第31話 社長が”労働組合”から学ぶべき本当の理由
中小企業の社長にとって、労働組合(以下、組合という)ほど縁遠い組織はありません。未払い残業代と言った労務トラブルが原因となって、突然、組合結成通知や労使交渉の申し入れを受けてはじめて、その存在を知ることの方が一般的でしょう。
たとえ、社内に組合があっても、「組合があると社員との自由なコミュニケーションを阻害される」、「組合は会社に不当な要求ばかりをする組織だ」と警戒している社長も多いと考えられます。
私は、今回のコラムで、「もしもの時の組合対策」や「社内組合との付き合い方」を皆さんにお話ししたい訳ではありません。中小企業の社長にとっては「厄介者」にしか感じていない組合が、何を隠そう、「事業を発展させるための、大変興味深い”特徴”を有している」という事実をお話したいと思います。
さて、本題に入りましょう。
組合には、現場の実態を把握したり、課題解決策を論議したりするための場(委員会や会議等)が用意されています。前述の”特徴”とは、この「論議の場」と「論議によって解決策を導き出し実現するプロセス」に内包された、次の6つです。
一番目の特徴・・・組合は、組合員全員が自ら論議して決定した価値基準に沿った活動目的を掲げています。「働きがいのある職場を作ろう!」、「労使はお互いの利益に関心を持とう!」、「組合活動を通じて人材を育成しよう!」といったものです。
そして、こうした目的が、単に、組合幹部から与えられたものにならないよう、対話活動や研修などを通じて、組合員の腹に落とし込まれる取り組みが重視されています。活動目的が組合員自身のものとなってはじめて、「やらされ感」ではなく、当事者意識を持って論議に参加する事ができるからです。
二番目の特徴・・・論議の場には、適材適所で選出された組合員が集まってきます。彼らは、組合という立場に身を置いた時点で、上司と部下といった上位下逹の関係性や、部門単位の閉鎖性を突破し、より多角的な視野から、本音ベースで課題解決のための論議ができるようになります。
三番目の特徴・・・選出された組合員は、本人が所属する職場の実態をつぶさに洞察し、課題を把握していることが選出条件ですから、論議のスタートラインに立った時点で、机上の空論ではなく、具体的かつ本質的な論議ができます。
四番目の特徴・・・論議された課題や解決案は、組合提言や要求にまとめます。それらを基に会社と協議を重ねて、経営戦略や労働条件の決定に組合の意向を反映するのです。つまり、組合は、労使双方にとって説得性や納得性が高く、この方向性でやろう!と一致できるような形に、課題や解決案を理論化、モデル化するのです。
五番目の特徴・・・組合提言や要求を実現するために、仕事が終わってから、またはせっかくの休日に、手弁当で、組合員との対話を積み重ねます。もちろん、組合内部だけではなく、経営者や管理職とのインフォーマルな対話の機会も持ち、抵抗勢力を抑え、味方を増やす説得活動を徹底的に行うのです。
六番目の特徴・・・こうした組合活動をリードする場に、組合経験は浅いけれど、将来が有望視される若手を、敢えて参画させることもあります。多くの組合員が、上記一番〜五番目までの取り組みができるようにするための、人材育成の一環なのです。
これらを要約すると次のようになります。
【組合が有する特徴〜要約】
1.目的の共有→2.立場を離れた本音の論議→3.机上の空論ではない、現場に根ざした論議→4.説得性・納得性のある提言・要求(=戦略)の立案→5.戦略実現のための説得活動→6.人材育成。
いかがでしょうか?この6つの特徴、中小企業の社長であれば、書籍や研修等、どこかで見聞きしたことがあると思います。
会社ではなく、組合が、こうした特徴を組織の血肉とし、労働運動を進めていると思うと、組合に対する認識が変わりませんか?
この特徴が、なぜ「事業の発展」に寄与するのか。組合としてではなく、会社としてどうやって、この特徴を活かして行けばいいのか。その話は次回にしたいと思います。
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