第19話 社長の想いを現場に直接伝えるべき本当の理由
「お金の話ばかりだと、現場は社長に不信感を持ちます・・・」
ー社員30名ほどの顧問先の現場責任者会議における、主任(Aさん)の発言です。
今回から、月次の売上目標と増収策について具体的に明示したところ、Aさんが、「これまで売上目標の話なんてしたことがないのに、唐突にお金のことを言われても当惑します。現場の社員も同じ反応だと思います。私だって色々苦労して職場をまとめているんですよ!・・・」と、堰(せき)を切ったように語り始めました。そして、ついに前述の台詞を口にしたのです。
会社や社員のために、経営状態やこれからの舵取りについて、正直な想いを吐露しようと、周到な準備で会議に臨んでいた社長でしたが、カッと目を見開きAさんを睨みつけてしまいました。心中にこみ上げてくる、やる方ない怒りを抑えるのに精一杯だったのでしょう。
会議後、私から社長に「社長、今回の会議は大成功でしたね」と申し上げました。案の定、社長は、「現場責任者から私は信用できない・・・と、あれほど露骨に言われたんですよ。どうして大成功と言えるのしょうか!冗談はやめてくださいよ!」と、心穏やかでない様子です。
”大成功”といえる理由は、次の言葉にあります。
それは・・・”摩(す)り替え”という言葉です。
”摩り替え”はブラック社員の常套手段です。社長に敵対し、現場を意のままに乗っ取ろうと画策するブラック社員は、自分に都合の良い方向に、常に論点を”摩り替え”ようとします。
そうです。Aさんも論点を摩り替えたのです。
つまり、Aさんが、お金(売上目標)に絡めた発言をしたのは、”売上偏重→現場にしわ寄せ→社員の反発”という、見慣れた対立の構図を引合いに出し、”売上目標をいかに達成するか”という論点を、”お金の話だけでは、現場は社長についてこない。”という論点に摩り替えて、Aさんの本音を伝えたかったのです。
それでは、Aさんの本音は何でしょうか。それは、「社長として現場のマネジメントに真剣に取り組んで来なかったのに、今さら、口出しされても困る。これまでどおり、私の思うようにやらせてくれ!」ということです。”お金”のことなんて、自分の給料以外、関心すらないのです。
社長に「大成功でしたね」と私が申し上げたのは、これまで単なる報告会となっていた定例会議を一変させ、社長の強力なメッセージを発信したら、社長の想いに共感せず、自分の都合ばかりを優先しようとする、Aさんの本音が引き出せたからです。これまでも疑念はありましたが、責任者としては不適格という確信を得ることができたからなのです。
余談ですが、Aさんタイプのブラック社員はまだ可愛い方です。なぜなら、論点の摩り替えの矛先が社長に向かっているからです。「私を信用して、私を見て!」と駄々をこねている小学生と同じです。
売上目標達成→摩り替え(対立の構図へ)→私に現場を任せなさい(→社長へ)
一方、論点の摩り替えの矛先を現場に向けているブラック社員こそ極めて危険な存在です。彼らは、社長と社員の信頼関係が瓦解するように、次のような論点の摩り替えを行います。
売上目標達成→摩り替え(対立の構図へ)→社長は悪者だ(→現場へ)
いかがでしょうか。貴社には、こうしたブラック社員はいませんか?もしいるとすれば、それも責任者や監督層という現場の要にいるとすれば、社長の想いは、常に真意とは異なる内容に摩り替えられ、現場に周知されているかもしれません。Aさんタイプであれば、そもそも現場に周知されているか危惧されるところです。
社長はこの現実を受け止めて、強いメッセージを発信続けるだけでなく、メッセージに込めた真意を、正確に現場に届ける工夫をし続けなければならないのです。
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