育ったころに独立、顧客とマニュアルを持って・・・その真の原因と対策
「矢田先生、マニュアルの整備を進めると、それを持って独立をされてしまうことが心配です」
先日のセミナー後の質問です。
矢田、お応えさせていただきました。
「結論から言いますと、仕組化が進むと、独立はほとんど無くなります。」
仕組みで回っていない会社では、社長や一部の優秀な人材が持っているノウハウが、ボトルネックになっていることが多くあります。そのため、そのキャパ以上に仕事が取れないということになり、事業の成長の大きな阻害要因になります。
そのため、そのノウハウをまずは見える化し、その他の社員も出来るように、仕組みを整備します。そのために、ツールとなる提案書やヒアリングシートやマニュアルを整備します。そして、それを短期間で身に付けられるように訓練体制を整えます。
まさに、「量産」をするための仕組みづくりです。たまに、「自社の高度なノウハウをマニュアル化するのは無理」と言う社長がいますが、私の経験上、出来なかったケースはありません。
そしてこの取組みは、社員に自社の貴重なノウハウを提供することを意味します。その社員に稼いでもらわなければいけないわけですから、避けては通れません。
しかし、その結果、その社員に退職、独立されたのではたまりません。そして、作成したツールをこっそり持っていかれる。そのうえ、そのままその業界でライバルになります。
その社員を訴えたり、退職時に誓約書をとったりすることは可能ですが、根本的な原因を解決しない限り、この問題は何度も繰り返し起きることになります。
その根本的な原因とは、下記になります。
「顧客が、人についているから」
仕組みが出来る前の状態は、顧客は、社長やその一部の優秀な人材についています。ありがたいことに、社長名指しで案件の引き合いがきます。しかし、その状態が続けば、当然、社長のキャパの限界がきます。そして、その段階で多くの社長は次のように考えるようになります。
「優秀な人材が欲しいなあ」
「自分の仕事の半分でも持ってくれる社員がいてくれれば」と。
そして、その念願が叶い、若い勘のいい人材を得ることができました。そして、その人材を育てるべく、現場に連れていき、熱心にそのノウハウを教え込みました。
2年経ち、その人材は、ある程度の案件を自分一人でこなせるようになりました。そのおかげで、社長も自由な時間が取れるようになりました。その人材に現場は任せ、社長は次の展開を考えていました。
そして、ある日その人材が退職願を持ってきました。理由は、独立です。社長は、今までのものが崩れ去るような感じを受けます。彼はそれだけではなく、自分の担当している仕事も一部持っていく、その顧客も了承していると言うのです。
人を育て、仕事を渡し、自分は経営に専念する。これを目標にやってきました。一時は、その通りうまく流れるようになりました。しかし、社長は心の中で、このことを一番恐れていました。
ここには、根本的な間違いがあります。
それは、「仕組み」になっていないと言うことです。社長の膨大な現場レベルの実務が、仕組みに移ったのではなく、ただ単に、「人」に移っただけなのです。ですから、根本的には何も解決はされていません。
仕事を増やせば、社長の代わりに、その人材がキャパオーバーになり、替わりも効かず、休めなくなるだけです。
社長の願いである、「優秀な人材が欲しい」、「自分の仕事の半分でも持ってくれる人材がいてくれれば」という考え方自体が根本的に間違っているのです。そして、「社長」についていた顧客は、自社の案件のために汗水かいてくれる毎日顔を合わせる「その人材」に付いたのです。これも社長の狙いどおりです。
このようなケースは、大設備(資本)を必要とする事業では起きにくいと言えます。逆に、人のサービスを主体とする事業では、小資本でスタートが切れるために、独立しやすい傾向にあります。
・設備業 ・販促物作成 ・美容院 ・健康院 ・工事業 ・士業 など
彼らにも、当然迷いはあります。自分で独立することには、大きなリスクがある事も感じます。そして、身内の反対もあります。社長に対する恩義も感じています。でも、このままこの会社で続けても、大きな発展を感じることができません。
給与は安い、毎期の昇給額も低い、後輩も入ってきません、会社は小さいまま。昔は現場で一緒に汗を流した社長は、現場にめっきりこなくなりました。そして、顧客からは「独立はいつだ?」と、冗談か本気か解らない言葉をかけられます。
少し「自分ならできるのではないか・・」とも思い始めました。・・・・決して彼が悪いわけではないのです。
顧客が、人についている状態ではいけません。自社と顧客を繋げているものが「人」であってはいけないのです。
顧客がサービスに付くようにしなければなりません。自社と顧客は「サービス」で繋がっていなければなりません。
そのためには、すべての仕組みを作ることです。
- サービスを顧客が正しく認識できるように商品化します。
- 紹介や社長の知り合いではない、集客から顧客化する仕組みを作ります。
- 会社として、仕組みでサービスを提供する状態にします。
- マニュアルや帳票などで、サービスの定義付けと質を安定させます。
- スタッフの訓練体制を整備します。
そして、
- より分業化を進め、一人ひとりの業務をより専門化します。
- より大きな投資をし、集客し、よりいい仕事、より大きな売上げを得ます。
その結果、社員の給与も増えます。後輩も入ってきます。そして、自分の将来に安心を持てます。 この結果、その優秀な人材は、組織の有り難さと、その能力を組織の中で発揮することに喜びを感じます。また、顧客にとってもそれは喜ばしいことです。
顧客は「いいサービスを安定して受けたい」のです。問題さえなければ、今まで通り安定した取引先とこれからも継続したいのです。
採用の方でも、この段階になってくると、「組織(安定)志向」の人材の応募が多くなります。今までのような「野武士」のような人材はこなくなります。
独立される可能性は、仕組化しない限り、無くなりません。それどころか、その人材が優秀であるほど、独立の可能性は高くなります。
再び「退職」を伝えられた時の、ショックを繰り返さないでください。仕組化が進むと、独立はほとんど無くなります。
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