第30話 社長が謙虚な気持ちを忘れてはならない本当の理由
「ソノダさん、もう諦めました!今度こそは、この事業を成功させたいので、私一人で頑張ります。社員には期待しません!」
社員50名ほどの顧問先の社長の言葉です。定例のコンサルティング会議に先立って、社長から「新事業を推進するための、役職員の役割分担を明確にしたい・・・」という要望をお伺いしましたので、当日は、役割分担の前提となる事業の枠組みや、軌道に乗せるための打ち手、および具体的業務について、全員で共有することにしました。
ところが、これまでの情報共有の不足からか、社員たちの新事業に関連する基礎知識もかなり不足しており、社長が描くビジョンを、すんなり腹に落とし込める状況にありませんでした。ついに、社長からの質問に的確に答えられない社員の姿に耐えかねて、社長はサジを投げてしまったのです。
この時社長は、新事業も、社内のマネジメントが上手に機能せずに、失敗してしまった前例と同じ轍を踏んでしまうのではないか、という強烈な不安に囚われていたのだと思います。
それならば不安を払拭するために、しっかりマネジメントすればいい・・・ということになりますが、中小企業の社長の中には、他に誰も頼れる仲間がいない中で、自分一人で考え決断し、事業を成長させてきた成功体験があるが故に、第三者(社員)をマネジメントすることがとても苦手で、劣等感を持つ方も少なくありません。
顧問先の社長も、まさしくこの成功体験を持つ方で、社長一人で新事業に注力するだけなら、上手に進めていく自信はあっても、現場を監督しながら、既存の事業を運営しつつ、新事業に社員を参画させ、社員の成長も支援する・・・こんな器用なことは自分にはできない・・・という苦手意識・劣等感を持っているのです。
そして、社長自身の”劣等感(=マネジメントへの不安)を社員に悟られたくない”という深層心理が働いてしまって、社員への積極的な働きかけを躊躇してしまいがちです。それどころか、経営者としての威厳を保つために、社員に対して傲慢な態度をとることによって、劣等感をごまかしてしまう社長も少なくないのです。
特に、平時から社内のマネジメント体制に問題意識を持ち、社長の劣等感を刺激する優秀な社員こそ、社長のスケープゴートになりやすいものです。つまり、何か改善提案をしてもことごとく潰され、「お前はいつも俺の言うことを聞かない!」と罵声を浴びせられるようになります。
そうした優秀な社員は、徐々に働く意欲を無くし、経営者に敵対意識を持つようになります。もちろん、優秀な彼らは、そんな本音をおくびにも出さず、面従腹背を職場で実践し続けます。業務の停滞・混乱は、ここから始まるのです。
面従腹背ならまだしも、そうした社員が結集し、いつのまにか労働組合が結成され、労働争議に発展したりするのです。
これも全て、劣等感が生んだ傲慢なマネジメントが行き着く結果なのです。
経営者やマネジメント層は、こうした苦手意識・劣等感にしっかり向き合って、謙虚な気持ちになって、上手にマネジメントをしていくための修練を積むしかないことを肝に命じておく必要があります。
修練は一朝一夕には成就しません。10年かかることもあるでしょう。
弊社は、蓄積されたノウハウによって確立されたマネジメントの仕組みを、顧問先に導入し、社長がその仕組みを継続的にブラッシュアップさせて行くことで、潜在意識の中にある劣等感を客観視し、謙虚な気持ちと自信を持ってマネジメントができるように、これからも側面支援していきたいと考えます。
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