経営トップが情報発信をやり続けるべき理由―ささやかな努力が「差別化」へ―
これまでこのコラムでは
「経営トップが先頭に立って企業の情報発信することが、現代経営においては極めて重要かつ有効な販売促進活動となる。そのための手段(媒体)は昔に比べて格段にバリエーションが増え且つ機能も発達している。」
といったことを書いてきました。
それでは、どうして経営トップ自らが情報発信すべきなのでしょうか。
それは、ごく単純に言えば「差別化」になるからです。
「差別化」という言葉は、現代の経営ではあまりにも頻繁に使われ過ぎていて、もう耳にタコができているような言葉でもありますが、改めて考えてみましょう。
現代社会、特に日本のそれにおいては巷にモノは既に溢れていて、すでに商品力そのものだけでは差別化が難しい時代になっています。もちろん、基本的な商品力がなければお話になりませんが、一定レベル以上の商品であれば、更に何か魅力的な付加価値がなければ消費者は進んで選んではくれないわけです。
その付加価値としてよく言われるのはその企業のストーリー(物語)です。
その企業が営々と築いてきた成り立ちやエピソード、こだわりや歴史といったものを付加価値の一つとして売り物にして行けばいいというお話です。
それでは、そのストーリーはどうやれば伝わるでしょうか。私はそれをあらゆる手段を講じてトップ自らが発信していけばいい、と申し上げているのです。
そうするとここで2つの問題が出てきます。
一つは
「そんな世間にアピールするほどのストーリーなんかうちにはないよ。ごく内輪での出来事やいきさつみたいなものはあっても、他人様に言うほどのものではないよ。」
といった意見です。
もう一つは
「ストーリー仕立てでアピールしろと言っても、やり方がわからないよ。それに、そもそも書いたりしゃべったりするのが苦手なんだよ。」
という意見です。
どちらも、ごもっともなお話です。ただ、後者の「やり方がわからない」という点については、これまで何回か述べてきましたように、現代はSNSをはじめ様々な媒体がありますので、あとは経営者の努力次第ということになります。この点はまた別の機会に詳しく述べたいと思います。
今回は前者の「物語など特にない。」というご意見に対してどう考えるか、どう対処するかをお伝えしたいのです。
「物語」として他人が興味を持つか否かについては二つの要素があります。
一つは、それを伝えた相手にとってどこか刺さる部分があるかどうか、ということです。もう一つは、できるだけ多く人の心に訴えかけるような表現がなされているか、という点です。
前者の「相手にとって・・」というのは、こちらがアピールしようという中身に対して、そもそも全く接点や関心のない人は、どんなに波乱万丈の面白そうな物語であったとしても乗ってくることはありません。これはまさに「相手次第」ですので、こちらがどうこうできる問題ではないのです。
しかしながら、後者は違います。
表現力が巧(たくみ)かつ豊かであれば、人々の心に引っかかってくる確立は高まるはずです。
例えば
― 時代が進み、受注が増えて工場が手狭になった時期があった。もともと生産効率も悪かったので、もっと広い現在の土地に移転した。ちょうど会社の変わり目のときだった。―
と書くのと
― 高度経済成長時代の波に乗り、受注が拡大してきたとき、今がチャンス!と捉えた。次のステージへと進むために、現在の立地へと生産拠点を移したのである。そのときまさに、時代と事業の大きな過渡期を迎えていた。―
と書くのとでは、全く同じことを言っていても伝わる印象はまるで違ってくるわけです。
前者はただの事実を言っているに過ぎませんが、後者は時代背景や当時の企業の意思というものが反映されています。同じ事実でも表現によってこれだけ違ってくるのです。しかも、いずれも全くウソを言っている訳ではありません。
ストーリーとして他者に伝えるためにはこういった努力が必要なのです。ただの事実だけを列挙していたのでは、社史の年表と同じものになってしまいます。
ストーリーとして伝えるためには、当時の思いや意思といったものが生き生きと表現されていなければなりません。
冒頭のお話に戻りますが、「差別化」というのはこういう細部の積み重ねといっても過言でありません。何故ならば、こういう積み重ねは、かなり面倒に感じるため、ほとんどの経営者は初めからやろうとしないからです。
広報や広告は担当者に任せることもできますが、この手の情報発信は経営者がやるべきです。
というか、経営者にしかできません。
担当者レベルには不可能な領域なのです。
多少の汗はかかなければなりませんが、先代や自らが築いてきた自社のことです。できないはずがありません。
そのための有効なサポート(このコンサルティングが私の仕事です)をもらってでも、この情報発信は、経営者自らが先頭に立ってチャレンジしていただきたい企業にとっての重要なテーマなのです。
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