けに書いています。つまり、このコラムは、その読者である経営者が「経営」というものに関して、筆者と共通の了解事項や知識レベルがある、ということを前提に書いているのです。
しかしながら、ラジオや一般紙のコラムなどは、ほとんど普通の民間人がその聴取者や購読者です。この人たちは、こちら側の「専門性」とともに「経営」についても素人だと思った方がいいでしょう。
つまり、世間の人は経営者に比べて、その経営者が持つ「専門性」についてはほとんど素人であり、また「経営」についてはそれを考えたり悩んだりする立場にありません。
そのために、この二つについては「知らない」ということになるのです。
一方、経営者側にとって「専門性」と「経営」は、きっちり分けて捉えられるものではありません。日常的に不可分に両方に向き合っています。
ですから、なにかと苦労している自分の事業について話す機会があれば、その両方を伝えようとします。ところが先述のように素人である一般人にとってはそのどちらも縁のない(知らない)世界なので、余計わかりにくくなるのです。
私のケースでも、女性パーソナリティーが「は?」という顔をしたり、あまりよくわかっていないな、と感じたりしたのは、その「専門性」がわかりにくかったり「経営者の立場」がよくわからなかったりしたときだったんだな、と思い当たります。
ですから、こちらが情報発信するとき分かり易さのバロメーターとして、例えばラジオの場合、頭はいいけれどもこちらの専門性と経営については全く素人である女性パーソナリティーにもわかるレベルで話をする、ということが言えると思います。これは、私が日常的にも気をつけているところです。
ただ、ここで大切なのは、先述した「知らない」ということと、「興味がない」ということとは同じではない、という事実です。
一般人である聴取者や読者は、「専門性」については素人なのですから、最初からその専門性についてわからないのは当たり前です。
しかし、その入口のところを分かり易く説明してあげる、或いは丁寧に解説してあげれば、まず興味を持ってくれます。
更に、意外な一面、珍しい切り口などのエピソードが加われば、より深く知ろうとしてくれるはずです。
私は多くの経営者に、そういった情報発信をしていただきたいのです。
「あなたのその専門性に、あなたが思っているより多くの人たちが興味を持っているのですよ。」
と、伝えたいのです。
人は基本的に、好奇心溢れる動物です。自分のそれまで知らなかった新しいことを知りたいのです。
専門性に深く切り込んだお話は、意外性に富んでいて、興味深いことだらけでしょう。私は、それを伝えることができるのが経営者だと思っています。
とはいえ、こちらは専門家ですので、これまでも申し上げてきましたように、それなりに「当たり前」と思っている世界を持っています。しかし、それが当たり前になり過ぎて、分かり易く伝える努力を怠ったならば、伝わるものも伝わらないことを忘れないでいただきたい、と思うのです。
つまり、情報発信は大事だけれど、相手に伝わらなかったらなんにもならないということです。情報発信の大切さはこれまで、いろいろと述べてきましたが、せっかく発信した情報がわかりにくいものだったらもったいない話です。
自社の持つ専門性を分かり易く伝えることで、多くの人の興味を引き、その好奇心を満足させるという行為は、そのものが質の高い販売促進に繋がります。
経営者は、自らが率先してメディアを上手に使い自社の発展に貢献して下さい。
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