第22話 社長こそ ”疲弊した現場を再生できる” 本当の理由
「ソノダさん、社員が退職するので現場が回りません。業務を見直して必要人員を確保したいとは思うのですが、”私の仕事ではない”と社員から反感を買わないか心配なんです。ただでさえ、退職や休職が重なって現場には疲弊感や不安感が充満していますから・・」
顧問先の社長の言葉です。現場では、最低限の出面を確保することも難しい時がある様で、社員たちが何とかやりくりして、急場をしのいでいるとのこと。現場をこれ以上、疲弊させないためにも、社員感情を慮ってばかりいて、現状を放置するわけにはいきません。社長が陣頭指揮をとって、現場を立て直す以外に解決策は残されていないようです。
事実、多くの社長は、事業拡大に奔走する一方で、基本的な業務の流れや出面の決定を現場に一任しています。社長自身が、現場の実態を観察して、会社の成長ステージに合わせて、本来あるべき業務の流れへと”整流化する”取り組みがなされないケースが多いのです。
つまり、社員感情に配慮しているようで、実は、社長自身が、現場の業務の流れ、出面、品質に確信が持てなくなり、現場の再生に着手しようにも、どこから手を付けたらいいのかわからなくなっている・・・というのが実状なのです。
また、社員の方も、”現場に一任”と言えば聞こえがいいものの、業務の停滞や品質低下の責任を、”社員の主観でやったことだから”と、自分のせいにされ、尻拭いをさせられるのではないか・・・と疑心暗鬼になっています。ですから、社員は自己防衛本能を働かせ、率先してお互いに助け合ったり、業務改善などしない方がまし・・と思っています。
それでは、社長が現場に確信を持ち、社員を巻き込んで、現場を再生していくためにはどうすればいいのでしょうか。その答えは、次の言葉にあります。
それは・・・”螺旋階段”です。
繰り返しになりますが、現場が自律的に改善策を打ち出せない以上、この事態を打開できるのは社長、経営陣だけです。
実際には、業務整流化のルールに則って、新しい業務の流れを現場に明示する(言語化する)ところから始めます。社員には厳しいこと、新しいことを強いることになるかもしれませんが、社長が説明して社員全員で共有することこそ、社員が現状と解決策に納得し、腹に落とし込んでくれる早道なのです。
そして、月次の勤務表や工程表の作成段階で、社員の事情(例えば、育児や介護をしている等)を考慮して、流れが滞らないよう微調整するのです。諸事情が予め反映された勤務表は、机上での予行演習(これもまた、言語化)がなされている分、その後のイレギュラーに強いものです。
次に、社員が日々の業務を通じて経験したことや感じたことを、社長や経営陣が職場巡回や朝礼・終礼などでヒアリングする癖をつけます。その中で業務改善のヒントがあれば、月例会議や業務改善会議の場を用意して、社員の知恵を繋ぎ合わせ、また業務を整流化し明示していくのです。
こうした・・・標準化→業務で実行→経験のヒアリング・収集→新たな知恵の発見→標準化・・という取り組みを、時には社員の反発に遭い、行きつ戻りつしながら、まるで”螺旋階段”を登っていくように実行し続ける・・・これこそが、社長が現場に確信を持ち、社員を巻き込みながら、現場の業務遂行力を持続的に高めていくために肝要なことなのです。
社長が、”そんなことは俺の仕事じゃない!”と開き直って、一度立ち止らず、根本的な業務の流れの整流化をしなければどうなるでしょうか。
今後も、経営者と現場の双方が、もぐら叩きのごとく発生するイレギュラーへの応急処置に終始してしまうでしょう。社員は残業、休日出勤、シフト変更が常態化し、社長は就業規則や労使協定違反を問われて労基署に呼ばれる・・・というオマケまでついてくる可能性があります。
もし、経営者を懲らしめたいと企むブラック社員が潜んでいたり、外部の組織が介入してきたりすれば、”現場の社員のために・・・”という大義名分を掲げ、意図的に、社長を労働争議の場に引きづり込むかもしれません。そうすれば、組織全体が疲弊しきって、ついには業務が混乱を極め、事故が起こっても不思議ではない状況に陥ってしまうのです。
退職者が出たから現場が回らなくなったのか・・・本当の理由を考えてみる必要がありそうです。
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