第28話 平時の”基本の徹底”が大切な本当の理由
「ソノダさん、労働基準監督署への書類提出が完了しました。色々と勉強になりました・・・」
顧問先の社長の言葉です。時間外労働・休日労働協定や雇用契約書といった基本的な文書が未整備だったため、労基署から是正勧告を受けていたのですが、無事に受理されたとのことで、私も胸を撫で下ろしました。
さらに、今回の一件で、私自身、驚いたことがありました。
労基署への説明を担当した管理職が、自分で本を買ってきて、労働時間に関する勉強をし、法や就業規則に則って、実用的な勤務表・工程表を作ってきたのです。就業規則には、予め1カ月単位の変形労働時間制が定めてあったので、業務の繁閑を考慮して、長時間と短時間の勤務時間の組み合わせや、休日・休暇のアサインに至るまで、彼なりの工夫が施されていました。
是正勧告への対応で、相当な精神的負担がかかり、通常業務にも多大な支障を来たす状況に直面したことが契機となって、もう二度と同じ轍を踏みたくないという危機感が、彼の背中を押したのです。
そして、当該管理職は、ちゃんと法律を勉強して、最低限の枠組みを理解すれば自分たちの工夫次第で、改善の糸口が掴めるということを、肌で感じたようです。
この勤務表・工程表が、当該管理職を中心に、現場の社員によって活用され、毎月毎月、QCDを向上させるための新しい知恵が積み重なっていけば、社員全員が、当該管理職と同様のことを肌で感じて、チームとして、自律的に課題解決できる組織に育っていくことでしょう。
当たり前のことですが、社員の労働時間管理や、職場の整理整頓といった基本中の基本ができている組織は、それができていないことで発生する余計な仕事(例えば、今回のような是正勧告への対応、法律違反や協定違反で社員や労働組合から訴えられること等)に、貴重な業務時間を割かなくてすみます。
そして、何よりも肝要なことは、基本的な業務が滞りなく遂行できるようになると、自分たちにもできる、次の改善に取り組んで職場を変えてみたい・・・という自信や挑戦する気持ちが、自ずと社員や現場に芽生えてくるということです。
ところが、経営者や管理職の多くが、まさか自社が労基署から是正勧告を受けることなどあるはずがないと高をくくり、労働組合が吸い上げた組合員の声も無視して、基本を徹底しないままに、生産性や業務品質を高めるための、より高度なマネジメント手法を導入しようとします。
是正勧告や団体交渉を回避するために基本を徹底しろ・・・と言っているわけではありません。そなことになったら、身も蓋もないということを想定しつつ、更に、社員の自信と挑戦する気持ちを芽生えさせるために、基本の徹底が必要だということを、経営者や管理職は肝に銘じておかねばなりません。
平時の勤務表・工程表の作成自体は現場に丸投げしておきながら、どうやって、残業削減や”家庭と職場を両立する職場づくり”が実現できるのでしょう。平時の職場を整理・整頓する癖がついていないままに、どうやって、高度な文書管理システムの導入・運用が実現するのでしょう。このままでは、現場に混乱を招き、改善活動はすぐに頓挫するでしょう。
こうした経営者や管理職の、”基本の徹底がないままの改善活動”が、社員に対して、なかなか成果が出ないことへの失望感、自分たちにはできない・・・という自信の喪失感を植え付けてしまいます。
そうした失望感や喪失感の積み重なりが、無責任な経営者や管理職への怒り・敵対心につながり、ついに、労働基準監督署への直訴や、労働組合との団体交渉に発展していくのです。
「平時の基本の徹底→社員の自信・挑戦心の芽生え」こそが、経営者や管理職の改善に対する想いを下支えし、実現するのです。
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