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No.000 創刊準備号

SPECIAL

クライシスマネジメント(想定外の危機への対応)コンサルタント

株式会社イージスクライシスマネジメント

代表取締役 

経営陣、指導者向けに、クライシスマネジメント(想定外の危機への対応)を指導する専門家。海上自衛隊において防衛政策の立案や司令部幕僚、部隊指揮官として部隊運用の実務に携わる。2011年海将補で退職。直後より、海上自衛隊が持つ「図上演習」などのノウハウの指導依頼を受け、民間企業における危機管理手法の研究に着手、イージスクライシスマネジメントシステムの体系化を行い、多くの企業に指導、提供している。

acm_logo-01危機管理に挑む経営者の皆様のための専門コラムです。社会、経済、国際情勢、日常生活その他の様々な分野からトピックを選び、意思決定、リーダーシップ、プロトコール、そして危機管理の視点から得られる気付き、ヒントをお伝えします。

私は大学、大学院を通して組織論を専攻してきました。この頃の私の組織論研究の主な関心は意思決定論とリーダーシップ論にありました。
 学生時代の私は、実務経験を持っていなかったこともあり、実証的な研究よりは純理論的な研究に興味があり、チェスター・バーナードやハーバート・サイモンなどの著書と格闘を繰り返していました。大学院に進学して研究を続けましたが、どうも机上の研究に納得がいかず、この辺が理論的研究の限界かもしれないと思い、博士前期課程を修了すると海上自衛隊に入隊しました。
 海上自衛隊では、危機管理の最前線で、士気旺盛で精強な部隊の錬成のためのリーダーシップ、限られた情報の中で的確な情勢判断を行うための意思決定問題などに実務家の立場から取り組んできました。これは大変に遣り甲斐のある仕事であり、組織論の研究者としても興味深い経験を積むことができました。
 自衛隊を退官後、ビジネスの世界に身を投じ、商社の営業部長やカリフォルニアで米国企業の取締役などを経験しましたが、多くの企業が、ほんのちょっとしたことから大きな危機に発展し倒産の危機に陥っていくのを目撃し、ビジネスの世界における危機管理の必要性を痛感してきました。
 この間、研究者の端くれとして「組織学会」に籍を置き、学会の動向も見つめてきました。つまり、約40年間にわたり組織論の研究を続けながら、組織の中で実務についてきたことになります。

この40年間を概観すると、組織論研究の世界におけるリーダーシップ論の進歩には全く見るべきものはありません。しかし、意思決定論の進展は素晴らしいものがあります。この分野は、近年進歩が著しい行動経済学の成果を取り入れながら、さらに素晴らしいものに展開していく可能性があり、実務家としても大きく期待することができます。
 経営学における実学性、プラグマティズムの追求という問題は、中部大学経営学部長の辻村宏和教授が1990年代から「組織化技能」という概念で提唱しておられますが、意思決定論だけは、ようやく実務レベルでも評価できる体系になりつつあるようです。リーダーシップ論が全く追いついてきておらず、実務レベルで評価できる状況になっていないのが残念ですが、今後に期待することにします。

私が組織論に関心を持ち、意思決定やリーダーシップの勉強を始めた学生時代、「危機管理」という言葉は国際政治学の専門用語でした。それは核戦争をいかに回避するかという問題として認識され、いわゆる核抑止の理論が研究されていました。

この「危機管理」という言葉を国際政治学の場から私たちの日常生活の場へ展開させたのは、警察官僚出身の佐々淳行氏であり、1979年に出版された『危機管理のノウハウ』以降、身近に起こる様々な危機への対応に概念が拡大されていきました。

「危機管理」という言葉自体は、それ以降も折に触れて脚光を浴びることはありましたが、やはり何か特別な概念であって一般市民に直接かかわるものとは認識されていませんでした。
 それが1995年(平成7年)1月17日に発生した兵庫県南部地震による大規模地震災害、いわゆる「阪神・淡路大震災」を機に、主として大規模自然災害への対応という観点から民間企業や一般市民にも一挙に関心が広まりました。危機管理のコンサルティング会社が活躍し始めたのもこの頃からです。
 しかし、バブル崩壊後の日本社会は、長引く不況の中にあえいでおり、再びいつ起こるかわからない危機に対する備えに人・時間・資金をつぎ込む余裕がなかったのか、危機管理の重要性は理解しつつも本気で取り組む企業は僅かでした。一般社会も、災害直後は防災用品が爆発的に売れたのですが、備蓄用食料などは保存期限を超えても更新の需要は発生しませんでした。

そこで突然起こったのが2011年3月11日の東日本大震災です。この大震災は犠牲者の数、被災した地域の広さなどが阪神淡路大震災よりも数倍の大きさであり、かつ、桁違いの津波が押し寄せてくる映像が繰り返し繰り返しTVなどで放映されたこと、この自然災害を機に、改めて南海トラフに起因する大地震や富士山の噴火などの危険性がクローズアップされたことなどもあり、日本の民間企業、一般市民もいよいよ本格に危機管理に取り組まなければならないと真剣に考えるようになりました。

実は阪神淡路大震災と東日本大震災の間には、スマトラ島沖の地震津波という大きな自然災害が発生しており、巨大な津波が街を襲う映像が繰り返し流され、日本においても同様の危険があることが指摘されていたのですが、やはり我が身のこととして痛切に認識されるには至っていなかったのかもしれません。

日本の一般社会が太平の眠りから目を覚ますのに東日本大震災は極めて尊い犠牲だったとも言えます。
 つまり、専門家を除く日本の一般社会が危機管理の問題を真剣に考え始めたのは2011年3月以降なのです。

東日本大震災以後、先に述べた南海トラフに起因する地震災害、富士山の噴火のおそれなどの自然災害だけでなく、世界的に頻発しているテロなどの危険も私たちは意識するようになりました。日本国内では地下鉄サリン事件などのオウム真理教が引き起こした事件以外にいわゆるテロ事件は発生していませんが、世界で頻発しているテロ事件のニュースを観るたびに、日本だけがいつまでも例外でいられるはずはないのではないかと私たち自身も感じるようになってきています。

しかし、何せ真剣に考え始めてからまだ5年しかたっていません。地域住民の安全を守らなければならない自治体や、我が国の活力を支え続けなければならない企業などは、危機管理が重要なことは理解しても、どうすればいいのかその方法論に馴染んでいないように見受けられます。とりあえずBCPを作った会社はまだいい方で、多くの会社はまだ、怖いものは見ないようにする、いわゆるオーストリッチ症候群にとらわれています。
 BCPを作った多くの企業も、作ったことで安心してファイルに閉じて金庫に入れてしまっています、自治体も防災訓練の実施方法もまともに知らない担当者が一生懸命になって空振りしているところが少なくありません。

このコラムでは、企業、病院、自治体、政府機関を問わず、あらゆる組織の経営トップの皆様に、危機管理をどう考えるのかについて役に立つ情報、ヒントなどを様々な分野のトピックからお伝えしていきます。

危機管理は危機を凌ぐことができればいいというものではありません。真に精強な軍隊が敵の奇襲を受けても毅然と対応してこれを撃退するだけでなく、返す刀で撤退する敵を壊滅させてしまうように、絶体絶命の危機を躍進の機会に変えることができてはじめてしっかりとした危機管理だといえます。そのためには、的確な意思決定、優れたリーダーシップ、しっかりとしたプロトコール、そして効果的な訓練が必要です。㈱イージスクライシスマネジメントでは、それらをシステム化し、いかなる組織にも適応することのできるパッケージを用意いたしておりますが、最後に必要なのは、経営トップの皆様の危機管理に挑むという覚悟です。

どうか、当コラムを参考にして、脅威に屈しない組織を育て、いかなる事態にも毅然と対応できる経営者として、その責任を全うして頂きたいと願っています。

 

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