第40話 社長の仕事は、社員を”ひとりの人間”として捉えること。
「ソノダさん、私は、現場のマネジメント層を育成することに、まだ抵抗があるようです・・・。」顧問先の人事・労務担当役員(Aさん)の言葉です。
Aさんは、この1年間、陣頭指揮を取って、混乱した現場業務を指導してきました。しかし、いつまでも現場に掛かり切りになるわけにもいきません。Aさんの代わりに現場業務をマネジメントできる人材を、早急に育成しなければならない状況に置かれています。
にもかかわらず、Aさんは、人材育成に正面から向き合うことが、できないでいるのです。
聞けば、Aさんは、「社員は、誰かに育ててもらうのではなく、自分自身で育つべき」という想いが根強くあるようです。特にマネジメント層に対しては、「それ相応の経験や知識を持って入社したのだから、それを発揮するだけでよく、一から十まで私に頼るべきでない・・・」という強い不満を抱いています。
その不満は一見、マネジメント層の自律や成長を期待しているようですが、実はそうではないようです。更に話を聞いていくと、「経験を発揮できないのだから、素直に私の言う通りに動くべき・・・」という、”権力への強いコダワリ”に行き着くからです。
当たり前のことですが、”権力へのコダワリ”が強ければ強いほど、上から目線となり、社員を、一人の人間としてではなく、単なる”組織の歯車”として捉え、”現時点で経営者の指示どおりに歯車が回る”ことだけに関心が向けられます。
一方、人材育成というのは、その人の人生を預かるということに他なりません。現時点で社員や家族の生活を支えながら、将来に渡ってその社員が食べていけるように、社員の夢や目標を共有・尊重しながら、成長を支援するということに他ならないのです。
社員も、たとえ正社員であろうが、アルバイト社員であろうが、自分の成長を支援してくれる経営者の真剣な姿勢に触れるからこそ、その信頼に応えようと、自ら鞭打って働くようになります。育てる者と育てられる者の想いが共振し合って、お互いに成長していくのです。
思い起こせば、私自身も、前職時代、私の家族のことまで気にかけてくれ、その上で、様々な難しい仕事に挑戦をさせてくれた先輩や上司に育てられたようなものです。そのことが、私の脳裏から離れず、自分自身が部下を育成する立場になった時に、”部下の人生を背負う=成長を支援する”という覚悟を持って、接することができたのだと思っています。
私たち人間は、誰かに育ててもらったことを、忘れがちです。それは、親との関係においても同じであり、人生の曲がり角で、自分を育ててくれた父や母の姿を、記憶の底から呼び起こす機会を得て、親への感謝の念を新たにする時もあります。
そこで、私は、Aさんに、あなたを立派な会社人として育ててくれた方はいらっしゃいますか?と尋ねてみました。すると「若かりし頃、手取り足取り、私を指導してくれた経営者がいました。その方のお陰で、今の私があると思っています・・・」という言葉が返ってきたのです。
私からは、今度はAさんが、その経営者と同じ役割を担う番なのですね・・・とお伝えしました。
世の中には、人材育成やマネジメントのための手法があまた紹介されています。これらの手法は、この人材育成の本質〜自分が育ててもらったことを思い出し、感謝し、社員を一人の人間として受け止め、その成長を支援する〜を腹に落としてこそ、生かされることを、肝に銘じたいと思います。
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