成長拡大か?持続的発展か?
「来年以降の中期計画を考えなければならないのですが、なかなか具体的なものができなくて…。何から考えれば実現可能な計画書ができるのでしょうか?」
先日、ご相談に来られた経営者のお話です。3年に一度中期計画を立て、毎年その年ごとの数字を追い掛けてはいるが、何となく腹落ちしていない…といったご様子です。この経営者に限らず、どこの企業でもある程度の年間計画や中長期的な計画は立てていらっしゃると思いますが、それがどこまで実現できるのかイメージできなかったり、具体的に何をすれば良いのか明確な指示が出せなかったり、と悩む方も少なくありません。
特にこの時期。部下や社員には「来年の計画を出すように」と指示をする社長や幹部が、実は自分は描けていないとはなかなか口にはできないものです…。それでは、一体どのように考えて行けば具体的な戦略を立てることができるのでしょうか?
「企業は成長してなんぼ。現状維持は後退を意味する」なんていうセリフ、どこかで聞かれたことがあると思います。多くの社員を抱える大企業や、積極的な設備投資が必要な業種では、前年と同じことを同じようにやっていては掛かる経費や市場の評価を加味すると結果的にマイナスになってしまうため、常に売上・利益を伸ばして成長し続けなければならない、ということなのでしょう。
しかし一方では、大きな成長よりも長く安定的な経営を目指す経営者も多くいらっしゃいます。特に、職人的なお仕事や家族で経営している小さな事業所、また、お客様との時間や距離感を最優先にしたいという考えをお持ちの経営者であれば規模の大小に関わらず「今のサービスレベルを維持するにはこれ以上増やすべきではない」という経営判断に至るでしょう。
いずれにしろ、計画の入り口でこの「成長拡大方向なのか?持続的発展なのか?」の判断がハッキリしないまま売上目標だけを大きく掲げてみても、向かうべき方向・抑えるポイントなどがブレてしまい、経営者と社員の間にもズレが生じてしまいます。この”ブレ”や”ズレ”…半年、一年であればまだまだ巻き返しがききますが、何年もその状態が続いてしまうと気づかぬウチに大きく本線から外れ、いつの間にか全社で側道を走っていた、なんて言うことにもなりかねません。そんなことなんてあり得ない!と思いたいところですが、実際にあったお話をひとつご紹介します。
あるギフト店でのできごと。その社長は若くして会社を興し、多店舗展開で一気に会社を大きく成長させました。はじめは従業員数名で、いわば個人商店のようなアットホームな雰囲気でスタートした会社でしたが、店舗が増え、地元でも知名度が上がるとお客様が増える一方で、大卒や転職組など優秀な社員も多く集まるようになったのです。
すっかり気を良くした社長は、社内のシステム化に注力し、よりスピーディーな対応をウリにした店づくりを進めて行ったのです。その技術や知識・スピードに着いて行けない、どちらかといえば年配のベテラン社員は次々と辞めてしまい、社員の平均年齢はグンと下がったのです。そして、社員の若返りと共に会社も更なる成長を…?!と行きたいところですが、そこには大きな落とし穴が待っていました。
ギフトと言えば、昔ながらの慣わしやその土地特有の慣習についての知識が求められます。実際に直接店舗に来て商品を手にとって購入してくださるお客様はほとんどが年齢層の高いお客様です。若い方の間では、ネットでの購入やカタログギフトが主流になり、直接店舗に足を運ぶ人はそう多くはないわけで、当然お店にいるスタッフには専門性が問われます。しかし、商品の在庫管理や受注・発送など、どちらかと言えば裏方に近い人間のスキルばかりが高くなってしまい、店頭に立つプロフェッショナルの育成に力を注いでいなかったのです。
結果、「わざわざお店に行ってもわかる人が居ない…」と、店舗の売上は減少していったのです。冠婚葬祭や儀式・しきたりなど、人生の”ここぞ!”という大事な場面でお役に立ててこそ、この会社の存在意義があることを今や社員のほとんどが認識できていなかった、ということでしょうか。並行して、他社との価格競争に巻き込まれた外商部の売上も減少し、右肩上がりだった売上は下降線を辿ることになってしまったのです。ギフトの専門店でありながら専門性で勝負できない店舗運営…一見当たり前過ぎるミスのように見えますが、なぜこのような事態になったのでしょうか?
社長曰く…「毎年の売上目標を常にプラス10%で立て、それを各店舗に割り振りしてきました。採用を任せた若い店長達は、自分より年上のベテラン社員よりも、若くて素直な人材が使いやすいと思ったことや、売上ノルマを達成するためにノベルティなどの大口受注ができる企業向けの営業に注力し、店舗内の人材教育をつい軽視してしまっていたようなんです。」と。
一つ一つの理由はもっともなのですが、その普段の何気ない積み重ねはやがて大きな壁となって経営者の前に立ちはだかったのです。目先の右肩上がりの売上目標という数字は、本来やるべき大切なことではなく、仕事の量や効率ばかりを求め評価する組織文化をつくってしまったのです。自分の会社でありながら、自分の意思の入らない集団を作り上げてきたことになります。
経営者の皆さま。「自分の会社はどこに向かい、何を大切にしなければならないのか?」…きちんと社員に伝えられていますか?「今年の売上目標の裏にはどんな想いや使命が込められているのか?私達は未来に何を求め、顧客から何を求められているのか?」…社員はその数字の意味を知っていますか?社員を動かす目標数字の根底には、社長の決断を伝える戦略が必要なんですよ。
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