「社長の情」は、会社のためならず?
「ウチの社長、最後の最後で情が出ちゃうからな~。はじめに厳しく出ちゃうと、ちょい優秀なのは辞めるし、ヨワッチイのには、すがられるしー、、、、、。」
医療介護施設運営会社の総務部課長kさんのぼやきのような、本音の一言です。
この時期 賞与の支給額を検討するのが、総務課長の仕事です。
「社長から、数字のことはノグチ先生に聞いておいてと言われました。」
と話しはじめました。
もちろん、労働分配率の計算方法はお伝えするのですが、それよりもKさんの心配顔をのぞき込んで 聞いてみると、出てきたのは「社長の情」についてです。
医療介護の世界は、人手が頼りです。
人がいなければ、どんなすばらしい施設を作っても開業できません。
開店ができなければ、当然売上もなし。
当然ですが、人が人を診療し・介護する、のですから、国・地方行政団体はその施設が十分な医療・介護をできるか厳しく審査して認可をおろします。
認可をおろした後も、基準が充分に満たされているか、調査を行います。
人材の基準は、医者・看護婦・介護・施設運営の事務まで細かなものです。
さて、人材基準を満たして運営を開始したとしましょう。
人は、時に病に倒れます。子供が病気・親の介護・冠婚葬祭・加えて年次有給休暇等々、ロボットのように働き続けることはできません。余力が必要になります。
介護の現場で、この余力が不足しているのは皆さんご承知の通りです。
そもそも人員が足りない。
その上退職者が出る。
だからもっと募集人数を増やす。
実は、医療介護の現場だけでなく総務部門もへとへとに疲れています。
日本のお役所は、国民の管理を「従業員だから」と、会社に丸投げしています。
賃金規定・就業規則・労働契約に始まり、日々の勤怠管理・給与計算、雇用保険・労働保険の手続き・社会保険の加入・所得税や住民税を徴収して納めて等々
人が辞めて・入社する、とその仕事は社員数の2倍。
仕事は、終わりの見えない「倍倍ゲーム」のようです。
社長さんは、人材の定着率をあげる対策をいろいろ考えました。
従業員が一番気にするものそれは「給与」、目に見える「給与明細」です。
会社としても業務によい影響を与える数々の「手当」の設定です。
採用面接の最後は社長です。
応募人数が減ってくると、どうしても採用確定したくなるのが人情です。
基本条件で金額設定していたのに、鶴の一声が加算されます。
基本給は、入社年度や地域によって違います。その数10種類。
各種の手当もその基本給によって計算されるので、700人の給与計算は、まるで一人ずつ金額を拾っていくようなスゴ技となります。
施設には、それぞれの施設長がおり、人の評価もそれぞれ感があります。
よりよく評価してあげようタイプもいれば、職務の水準を高く持ち評価する施設長もいます。自分では判定を避けている風な施設長もいます。
そこへ賞与となると、業績はどう反映されるべきなのか?
課長は資料をそろえて社長にあげるまでが仕事だ、としても、その資料が社長の判断を左右しかねないから、とても不安になります。
基本給×月数という方式は、基本給が、従業員の職能給として妥当である事が前提。
入社時期や、施設の場所で基本給が違う場合は、この方式では無理です。
しかも、施設ごとの貢献業績は違うのだから、それを全社一律とは、、、?
なによりも悩ましいのは、「もっと募集人数を増やして!」社員数だけが伸びて、賞与の支給原資である利益は縮小し、それが、社長の「もっと手取りを増やして」「社員の定着率を上げたい」という「社長の情」と真逆の結果を生む危険を感じるからです。
人を入れても、すぐには現場で使えません。
理由は、簡単。
人が足りてない現場に「新人」をいれても、この「新人」を職場で欲求される基準まで職務訓練をする人材が、この現場にはいないからです。
人の足りていない現場で仕事を全うしようとしたら、「新人」を訓練する時間がないからです。
医療介護の分野だけではなく日本の経営者の多くが、この「社長の情」と、「人件費の上昇」で苦しんでいます。人件費の上昇を放っておけば、結果、会社は立ちゆかなくなる、のです。社長が望んだものと 真逆の結果です。
冷たいようですが、「経営の理」、利益を出さない限り、社員を増やすことはできないし、地域・国に医療介護で貢献することもできないのです。
現在の状況を、数字でハッキリ見る、ここから始まります。
数字は、推移と傾向を現します。
3期・5期と比較をすることで、会社の業績推移と社長の労働分配率傾向がハッキリします。
K課長さんは、在職10年目。
全体を見渡す事ができる人材です。
社長の気性も、情も、懸命さも、全部含めてついて行く人のようです。
話し終えると、満面の笑顔で「社長は、本当に情のある人です。」と嬉しい一言をいただきました。
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