第26話 社長が風土改革に失敗する本当の理由
「ソノダさん、風土改革プロジェクトは、私たちをもっと働かせるためにやっているんでしょ。」
社員300名程の顧問先の中堅社員の言葉です。当該プロジェクトは、現場の管理職が、会社に非協力的な社員の態度を改革し、業務停滞を打破しようと立ち上げた、現場発のプロジェクトです。しかし、当の社員たちは、メンバーが本当に自分たちの声を代弁してくれるのか、出された意見やアイディアはちゃんと経営者に届くのか・・・等々について疑念を持っているようです。
つまり、このプロジェクトが、現場で起こっている事象をありのままに受け止め、問題の本質をちゃんと掘り下げて、最終的には、経営者が現場のことを理解した上で意思決定してくれる・・・と実感していないようです。「何で今、私たちが、このプロジェクトをやる必要があるのか・・・」という一番肝心な点が腹に落ちていないのです。
管理職が説明を行ったにもかかわらず、プロジェクトを実施する意義について、社員からの共感を得ることは、何故こんなにも難しいのでしょうか。その答えは次の言葉にあります。
それは・・・「よかれ」です。
現場の管理職は、社員のやる気を起こさせるために、「よかれ」と思って、様々な取り組みを実施する傾向にあります。特に業務が停滞や混乱していたり、経営状態が悪化していたりする場合、雨後のタケノコのように、類似したプロジェクトや○○活動なるものが出てくるものです。「あいつは、のほほんとしている」と上位の管理職や経営者に悪い評価をされないように、管理職自身の保身のために実施するケースも少なくありません。
確かに、現場を一任された管理職の情熱や焦りもよくわかります。しかし、このように、「よかれ」と思って立ち上げたプロジェクトや○○活動は、絶対に守るべき点を抑えておかなければ、社員からの共感を得られず、徒労に終わってしまうばかりか、社員からの信頼さえも失墜してしまうことを、肝に銘じておかなければなりません。
なぜなら、「よかれ」という発想だけでは、「その管理職、その現場にとって、取り敢えず、よいこと」という視座から抜け出せません。全社的な視座で見てみると、特定の職場だけが狙い撃ちされているとか、経営戦略や事業計画との関連性が不透明だとか、他に優先すべきことがあるだろうとか、マイナス面ばかりがクローズアップされやすいのです。
当たり前のことですが、こうしたプロジェクトは、社員を現場や本社の意思決定に参画させ、彼らの中で暗黙知となって眠っている体験や知恵を引き出し、新しい戦略に練り上げて、経営に活かし、会社と社員の相互成長を促すためにあります。
ですから、たとえ現場発のプロジェクトであったとしても、公平性や必然性が担保されるよう「全社的な社員の経営参画システムの一環」として推進しなければ、説得力に欠け、社員の納得感は得られません。逆に、社員の目には、プロジェクトを推進すること自体が目的のように映ってしまって、社員の経営参画意識が低下する危険性をはらんでいるのです。
また、管理職が「全社的な社員の経営参画システム」に対する強い意識を持たないで、「プロジェクトを推進できないのは、やる気のないワガママ社員がいるからだ・・・」と逃げてしまったら、会社に敵意を持つブラック社員の思うツボです。ブラック社員は、プロジェクトは経営者や本社の利益のためにやっている、現場社員の劣悪な労働環境は何ら改善されないばかりか、さらに働かせるためにやってる・・・と、自分に都合の良い話ばかりを流布し、社員の経営参画意識を根こそぎ奪い去ろうとするのです。
加えて、社内に労働組合がある場合、労使交渉の場において、プロジェクトの目的、推進方法、さらには管理職の覚悟の程を問われる可能性は非常に高くなります。その時に、会社側がしどろもどろになってしまったら、現場発の「よかれ」と思って始めたプロジェクトが、全社的な労使紛争の種になることだってあるのです。
経営者や管理職は、このような社内情勢があることも踏まえて、「全社的な社員の経営参画システム」を強く意識して、慎重かつ大胆に行動する必要ながあるのです。
「よかれ」と思ってやることが、全体的な利益を損ねるかもしれない・・・その危機感を持っていますか?
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