第23話 労組のない中小企業の社長が ”労使紛争” に直面する本当の理由
「ソノダさん、退職した社員から、未払残業代の請求書が郵送されてきました。しばらく様子を見てみようと思います。」
社員50名ほどの顧問先の社長からのご相談です。”まさかあの社員が、真剣にこんなことができるとも思えないし、残業代については、ちゃんと対応をしてきたので、今は具体的な対応は見送りたい・・・”とのことでした。
そこで私から、”ダメです!速やかに対応してください!”とお伝えしました。なぜなら、元社員は、専門の弁護士や社外の労働組合組織・・・いわゆる”労使交渉のプロ”に相談して、請求書を郵送してきた可能性が排除できないからです。
もしそうだとすれば、その後に待ち受けている、訴訟・裁判や労働組合との団体交渉に、社長が巻き込まれる可能性も十分に想定できます。法的にも拒否することができません。それならば、社長にとって不利な状況に陥る前に、労使紛争処理を専門とする弁護士や社会保険労務士などの専門家と事前の準備を行うことが、早期解決のための鉄則と言えるのです。
インターネットなどを通じて、社員側も容易に、弁護士や社外の労働組合の情報を見つけ、接触できる時代になってきています。1通の請求書の背後にある組織的な動きを甘く見てはならないのです。
さらに、こうした一部社員の起こした行動が、現場全体に飛び火し、エスカレートしていくことが最も危惧されるところです。
例えば、”俺も社長に対する不平不満が溜まっていたんだ!”という社員たちが集まって、社外の労働組合の支援を受けながら、社内に労働組合を結成するケースも多くなってきています。そうした労働組合と良好な労使関係を構築していくことは、大変な知識と労力を要するものです。本業をよそに、明けても暮れても、団体交渉という日々が待ち受けているかもしれないのです。
それでは、現場全体に飛び火させないためには、どのようにマネジメントしていけばいいのでしょうか。その答えは、次の言葉にあります。
それは・・・屈辱と敵対・・・です。
日頃から社長が、自分自身のマネジメント力の低さを隠そうとして、社員をスケープゴートに選び、社員のミスを周囲に言いふらす、社員の仕事をバカにするなどの屈辱的な対応に終始していると、社員の社長に対する不信感は沸点に達して、ついには、社長に敵対意識を持つようになります。
そして、未払残業代などの問題が発生した場合、就業規則への記載漏れや、賃金計算ミスと言った事務的なことが原因だとしても、敵対意識を持つ社員は、”どこまで俺たちを蔑ろにしているんだ。日頃の恨みを晴らすのは、この機会しかない”と確信し、社長を懲らしめたいという怒りにかられるのです。
加えて、職場に潜入していた労使交渉のプロや、今回の事例のように、一部社員が接触した社外組織が、そうした社員たちを扇動して、時には会社を廃業に追い込むまでに、激しい裁判闘争や労働争議に動員することもあるのです。
つまり、社長のマネジメント姿勢ひとつで、善良な社員もブラック社員と化し、本当は、社長と一緒にやっていきたかっただけなのに、裁判のための裁判、労使紛争のための労使紛争という、思いもよらない横道に逸れて、会社で働く意義を見失ってしまうのです。
このような不幸なことが起こらないよう、社長は、現場に対して屈辱を与えるのではなく、敬意を表して接する、マネジメントする癖をつけるしかないのです。敬意を表する方法はいくつでもあります。現場を歩く、職場を整備する、情報を開示する、社員の経験や知恵に耳を傾ける・・・等々です。
そうすれば、社員も、自分は社長にとって重要な存在であると感じ、社長の夢を実現するために、自律的に課題解決するプラチナ社員に育っていきます。
そして、万が一の時のために、ブラック社員をバスに乗せない(会社に入社させない、現場に放置しない)人事採用制度や、ブラック社員につけ込む隙を与えない就業規則を整備する、いざという時に相談できる弁護士や社会保険労務士との関係を構築しておくなどの、会社を防御する対策の構築も急務です。
未払残業代の請求書。社長のマネジメント姿勢を内省し、より強い組織を構築するための、貴重な警告だったのかもしれません。
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